第4話

「どう? 他の子から隼人くんを切り離してくれた?」


 無防備に顔を近づけてくる女の子。だが、賢治は釈然とした態度を取っている。


「いや、そんなことするわけないじゃないか」


「えー!なんでー!契約違反でしょ!」


「そんな契約してねぇ」


 女の子は更に顔を近づけてくる。賢治はいい加減にしてくれと手で押しのけようとするが女の子は引こうとしない。


「一年間、私のために全身全霊を捧げるって契約でしょう?」


「だから、知らねーよ!」


 女の子は溜息を吐いて賢治から少し離れ、険しい表情をしてみせた。

そして、横目でチラッと賢治の様子を窺い再び溜息を吐いた。賢治は彼女のイラつかせるその態度にうんざりな様子。


「この間、散々言っただろう?」


 女の子は拗ねたようにそっぽを向けているが、賢治は続ける。


「俺達はそんな契約してないし、お前のミスでこっちに引っ張られただけなんだ」


 賢治の説明に、でもぉ……と駄々をこねるこの女の子は、賢治たちをこの世界に召喚した張本人、生粋の魔法使いである。


 賢治はぷくっと頬を膨らませて睨んでくる彼女を見て、可愛い仕草だなオイと呟いた。


 これが所謂、萌えというやつか。現実リアルで見るのは初めてだな。いや現実リアルじゃねぇか、アニメの世界だもんなここ。あはは……。何考えてんだか……。賢治は乾いた笑いを漏らした。そして、すっかりアニメ調になってしまった自分の手に目をやり落胆した。賢治の周りにネガティブオーラが漂っていることに彼自身は気づかないでいた。


 魔法使い、結城ゆうきレイの一族には古くから伝わる究極の召喚魔術というものがあった。たった一度きりしか使えないその魔術は、術者の願いを叶えるために精霊を召喚するというものだ。本来なら、彼女の願いを叶える最良の精霊が召喚されるはずであったのだが……。彼女はヘマをした。召喚に必要な詠唱を一文すっとばし、最良でも精霊でもなんでもない一般人男性4名を召喚してしまったのである。ちなみにその願いとは、藤宮を独り占めしたいというなんともワガママなものであった。


「他の人は私のために頑張ってるよ?」


「はい?」


 ほら、とレイが指差したその先には栗原を必死で口説く弘大がいた。


「センパ~イ☆何か変な人が執拗に絡んでくるんですけどー!」


「いいじゃん! もうちょっと話そうよ! センパイより楽しいぜ? 俺っ」


「つまらん!死ね!」


「ええええええ」


いや、頑張ってるけども……。


「他にもほら!一樹君!」


 賢治の目に映ったのは互いに睨みあう二人。うん、これは完全に頑張ってないぞ。


「あとは!千秋君!」


 ふらふらの水上に本当に大丈夫?とひたすら尋ねる千秋。ご苦労様です。


「……アイツら別にお前のためにしてるわけじゃないと思うが」


 賢治は思ったことをありのまま口にした。すると、レイは目を丸くして驚いた。


「え!? そうなの!?」

 

 どう見ても、そうだろと賢治は逆に驚く。まぁ、百歩譲って弘大の奮闘は結果的にレイの助けになっているように思えなくもないが。


「あー! 待ってよー! ホントに俺、退屈させないからー」


「しつけーですよ」


 栗原は蛇のような目で後ろを付き纏う弘大を睨みつけると、乙女モードにスイッチを切り替えて藤宮に手を振った。


「でわでわ、センパ~イ☆ 次の休み時間に私とお話しましょうね~♪」


 面倒だと思いながらも一応は返事を返す藤宮。それを見て賢治はあの子の恋は実らないだろうなと思った。そうなったら、いよいよ弘大の出番か。良かったな弘大。今は耐えるべし、さすれば必ずや好機が訪れるであろう。

 ……間違いなく栗原にとっては危機である。


「賢治ぃぃいいいい」


弘大はウソ泣きをしながら賢治に飛びついた。賢治は思いっきりそれを跳ね除ける。

大げさに地面に倒れこんだ弘大はさながら悲劇の少女のようなポーズをとって見せた。


「酷い! 俺の心はこんなにも傷ついているのに! 慰めの言葉くらいあってもいいんじゃないの!?」


「ドンマイ」


「軽っ!!」


 お前のそのノリの方が相当軽いわ!


「もういいよ。俺のこの傷はレイちゃんに癒してもらうから」


 そう言って弘大は、ね!レイちゃんとウィンクを決めた。


レイは笑顔でそれに答えた。


「ドンマイ」


 弘大の心は少なからず本当に傷ついた。





























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