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「ローズマリーね」
昔からハーブには親しみがあった。ことさらローズマリーには。幼い頃に家の隣にあった教会で沢山育てられていたから。
「ローズマリーのマリーはマリア様のマリーなのよ」
ぽつりと独り言を零す。児童養護施設も兼ねていた教会にいた女の子がよく言っていた言葉だ。彼女の名前はアンドラ神谷真理亜。
名前が“真理亜”だから、ローズマリーはわたしのハーブなのよ、といつも言っていた。
歳が一緒だったからか、その子とはよく遊んでいた気がする。マリア様とは似ても似つかない勝ち気な子だった。容姿はマリア様のような可愛らしいものだったけど。確かハーフだった。
「あの時もそう言ってくれたんだよな」
昔々、まだ小学校に上がる前の頃。教会のローズマリーを真理亜がくれたことがあった。
真理亜と二人で教会の庭を散歩(と言うよりはただ歩き回っていただけ)していた時だ。ハーブ畑の所で二人でしゃがんで眺めていると、真理亜がおもむろにそのうちの一束を掴んで引っこ抜いたのだ。俺は驚いて言葉が出なくて、ただ真理亜を見つめていた。
『ろーずまりーのまりーはまりあさまのまりーなのよ』
そう言って俺の目の前にずいっとローズマリーの束を出したのだ。
『だからあげる』
それを訳が分からぬまま俺は受け取って家に持って帰った。
その後ハーブ畑のローズマリーが一束無くなったことが問題になって、真理亜が黙っていたので俺も口を噤んだのだ。
『いったらおこられちゃうから』
ひみつよ。とその後礼拝堂の椅子と椅子の間で真理亜に言われた。
今になって良く考えればイエス様とマリア様がそこで見ていたけど、その時は少しも思わなかった。悪いことをしているというドキドキでそれどころじゃなかったと思う。
『ふふふ』
あの時の真理亜を思い出す。悪戯っ子のように笑う顔がステンドグラスの光を浴びて、マリア様のようだと幼い俺は思ったんだ。
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