ある日のひとコマ その十二

 さくら編



 最初に行くのは、王都のシャングリラにゃの。


 行って荷物を渡して帰るだけ、簡単にゃの。


 トラにあたし、ニーニャ、ペン太が乗って、カーちゃんはチロが抱っこして歩いてるにゃの。楽チンにゃの。


 たまに、ニーニャに握手を求めて来る者もいるにゃけど、順調にゃの。


 シャングリラには何度も来てるから、道を間違える心配もにゃいにゃの。


 門の前に着き、呼び鈴を鳴らしたにゃの。


 人語は喋れないから、ミケに対応させたにゃの。


「お届けものを届けに来たでござるにゃ。更紗殿はご在宅かにゃ」


 ちょっと心配だったけど、やればできる子だったにゃの。


 中にみんな案内されて、いつもの大広間に来たら更紗さんがいたにゃの。


「さくらに猫姫ちゃんじゃないか、どうしたんだい?」


 更紗さんの所に行き、キティバックからお届けものを出したにゃの。


「ああ。頼んでいた荷物だね。どうもありがとう。さくら」


 そう言って抱き上げウニウニされたにゃの。


 更紗さんはいつもとっても気持ちよく抱いてくれるから、好きにゃの。とっても気持ちいいにゃ……。すぴぃー。


 はっ! ここはどこにゃの、あたしは誰にゃの。みんなはどうにゃったにゃの。


 トラとニーニャ以外はモフられまくってるにゃの。


 ニーニャは逆にモフモフ共に襲われているにゃの。トラ、ニーニャを救出すにゃの。


 救出されたニーニャはベトベトだったにゃの。ニーニャは喜んでいるみたいにゃの。


 ミケ~ミケ~は何処に。さっさとここに来てニーニャに浄化を掛けるにゃの。


「さくらにゃんは、ケットシー使いが荒いにゃ」


 お黙り! にゃの。そもそも用心棒のあなたちが、ニーニャを守らなにゃいのが悪いにゃの。


「ここの人たちにはさからうにゃって、ルークにゃんが……」


「面目ない……」


「あの力には抗えないわ」


「クェー」


「無理でしぃ~」


 さくら探検隊の一員とあろう者が、不甲斐ないにゃの。にゃんにゃの、そのジト目は。ゴホンにゃの。


 さあ、もう行くにゃの。レッツらゴーにゃの。




 既に出発してからに、二時間以上が経っている。間に合うのかさくら探検隊、間に合うのかさくら隊長。


 次回、誘惑が一杯。こうご期待!






 うさ子編



 うさ子は、己を鍛える旅に出ている。はずである……。


 行く先々の村で、うさ子は可愛いがられていた。旅に出てから食事に困ったことなど一度もないのである。


 最初は神妙に一から自分を鍛えて、今までのぬるい自分から脱却するつもりでいた。


 しかし、生まれ持った性格がすぐに治るわけもなく、いつの間にかお気楽ひとり旅に変わっていることに、本人はまったく気付いていない。


 今も、最強種のドラゴンと戦ってみたいなくらいの軽い気持ちで、ドラゴンが住むという北の山に向かって旅をしている。


 目指す場所は冥限ヶ峰、黒竜が住む場所といわれている所だ。


 北方は小国が集まり、一つの国家連邦を形成している。


 残念ながらうさ子は村に入ることはできても、街に入ることはできなかった。


 幾つかの国を越えとある小国の王都の近くに来た時、それは起こった。


 うさ子が丘を越えた所で、立派な馬車がモンスターに襲われていたのだ。二人ほど護衛はいるが、モンスターの数が多く苦戦を強いられている。御者も必死に棒でモンスターを追い払おうとしているが、とうとうモンスターの攻撃を受けて倒れてしまった。


 うさ子は迷ていた、助けるべきか見捨てるべきか……。


 迷うくらいなら助けて後悔したほうが楽だ、心の傾きに身を任せ馬車に駆け寄る。


「くっ。新手のモンスターか!」


「姉上! これ以上は押さえきれません。ここは私に任せ姫様とお逃げください!」


「馬鹿を言うな! お前が姫様と逃げるのだ!」


 女騎士二人はシリアスな場面だが、うさ子は気にせず女騎士のお尻をツンツン。


「キュキュ?」


「なんだこの忙しい時に!」


「あ、姉上! も、モンスターです」


「だからなんだぁ!」


「キュ?」


「助けがいるか? と言っているのではないでしょうか?」


「この忙しいのが見てとれないのか! 猫の手でも借りたいくらいだ!」


「キュッ!」


 そして蹂躙が始まった……。


 女騎士二人は自分の目が信じられないでいた。姫様の護衛の任を受けるほど、剣の腕に自身があった。ほかの男の騎士にも負けないくらい訓練もしてきた。それでもモンスターの襲撃を撃退するどころか、やられる一歩手前にまで追い詰められていたのだ。


 それが何とも可愛らしいウサギが、こちもなげにモンスターをさつりku……倒しているのだ。正直、気がおかしくなったのかとさえ思っている二人である。


 モンスターたちはうさ子にとっては雑魚だが、数が多くどうしても馬車のほうに行くモンスターが出てくる。


 仕方ないので、いつもの手を使う事にした。女の子座りをし目をウルウルさせ、およよよ……。全てのモンスターがうさ子を見て固まる。女騎士二人も固まる。惹きつけスキルを利用した、秘技ハニートラップが決まる。いつもの憮然とした顔に戻り、ルーティンワークに戻るのであった。


 ほどなくして、最後のモンスターが光に消えうさ子は野菜を取り出し食べ始める。


「凄ーい。ウサギちゃん強ーい!」


 女騎士妹がうさ子に抱きつき、モフモフし始めた。


「姫様! ご無事ですか!」


 女騎士姉が馬車に駆け寄り中を確認する。


 うさ子はモフモフされるのに飽きたので、ウサギポケットからブラシを取り出し、女騎士妹に渡す。


「ん? ブラッシングして欲しいの?」


「キュッ!」


 これは当然の報酬だと言わんばかりに、女騎士妹に催促。女騎士妹は一瞬迷い女騎士姉を見て、その様子から姫様が無事であることを見てとり、ブラッシングを開始。


 馬車の中には女性がひとり倒れていて、女騎士姉が介抱する。


「こ、ここは……」


「姫様! お気付きになられましたか!」


「エアリス……どうなったのですか……」


「御者がやられましたが、助っ人が現れ撃退できました」


「助っ人……?」


 そう言って外を見ると、女騎士妹がうさ子をブラッシングしている姿があり、驚きの表情に変わる。


「あの兎ですか?」


「はい」


「私は夢を見ているのでしょうか?」


「いえ、現実でございます。それより移動を開始したいと思います。また魔王の手の者が現れるや知れません」


「わかりました。あの勇者様にもご同行願えないか、お願いしましょう」


 そう言って、馬車をおりうさ子の元に歩いて行った。


「勇者様、お初にお目にかかります。ファタリテートの王女セーラと申します。この度はご助成頂き感謝の念しかございません。何卒、いま少しの間お力をお貸し願えないでしょうか」


「キュ?」


「我々は姫様の叔父ツヴァイフェル候の元に向かっている」


「叔父上のお力をお借りせねばなりません」


「ウサギちゃん、手伝って」


「……キュッ!」


 乗り掛かった舟だしこのまま見放すのも後味が悪いと、うさ子は思い承諾。


 馬車に乗り、セーラ姫にモフられまくる。モフっていたセーラ姫は、うさ子の首輪に気付いた。


「あら、勇者様のお名前はうさ子様と仰るのですね」


「キュ」


 セーラ姫は更に愛着が湧きモフりまくる。そして語りだした。


 ある時、王宮に魔王の使者を名乗る者が現れ、軍門に下れと言ってきた。ファタリテート国は小国ながら連邦の中では、最も歴史が長い国である。連邦の中でも強い発言力を持つ国である。魔王の軍門に下るわけがなく、使者を追い返した。


 そこから、おかしな事が次々に起こるようになったという。王宮の侍女が消えたり、王宮内に不気味な声が響くようになったりと。そしてとうとう王妃が正気を保てなくなり自殺した。セーラの母は既に他界している。


 それから、父、兄がおかしくなり始め、とうとう魔王の軍門に下ると言い始めた。セーラは父たちに疑念を抱き信頼できる者たちに、父である国王と義兄の殿下を密かに調べさせた。


 セーラの疑念は正しく、既に二人は何者かと入れ替わっていることに気付く。しかし、気付かれた王たちは、セーラの口封じをおこなってきた。幸い信頼のおける者たちの手引きで、王宮から脱出することに成功したが、魔王の手先に追われ先ほどの状況に陥った。


 今は実の母の弟であるツヴァイフェル候の元に向かていると語った。


 何度かモンスターに襲われはしたものの、四日後の夕方にツヴァイフェル候の城に到着することができた。


 しかし、うさ子は感じていた。己が持つ称号幽霊怖い! といつもアンデッドがいた環境で生活していた経験から、この城に生が感じられないことに……。


 うさ子は必死にセーラ姫たちを止めようとしたが、無理だった。


 召使に案内され、城の奥の執務室に来た。


 中にいたのは、青白い顔をした四十近いというわりに若く見える男だった。


「よく来たね、セーラ。久しいね。こんな時分にどうしたんだい?」


「叔父上! 今、王宮では大変な事か起きています! 何とかしなければ……」


「まあ、落ち着きなさい。何があったのかわからないが、ここにいれば安全だ安心しなさい。それにだいぶ疲れているようだ、今日はゆっくり休みなさい。明日、落ち着いてから話を聞こう」


「ですが……」


「セーラ。疲れて正常な判断ができるのかい?」


「わかりました……」


 別々の部屋が用意されたが、セーラが全員一緒の部屋にしてと頼み大きな部屋に案内された。


「何かおかしいと思いませんか、姫様」


「ツヴァイフェル候の顔色が良くありませんでした。お身体を病んでおいでなのでしょうか?」


「以前にお会いした時より、お若く見えました……」


「キュッキュー!」


「うさ子様は、何と仰っているのでしょうか?」


「ウサギちゃんはここが好きじゃないみいたいね」


「そうだな、妙にピリピリしている。何かあるのだろうか?」


「叔父上を信じていないわけではないのですが、何があってもいいように、準備はしておきましう」


「ディーネ。交代で見張りだ」


「それでは姫様、先に湯あみを致しましょう」


 うさ子も一緒にお風呂に入る。うさ子はほんの少し降魔神殿の露天風呂を思い出し、望郷の念にかられた。


 うさ子はセーラ姫の布団に潜り込み、セーラに抱きかかえられながら眠った。


 そんな夢心地も束の間、うさ子が異変に気が付き起き上がる。


「キュキュッ!」


「うさ子様何が……」


「姫様。外の様子が変です。お着替えを」


 セーラ姫はディーネの手伝いのもと、夜着から動き易い服装に着替えた。


 うさ子が唐突に部屋の扉に向け、ファイアバレットを何度も放つ。


「な、何をしていr……」


 扉の向こうから何かが飛び出してきた。とっさに女騎士姉は剣を振るう。そこには焼け爛れた、この城の侍女が倒れており、まだ動いている。


 その侍女にライトバレットが放たれ、光に消えた……。


「アンデッドですか!」


「アンデッドに違いないですが、ヴァンパイアのようです……」


「ヴァンパイア……」


「では、この城は既に……」


「魔王に支配されていますね」


「では、ツヴァイフェル候は……」


「叔父上も既に魔王の支配下にあったのでしょう……。それよりこの城から出ることが先決です! うさ子様、お願いできますか」


「キュッ!」


 うさ子を先頭に走り出す。途中何体かのヴァンパイアを火だるまにして、城の門までたどり着く。


「セーラ。そんなに急いで何処に行くつもりだい?」


 城の門前に、ツヴァイフェル候と十数体のヴァンパイアが、待ち構えていた。


「叔父上はいつから魔王の配下になったのですか?」


「最初からだよ。セーラは知らないと思うが、既に連邦の殆どの国が魔王様の配下にあるのだ」


「そ、そんな……」


「フフフ……この連邦は魔王様のもの」


「隣国のクルミナ聖王国が黙っているとでも、かの国は使徒様の眷属が治める国、必ず魔王の討伐に立ち上がります」


「クルミナ聖王国か……ハッハッハッ! あの国は動かんよ」


「何故そう言えるのですか!」


「我らが魔王様と不可侵条約を結んでいるのだよ。クルミナ聖王国はこの地を魔王様が治めることを認める代わりに、お互いに侵略しないと約束しているのだからね。ハッハッハッ!」


「そんなことがあるわけない……」


「さあ、セーラ。共に魔王様に忠誠を誓うのだ。そうすれば、この素晴らしい体が手に入るのだぞ!」


「何を馬鹿なことを、ありえません!」


「そうか……残念だよ。可愛い姪をこの手にかけなくてはならないなんて……れ!」


 ヴァンパイアたちが一斉に襲いかかる。


 しかし、この緊迫した状況の中うさ子は冷静だった。交渉が決裂するのは必然。その後に来るのは戦い。相手はアンデッドの中でも上位種のヴァンパイア。うさ子だけでは守りきれないと思い、準備をしていたのだった。


 うさ子の周りの歪み始め、人の形を取り始める。うさ子の相棒が命名した秘奥義、獣王転生である。


 十体の英霊が各々ヴァンパイアを蹴散らす。


 驚いたのは敵だけではなく、セーラ姫たちも驚いている。


「キュッ!」


「ハッ!? ディーネ! ヴァンパイアを姫様に近づけるな!」


「了解です!」


 セーラ姫も魔法で加勢する。


「ば、馬鹿な……魔王様に頂いた力なのだぞ! 何故、下等生物如きにやられている……」


 英霊たちはいつもの必殺技を出すことなく、ヴァンパイアをツヴァイフェル候を残して駆逐した。


「くっ。今日のところは見逃してやる!」


 こともあろうか、三下が吐く捨て台詞を残し逃げようとしている。もちろん、うさ子が見逃すわけもなく、ツヴァイフェル候は英霊たちに捕まり、ボコボコにされた。


「叔父上、お覚悟を!」


 セーラ姫はツヴァイフェル候に浄化魔法をかける。


「ぐおぉー。やめろ! 体が、からだがぁ……」


 ほどなく、ツヴァイフェル候は光に消えた。


 英霊たちも消えていく……。


 セーラ姫たちが呆然としてる中、うさ子は城の中に戻り辺りを物色し始め、手当たり次第にウサギポケットに収納し始めた。


 立ち直ったセーラ姫たちが見たものは、中身がガランとした城。


「火事場泥棒かっ!?」


「ですが、姉上。ツヴァイフェル候を倒したのは、ウサギちゃんのおかげです。その権利はあるかと……」


「これからどうすればいいのでしょう……誰を当てにすればよいのか……このまま魔王の言いなりになるしかないのでしょうか……」


 うさ子はホクホク顔で戻って来た。大漁だった。


 そんな落ち込んだセーラ姫を見てうさ子は考える。ここで見捨てるのも忍びない。ではどうするか? 信頼できる者の場所に連れて行くしかないと考える。


 セーラ姫の前に行き、必死にジェスチャーをする。


「うさ子様?」


「ウサギちゃん、何か伝えたいみたい」


「なになに。リスが食べる?」


「寝て起きるの? 面白い顔!」


「南でしょうか?」


 相当長い間、ジェスチャーしたが、伝わっらない……。イライラしたうさ子はとうとう。


「えぇい! ここより南下りクルミナ聖王国の死者の都に行けと言っておるんじゃ! わかったかぁ!」


「「「はい……」」」


 セーラ姫たちの前に一瞬、プラチナブロンドの褐色の美女が現れ、言いたいことを言って消えていった。もちろんそこにいるのはうさ子……。


 本人は我関せずとばかり、野菜を食べている。


 先ほどの美女のいうことに従い、死者の都に向かうセーラ姫こそ、後に北方を魔王から開放し、聖魔国ファタリテートを建国した女王である。




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魔王(笑)のあるじ にゃんたろう @nyantarou

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