第六話
「それで今日はどこに行くんだ?」
宵浜に来てから三日目、今日も海乃に起こされた俺は何もわからないまま強引に電車に乗せられていた。
「今日は買い物に行こうと思うんだ」
「買い物? 何か欲しいものでもあるのか?」
「服とか色々。女の子は身だしなみに気を使うものなんだよ」
そう言い胸を張る海乃。お洒落したい年頃なんだろう。昨日あれだけ動き回っているのを見ると私服とか全然興味なさそうなのに。
「秋哉君は服とか興味ある?」
海乃の隣に座っている雪奈が顔を出し聞いてくる。今日は三人で外出だ。
「あんまり興味ないかな。安い店でシンプルに済ませれば問題ないし」
事実今俺が着ている服はどれもお手軽な価格の服だ。ブランドとかまだ興味ないし高校生ならこんな感じだろう。
「甘いね秋哉君」
指を左右に振りながら海乃は話を続ける。
「外見に気を使うのはとても大切なことだよ。女性からするとお洒落な男性が隣を歩いていて欲しいものだし。雪奈もそう思うよね?」
「うーん、そこまで奇抜な格好じゃなかったら私は大丈夫かな」
格好に気をつけるのは大事なことなのか。仮にも海乃は女子だ。やっぱり女子がそういうと説得力がある。
「だから女性関係が全く無さそうな秋哉君に、私と雪奈が服を選んであげる」
その言葉は余計だろうと思いつつも、誰かに服を選んでもらうのは悪い気がしない。むしろこれは良いことだ。
「それじゃお言葉に甘えるよ。ところで場所はまだ掛かるのか?」
「私たちが通う学校の一つ前の駅に大きなショッピングモールがあるの。後一時間くらいで着くよ」
「宵浜は若者向けの服を置いていないからね。いちいち遠出しなくちゃいけないのは面倒だわ」
学校帰りに行けば良いのにとは言わなかった。多分学校の帰りにも行っているのだろう。今日は俺のためにこうして遠出してくれていると思う。
「そういう海乃と雪奈は男性関係あるのか?」
さっきの仕返しをしてやろうと考え俺は二人に問う。
「あるわけないじゃん私達女子校だし」
以外にも慌てることなく海乃が切り返す。もう少し違う反応を期待していたからつまんない。
「それに生まれた時から同世代の子って雪奈しかいなかったし、男の子と接する機会なんてなかったよね?」
「なんでそこで雪奈に確認するんだよ。その割には普通に俺と話しているじゃないか」
そこまで周りに男子がいなかったら緊張するのが普通なのにその素振りが全くない。
「そう? まあ男子も女子も同じ人間だし性別が違うからといって対応なんか変えないよ」
特に男女の性別が気になる年頃のはずなのにその考え方ができるのは凄いと思う。なんとなくだけど海乃が社交的な理由がわかった気がする。
「私は海乃ほど男性に免疫が無いけれど、秋哉君は話しやすいかな」
雪奈の方も大丈夫みたいだ。ただわかったことだけれど、この二人は男子として俺を見ていない気がする。変に気を使わなくていいからありがたいんだけどな。
そうこう話している内に電車の景色がだんだんと都会の風景に変わっていく。大きなビルや建物があるわけではないけれど、宵浜よりずっと緑が少なく車の通りも多い。
「到着!」
勢いよくドアから飛び出した海乃が声を上げ伸びをする。冷房の効いていた電車からいきなり外に出ると容赦ない太陽の光が全身を襲った。俺は持ってきたタオルで急に噴きだした汗を拭い、来る時に買ったスポーツドリンクを飲む。
「おお」
駅から歩くこと数分。海乃と雪奈の案内で大型のショッピングモールに到着する。思っていたよりも大きかったので自然と感嘆の声が飛び出た。
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