225 真祖降臨

 転移された先は、町の代表が住む館前だ。


 俺たちのほかにも二つのパーティーが横にいる。最初に会ったウィズダムグリントのパーティーと、獣人オンリーのパーティーなのでワイルドあにまるズの人たちなのかも知れない。



「君たちはこないだの……何があったんだい」


「中ボス五体を倒して、これを手に入れました」



 真っ赤に輝く実を見せた。ガヤガヤと騒いでいる。なんか文句あるの?



「そうか……なら、クエスト完了となるのかな?」



 建物からこの街の代表が出てきた。



「おぉー。皆さんよく戻られました。どうやら手に入れたようですな。私の目に狂いはなかった。これでこの街も救われます」



 両手を広げてのオーバーゼスチャーだな。まあ、いい。さっさと渡して、クエストクリアといきましょう。


 真っ赤に輝く実を代表に渡そうと近づいた時、唐突にオールが



あるじ殿。そ奴ヴァンパイアですぞ」


「はぁ~あ?」



 つい、オールの言ったことに反応して、オールの方を見てしまった。


 その瞬間、手に持っていた実を代表に奪われてしまう……。あちゃー、やっちまったな。


 オールくん、なぜもっと早くそれを言わないのかな?



「フッハッハッハッ! よく見抜いたな。しかし、遅かった!」



 この街の代表は真っ赤に輝く実にかじりつくと、一気に食べてしまう。マジすっか!



「漲る。漲るぞ! これが真租の力か……」


「こ奴、真租に進化しましたのう」



 この骸骨爺なに暢気に言ってんだよ!



「この実を持ってきた褒美に見逃してやろうと思ったが、この力試したくてウズウズするわ。少しばかり遊んでもらおうか」



 あぁ、やっぱりこうなるよね。面倒くせぇ!



「やるぞ!」


「レイド戦か!」



 向こうのパーティーたちはやる気満々のようだ。でも、このヴァンパイア真租レベル二百なんですけど……。普通進化したらレベル一になるんじゃないのかよ。勝てるのこれ?



「やれやれ、真租とは面倒じゃな」


「……やるしかあるまい」


「真租など丸焼きにしてやりますのう」



 どうやら、うちの三強はやる気のよう。頑張れぇ! 応援してるぞ!


 俺は後方支援だ。真租が放つ魔法をライトシールドで防ぐ。二つのパーティーから魔法が飛ぶが全て防がれている。オールは俺の後ろに隠れて、詠唱中だ。大技の予感がする。


 デルタが真租と剣撃を交わしてヘイトを稼いでる間に、ほかの前衛がアーツを放つが防がれているようだ。不可視のシールドでもあるかのようだ。



「クッ! こいつ強いぞ!」


「なぜ、ダメージが通らん!」



 正直、この二つのパーティーでは荷が重い。圧倒的にレベルが足りてない。攻略組だけあって連携などは光るものがあるが、ステータス値が低い。最低でもあと二十はレベルが欲しい。本来ならもっと時間を掛けてクリアするものを、我々がサクサククリアしたせいで、レベル上げが追いつかなかったのかもしれない。申し訳ない。



「いきますぞ! デルタ殿、除けてくだされのう!」



 オールの準備が整ったようだ。



「ヘルズロウリーハンズ」



 オールの頭上に巨大で不気味な目が出現する。その不気味な目から無数の手が真租目掛け伸びていき、相手のシールドを突き破り体を無数の手が掴む。



「ぐっ……。力が抜ける……」


「全て吸いつくされるがよいのう!」



 あの無数の手が真租からHPとMPを奪っている。えげつない攻撃だな。だが、効果的だ。



「クッ! おのれぇ! 真租の力舐めるなよ!」



 赤いオーラのようなものを発し、無数の手が引きちぎられる。HPとMPが完全回復している。ブーストを使ったようだ。



あるじ殿。済みませんのう。倒せませなんだのう」



 鳩のお悔やみ……もとい、元の木阿弥と見えるかも知れないが、そうじゃない。



「いや、よくやった、オール。奴にブーストを使わせた。時間を稼げば、後は能力は下がるだけだ」



 ブースとは諸刃の剣だ。HPとMPが完全回復しステータスUPするが、時間が経つと逆にステータスが下がっていく。



「無理に攻撃を仕掛けるな! 奴は切り札を切った、後はない!」


「「「おぉー」」」


「クッ! 下等生物共が! お前たちを倒す時間など十分にあるわ!」



 プレイヤーたちは防御に徹しているが、真租の攻撃は強力だ。一撃喰らうだけで瀕死状態まで持っていかれている。



「デルタ!」


「チッ!……仕方あるまい」



 デルタから禍々しい程のオーラが噴き出す。狂乱の鎧を装備したようだが、俺たちも恐怖心に駆られ近寄れない。


 真租とデルタの一騎打ちになっている。



「す、すげぇよ……」


「誰だよ。あれ……」


「カイエン以上じゃねぇ……」



 プレイヤーたちは、息を呑む戦いに見入っている。



「ルークよ」


「ん? なんですファル師匠」


「あ奴、物理障壁を持っとるようじゃ」



 なるほど、アーツが効かなかったのはそのせいか。物理障壁って反則じゃねぇ。



「そこでじゃ。デルタ殿が時間を稼ぐ間に、儂は力を貯める。そして奴の障壁を破る」


「はぁ……」


「はぁ、ではない。その後、おぬしが死剣で止めを刺すのじゃ」


「俺がですか? 倒しきれますかねぇ」


「倒しきれんでも、相当なダメージは与えられよう。さすれば、デルタ殿やほかの者が止めを刺すであろう」


「わかりました。やりましょう。それしかないようですしね」



 この真租、やっぱり強い。第八魔王の下に付いてるダンピールも、こんなに強いのだろうか? 予行演習という意味では丁度いいかも。やらせてもらいましょう。


 まあ、物理障壁を破れるかは、ファル師匠次第だけどな。




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