第五話


「三人ともお疲れさま。もう上がっても大丈夫だよ。時間も短いけれど海で楽しんでおいで」


 長谷川店長にそう言われ俺たちは仕事から解放される。慣れないことをやっていたせいか、思ったよりも体が重かった。


「ありがとうございます……とは言われましても体が重くて遊べないかも」


 どうやら体に負担がかかっていたのは俺だけじゃないらしく、海乃と雪奈もどっと疲れていたみたいだ。


「最初はこんなものだよ。一応今日の分の仕事は終わりだから後の時間は自由に過ごしてね」


 長谷川店長はそう言い残しこの場を後にする。まだ閉店まで時間があるので仕事をやらなくちゃいけないみたいだ。


「とりあえず海に行こうか。せっかく来たんだし」


 そうだなと俺と雪奈は了承し一旦部屋に戻る。俺は水着がまだないことに気がつき、先に出るとだけ告げると外に出た。


 ビーチにはまだまだたくさん人がおり、遊べるスペースも限られている。俺はすぐ近くにいた人に水着が買える場所を聞き、そこに向かった。別に水着の柄にこだわりはないので無難な安い水着を購入し更衣室へ行く。部屋に戻ってもよかったのだが、すぐ側に更衣室があったのでそこで着替えることにした。


「お待たせ」


 海の家の前で待っていた二人と合流し、人が少ないスペースへ移動する。


「結構離れちゃったな」

「けどここは人が少ないからちょうどいいんじゃないかな」


 海の家からパラソルと椅子を借りてきていたらしく、それらを海乃がセッティングする。


「それじゃあ遊ぼうか」


 海乃がそう言い二人は着ていたパーカーを脱ぎ水着姿になる。こんな美少女達の水着姿を独り占めできるなんて得な気分だ。


「どう? 私たちの水着姿」


 パッと二人を見ると海乃が白のビキニ、雪奈が水色のワンピースだった。雰囲気的に色は逆な気もするが二人とも凄く似合っている。


「似合っているな」

「そう……かな? うー恥ずかしいよ」


 雪奈が照れながら両腕で体を隠す。なんというかうぶなその反応が可愛らしかった。


「さて何して遊ぼうか」

「俺はここで休憩しておくから二人で遊んでおいでよ」

「はいそこ休憩しない。こんな一面に海が広がっているのにもったいないよ」


 俺が椅子に座ろうとすると海乃が手を掴み止めてくる。


「そうだよ秋哉君一緒に遊ぼうよ」


 珍しく雪奈も遊ぶ気満々である。海を前にしてテンションが上がっているのかもしれない。


「そーれ」

「冷たい! 海乃やめてよ。お返し!」


 パシャっと二人で水をかけあいながら遊んでいる。微笑ましい光景に俺は平和だなあと感心した。


 俺はというと説得の末少し椅子に座って太陽の光を浴びている。このままだと日焼けしそうだなと感じたが、睡魔に勝てそうもなくこのまま寝てしまおうとしていた。


「うわ!!」


 目を瞑って寝る体制を取ろうとした時、顔に勢いよく水が飛んできた。塩の味がしょっぱい。前を見ると大きな水鉄砲を持っていた海乃がいたずらな表情でこっちを見ていた。


「うわ! だって。かわいい」

「いきなり何すんだよ。というよりどっからそんなもん持ってきたんだよ」

「あれ? 気づいてなかったの? 家から持ってきたんだ」


 そんなもん持ってきていたのか……なんで気づかなかったんだろう。相当疲れているな。


「水鉄砲を人に向けるの禁止」

「人に向けて撃たなきゃ鉄砲の意味ないじゃん」


 恐ろしいこと言うなよ。このまま座っているとまたもや発射されかねないので俺は立ち上がり二人の元に行く。


「それにしても大きいな。このサイズは見たことない。ちょっと貸してくれよ」


 いいよと海乃は言い自分の持っていた水鉄砲を渡してくる。


「ひゃあ! 何すんの!」


 渡されてすぐに俺は海乃に向けて水鉄砲を放つ。急に水がかかったものだから海乃は驚き可愛らしい声をあげた。


「お返しだ」

「やったな秋哉君。撃つから返してよ」

「撃つと宣言しているやつに返せるか。これは俺が預かっておくよ」


 頰を膨らまし海乃は持ってきていたかばんの方へ行く。カバンから一回り小さい水鉄砲を取り出した。


 よほど仕返しをしたいんだなと思い笑いそうになったがこちらの水鉄砲の水圧の方が高いので撃ち合いになれば勝てるだろう。

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