第5話 思わぬ出会い
「こ、こんにちは。」
茜は困ってしまった。この青年といつどこで話したのか、全く思い出せなかったのである。
斎川宏史。
それが彼の名前だった。宏史は茜と同じ大学に通う生徒で、茜とは別の意味で有名人だった。彼は所謂人気者という部類の人間なのである。あまりにも人気者なので、ファンクラブができている。彼もまた現実離れした人物だという意味では、茜と同類である。
ただし、そんな有名人の名前さえ覚えていないのが笠川茜である。彼女が覚えていられるのは、朝の新聞に織り込んであったチラシの特売情報くらいなのだ。だからこうして声をかけられても相手の名前がわからないので、甚だ困ってしまうのである。
そんな茜の動揺が目に見えたのだろう。
「同じ大学の斎川宏史です。よろしく。」
彼は笑って自己紹介をした。そしてもう一言。
「ちょっと事情を話してみない?」
楽になるかもよ、と彼は再び笑みを浮かべてみせた。
「なるほど。そういうことだったんだね。」
茜の話を一通り聞き終えると宏史は納得したようだった。
「そうなんだよ。奈津、怒っちゃったんだ。どうして理解してくれないかな。」
茜は奈津を怒らせてしまったことに後悔しているようだった。しかし、なぜあんなに怒っていたかについては理解できていないようだった。
「きっと鷹宮さんはね、笠川さんを大事にしたかったんだよ。」
宏史は茜に諭すように言った。
「君の話を落ち着いて聞いてあげたいって思ってたんじゃないかな。いい友達だね。」
「・・・うん。私、奈津のこと大好きなんだ。あとで謝りに行く。」
茜は奈津に対する自分の発言を恥じたようだった。
落ち込む茜に宏史は慌てて言葉を重ねた。
「でも、俺も笠川さんの気持ちはわかるよ。」
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