第4話 親しき仲にも礼儀あり
「カヌレもフィナンシェもクイニーアマンもお菓子だよ、お菓子。まさか茜が知らないとは」
「だって!スーパーでなかなか売ってないからさぁ。」
「いや、カヌレくらいはおいてあるから。」
茜と奈津はカフェの前で、そんなやりとりをしていた。恐ろしく不毛なやりとりである。そんな二人を通行人は怪訝な目で眺めながら通り過ぎて行く。
「スーパーのお徳用麩菓子でいいじゃない。美味しいじゃない。安いじゃない。なんで、このフィナンシェってよくわからないものに900円もかけなきゃならないの。」
この不毛なやりとり、かれこれ30分は続けている。茜はワンコインをきらないものには手厳しいし奈津はカフェという静かな場所で茜の話を聞いてやりたいと思っているので、二人の話は平行線を辿っている。なかなかカフェに入ろうとしない茜に、奈津はイライラしてきていた。そんな奈津の様子に気がつかず、茜はさらに言い募る。
「大体、お菓子にお金をかけ過ぎるっていうのはどうかと思うよ。奈津は無駄にお金を使い過ぎてるよ。」
次の瞬間。
「ふざけんじゃないわよ!」
ついに奈津の怒りが爆発した。
「大体、話を聞いて欲しいって言ったのはどこの誰よ?茜じゃないの?私はせっかく親友の失恋だから時間を割いて話を聞こうと思っているのに、さっきから聞いてれば金、金、金。あんたは金以外のものはどうでもいいの?ねぇ、どうなのよ?」
激しく怒りをぶつける奈津に茜はタジタジである。
「で、でも」
「でも、じゃない!」
「だってさぁ」
「もう、いいわ。帰る。」
「待ってよ!!」
茜の制止も虚しく、奈津はいなくなってしまった。茜はぽつんと立ち尽くした。
「弁解くらいさせてくれてもいいじゃない。」
拗ねた口調でそう呟く茜の声には間違いなく哀しみの色が宿っていた。
「あれ、笠川さん?」
茜が声のした方に目を向けると、どこかで見覚えのあるような青年が立っていた。
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