第3話

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Subject 無題


ユカさんへ

俺は三十代の前半。というか、俺の世界なら俺たちは同い年だ。

最初のメールでわかるとおり、東京で暮らしている。

仕事は精密機器メーカーのエンジニアだ、と言いたいところだけど、この春から(俺の時間のね)転勤になって、営業の仕事をしている。

慣れない土地で慣れない仕事。

結構めいっている毎日。なんてごめん。君に愚痴を聞かせるつもりはないんだけど。

追伸:俺は嘘はついていないって。君がついているとも思っていないよ。

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この人はどんな人なのかしら。

見知らぬわたしに砕けた調子で、話しかけるようなメールを寄越すひと。

なのに自分の名前も書いていない。

そして過去と未来でメールを交わしているって、本気で思っているのかしら。

まさかね、舞子は突飛な思い付きを否定した。

そういう気分で楽しもうってことよね。乗ってみてもいいかもしれない。



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Subject Re:無題


神戸の彼女からは連絡があった?

想いが通じるといいわね。

わたしは何年も恋をしていないわ。全く出会いがないわけでも、冷めているわけでもないけれど。

ひとりでいることに慣れてしまったのかしら。

ところであなたのことはなんて呼べばいいの。

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Subject Re2:無題


ユカさん

神戸の彼女、か。

実は俺が東京に転勤になる前に別れた。

正直言うと振られたんだ。

もうすっかり振り切ったつもりでいたけれど、仕事で色々落ち込んでいて、やたら彼女のことばかり考えた。

彼女は意地を張っているんじゃないか、本当はまだ俺を愛しているんじゃないか、そんなことを考えた。

そうじゃないって知っているのに。

未練がましくて、女々しくて自分が嫌になるよ。

だからあのメールが間違って君のところに届いたのは幸運だった。送信したあとひどく後悔したんだ。

さんざ悩んで何度も書き直して、迷った挙句送信したのに、送るんじゃなかったと、あの夜は眠れなかった。

ホントに情けないね。

そうだ、申し遅れたけど俺は佳宏、本名だよ。隠していたわけじゃない。うっかりしていたよ。

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