第三話
「でもまたショッピングモールに買い物に行く時間がなかったから新しい水着は買えなかったんだけどね」
それでも期待していてねという眼差しに俺は困惑する。俺も男だ水着に興味がないわけではない。むしろどちらかといえばある方だ。しかし……こう面と向かって言われると反応に困る。いや凄い楽しみなんだけどね。
「海乃はビキニ、雪奈はワンピースの水着までみえた」
「え? なんでわかったの?」
まあ二人の体型的にそうだろうと思う。海乃は性格的にビキニを着そうだし、控えめでそんなに胸がない雪奈はワンピースだろうという推理だ。正直に言ったら変態扱いされそうなので俺はてきとうに言ったと誤魔化す。
「楽しみにしておくよ。それとちょっとでもいいから寝かせてくれ」
どうして俺がこんなに眠たいのかというと、昨日遅くまで虎吉さんの仕事を手伝わされていたからだ。宿題が終わった後、明日までに終わらさなければならない仕事があると言いその一部を俺に渡してきた。思ったほど量があり、終わらせるのに時間がかかったため寝る時間が遅くなったというわけだ。
「……おやすみ」
さすがにこれ以上付き合ってもらうのは悪いと思ったのか海乃は渋々俺を眠りにつかせてくれた。
「着いたよ秋哉君」
どれくらい寝ていたのか目が覚めると辺り一面綺麗な海が広がっていた。俺は軽く伸びをし、車から降りる。
ほんのりと潮風を受け海に来たんだなと実感する。朝が早いせいかそこまで人は賑わっていなかった。持ってきた荷物を降ろし虎吉さんの案内で俺たちは目的地の海の家に到着する。
「やあやあよく来てくれたね!」
出迎えてくれたのはちょっと小太りな三十代くらいの男性だった。
「今日から三日間お世話になる店長の長谷川さんだ。お前らしっかり挨拶しておけよ」
そう言われ俺たちは順に名前だけ自己紹介する。見た目から優しそうな雰囲気が出ているので安心する。失敗して怒鳴られる心配はないのかもしれない。
「秋哉君に海乃ちゃんに雪奈ちゃんね。今日から三日間よろしく頼むよ。人がいなくて困っていたんだ。特に今週は観光客で忙しくてね……早速だけど荷物を部屋に置いてきてほしい。その後仕事の説明を始めさせてもらうよ」
長谷川店長にそう言われ俺たちは部屋に案内される。
「それじゃあお前らしっかりやるんだぞ」
「虎吉さんは帰るんですか?」
「溜まっている仕事もあるしな。二日後また来るよ」
それだけ言い残し虎吉さんは去っていく。俺が昨日仕事を手伝ったのにまだ残っているのか。仕事を見るにおそらく教職関係の仕事をしているんだろう。やらされたものがテストの採点だった。
「前から思っていたんだけど、虎吉さんの仕事って何?」
「塾の講師だよ。結構大きな塾を経営しているんだ。虎吉おじさんああみえてめちゃくちゃ頭が良いんだよ」
海乃にそう言われ納得する。この時期にテストの採点ということは塾の夏期講習か何かでやったものなんだろう。学校は今夏休みだしな。
部屋に荷物を置き渡された仕事着に着替える。男子が俺しかいないため必然的に一人部屋となる。
「似合っているじゃん秋哉君」
「そうか? このエプロンデザインがいいな」
この海の家の仕事着は白のシャツにエプロンだった。ただこのエプロンのデザインがすごく良い。考案者が長谷川店長ならおそるべきデザイン能力を感じる。
「三人とも似合っているよ。それじゃあ仕事の説明に入るね」
長谷川さんの指示で俺たちは仕事内容を覚えていく。主に接客業がメインだ。挨拶、注文の確認、笑顔、基本的な接客内容を頭に入れていく。
「この店はメニューの量が少ないから覚えやすいと思うよ」
長谷川店長からメニュー表を手渡され確認する。食べ物飲み物どちらも数種類と確かに量は少なかった。その分値段の設定が手頃にされているので、日中は混雑が予想される。周りにこういったお店もない。
「どうだね覚えられそうか?」
「なんとか……」
記憶がなくなるからといって一時的な記憶力はある方だ。現にメニューは全部覚えたし、仕事内容も大丈夫だ。後は臨機応変に対応できるかどうかってところだ。
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