第六話
「勝負だよ秋哉君」
「やっぱりそうきたか」
「秋哉君と会ってから勝負事は負けっぱなしだからね。そろそろここで意地を見せたいよ」
川での魚掴み。缶蹴りの走り合い。そのどちらも俺は海乃に勝っている。態度に表さなかったがどちらも相当悔しかったのだろう。
「それでどんな勝負にするんだ? 体に水が触れたら勝ちとか?」
なんですんなり勝負を受けているんだろうと思ったが、もう引き返せそうにないので勝負を受けることにした。
「その通り。ただし体の部分によって点数が違うことにする。顔が十点、足が五点、体が一点ね。バレーコートみたいに線を引くからそこでしか移動できないこと。雪奈スコアお願い」
「またそうやって私をこき使うんだから」
渋々雪奈は携帯を取り出しメモを開く。
「制限時間は三分ね。よーいスタート!」
海乃の合図で撃ち合いが始まる。海乃の水鉄砲は小さいが水のスピードは速かった。
「海乃三点と……」
足に当たってしまい点数がカウントされる。顔を狙おうと思ったが、女子だしなあと踏みとどまる。対照的に海乃は俺の顔ばかり狙って、たまに足を狙ってくる。
「なかなかやるね」
「狙いがわかりやすいからな。目線でもわかるし」
現在の得点は六対四。わずかに負けているが十分逆転できるだろう。
「雪奈残り時間はどれくらい?」
「後一分くらい」
よしと呟き俺は狙いを決める。足に目線をやりつつ一度も狙ってこなかった顔を狙う。一発くらい当てても問題ないだろう。
「あひゃ!」
狙いは見事に的中し海乃の顔に命中する。そこで丁度時間がやってきたので勝負は終わった。
「女子の顔を狙うなんて……」
「顔ばかり狙ってきていた奴がどの口でそれを言うんだ」
動き疲れたので今は休憩している。日も少し落ちてきたので少し寒かった。
「ちょっと日も暮れてきたな。寒くないか?」
「大丈夫。それよりもう少し遊ぼうよ」
海乃は立ち上がり海に向かう。
「雪奈は大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ」
そう言い雪奈も立ち上がり海に向かう。俺もその後を追って海に向かった。
「そういえば二人は泳げるのか?」
「私は泳げるよ! 雪奈は泳げないけど……」
「昔から水泳の授業は苦手なんだ。どうしても泳げなくて……」
「海乃が教えてあげればいいのに」
「海乃は感覚派だからね。指導に向いていないんだよ」
雪奈がそう言い納得する。感覚でなんでもできちゃうんだろうなというのが海乃からは見て取れた。
「秋哉君は泳げるの?」
「人並みには」
別に得意というわけではないが全く泳げないというわけではない。五十メートルは普通に泳げるレベルだ。
「それじゃあ秋哉君が雪奈に泳ぎを教えてあげてよ」
海乃がそう提案し雪奈の背中を押す。
「別に教えるのは構わないけれど……今からはなあ」
時間も時間だし十分教えられるかどうか不安だった。どのくらいのレベルなのかもわからないし。
「じゃあ明日だね」
海乃がそう言い雪奈に抱きつく。明日が妥当だなと思い俺は海に潜った。魚いないかな。
それから俺たち三人は少し海で遊び、海の家に戻った。
「あれ? 海乃は?」
部屋に戻って少し休憩した後、飲み物を買おうと自販機を目指している途中に一人で広間に座って本を読んでいる雪奈を見かけた。
「海乃なら長谷川店長と買い出しに出かけているよ」
本を閉じ雪奈がこちらを向く。俺はちょっと待っていてと言い急いで自販機へ行き飲み物を二本購入する。
「はい。ちょっと話いいか?」
「ありがとう。あっお金……」
飲み物のお金を出そうとする雪奈をいいよと言い静止させる。
「それで話って?」
「海乃の記憶のことでちょっとな」
俺は飲み物を開けそう話を切り出す。俺はこの旅行の間に雪奈に海乃の記憶のこと、そして俺の記憶のことを話そうと思っていた。
「海乃から聞いたんだね」
雪奈は驚くことなく俺の話に耳を傾ける。遅かれ早かれ記憶のことを俺に話すとわかっていたみたいだ。
「どこまで聞いているかわからないけれど、海乃は一ヶ月に一度記憶を失うの。三歳の時から海乃と一緒にいるけれど、その現象が起きたのは十二歳の時だったかな」
十二歳というと俺と同じか。俺も十二歳の頃から一ヶ月に一度記憶を失くしている。家族がそう言っていた。
……偶然なのだろうか。
「いつも雪奈がそばにいるのか?急に記憶が忘れたら混乱するだろ?」
「そうだね。毎月一日は海乃の家に泊まるようにしているの。誰? って聞かれてもいいように私のことや海乃とどういう関係だったか、そして海乃の記憶のこと全部すぐに教えているの」
雪奈が海乃の過去と今を橋渡ししているのか。
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