第四話
「秋哉君起きて」
「んー?」
「起きろ!!」
「うわあ! 痛いっ」
豪快に布団を剥ぎ取られ勢いよく転がり壁に激突する。痛む鼻を押さえながら俺は海乃に抗議をする。
「もう少しマシな起こし方はないのか?」
海乃は腕を組み仁王立ちしている。それから笑顔になり部屋のカーテンを開けた。
「こんなにいい天気なのに部屋にいたら勿体無いよ。さあ早く支度して」
時計を見ると八月五日午前九時。休みの日に起きる時間にしては少し早い。なんでこいつはこんなに元気なんだろう。
重たい瞼をこすりながら窓の外を見る。雲一つない真っ青な空が広がっていた。見るからに暑そうなこの外に出なければいけないのかと思うと憂鬱な気分になったのは言うまでもない。
「外から出ないという選択肢はないのか?」
「ないね。秋哉君にはまだまだこの街の良いところを紹介しないと」
得意気になる海乃を一瞥し俺は着替えるから外に出てくれと頼む。聞いたところ虎吉さんはもう仕事に出かけたらしい。それなのに海乃がこの家に入ってこられたのは、合鍵の場所を知っているからだそうだ。もう少し虎吉さんには用心して欲しいな。
「それで今日はどこに行くんだ?」
着替えを済まし、俺と海乃は外に出る。案の定強烈な日差しを浴び一気に体が暑くなる。
「今日は公園に行こうと思うの」
「公園?」
「そう。結構大きな公園があってね、そこでいつもみんなと遊んでいるの」
公園か。小学生が遊ぶ場所だけど、大丈夫かな。
ものすごく不安な気持ちになり俺は歩く。公園で二人ってことはないと思うだろうし、というか絶対そうであってほしくない。
歩くこと数分、前方に大きな公園が見えてくる。海乃の顔を見ると、微笑んだ。
「あそこか……」
確かに大きい。野球の球場よりずっと広そうだ。
「海乃遅いよ」
公園に着くとまず目に飛び込んだのは長い黒髪に麦わら帽子を被っている綺麗な女の子だった。
「ごめん雪奈。この人を迎えに行っていたんだ。昨日知り合った春風秋哉君。歳は……歳は?」
「十七。昨日からこっちに遊びに来ているんだ。海乃とは電車で知り合って、海乃のおじさんの家に泊めてもらっている」
「十七だと高校二年生?」
海乃がそう聞いてくる。
「ああ。高校二年生だよ」
「それじゃあ私達と同じだね。同じ歳なんて偶然あるもんだねー」
海乃が少し驚いた表情をしてから雪奈と目を合わせ笑う。この仕草から二人は相当仲が良いだろうなと想像できた。
「えっと私の自己紹介がまだだったね。冬咲雪奈です。雪奈でいいよ」
おしとやかな口調で挨拶をする雪奈。海乃とまた違ったタイプの美少女だ。気品がありお嬢様といった感じかな。
「雪奈は小さい頃からずっと一緒にいる友達なんだ。同じ歳の女の子は雪奈しかいないんだよね」
「そのおかげで何度酷い目にあったことか……」
雪奈がそう言ってから納得する。いきなり初対面で会った男の人を川に連れていき魚掴みをやらせる人だ。長い付き合いの雪奈が振り回されていないわけがない。
それでもここまで付き合いが長いとなると、雪奈は海乃の良さを理解しているんだろう。こうして待ち合わせをし、遊ぶ約束をしているのだから。
「まあ立ち話もなんだし行こっか」
海乃が先導し公園に入っていく。中は本当に広く、小さな子供や子連れの家族がたくさんいた。遊具もそれなりに充実しており一目で子供達には楽しい場所だと断定できる。
そう子供達にはだ。
俺も海乃も雪奈も子供だけれど汗を掻くほど遊ぶ年齢は過ぎている。それなのに三人で公園に来ている事実はなんだか不思議だった。
「あ! 海乃と雪奈だ!」
「本当だ! おーい海乃ちゃん。雪奈ちゃん」
遠くから海乃と雪奈を呼び、ぞろぞろと小学生くらいの子達がやってくる。海乃と雪奈も声を掛け手を振っていたのでどうやら知り合いみたいだ。
小学生の数は六人。二人を取り囲み騒いでいる。
「秋哉君この子達は近所に住んでいる小学生の子達なんだ。宵浜は子供がそんなに多くないからみんな仲が良いんだよ」
海乃がそう言い一人の女の子の頭を撫でる。
「海乃、今日は何をして遊ぶんだ?」
「もう呼び捨てはダメだって言っているじゃない。さんかお姉さんを付けなさい」
「えー面倒くせえ。海乃でいいだろう」
少し生意気な男の子が笑いながら言っている。海乃も強く注意をしていないのでそこまで嫌じゃないんだろう。
「雪奈そっちの人は誰?」
「昨日海乃と知り合った春風秋哉君だよ」
「秋哉かよろしく!」
初対面の俺に対して敬語もなく呼び捨てで話してくる。別にだからといって俺は注意をするタイプの人間じゃないし、子供なんだから仕方がないと思うタイプだ。
「よろしく」
俺も挨拶を交わし、全員の自己紹介が始まる。名前は三浦晨、稲村亮太、野嶋勝也、権水直樹、荒木あやめ、松田加奈の男の子四人女の子二人だ。自己紹介が終わると海乃が話を切り始めた。
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