226 真祖の最期

 デルタと真祖の攻防はまだ続いている。


 お互いに必死の表情だ。デルタのあんな顔初めて見た。だが、まだ余裕はありそうだ。真祖に攻撃が入り始めている。物理障壁に阻まれているけどな。


 プレイヤー達は手出しできるわけもなく、ただ黙って見ているだけだ。


 もちろん、うちのメンバーもだ。戦いのレベルが高くついていけない。固唾を飲んで見守っている。


 しかし、このボス地下五十階のボスにしては強すぎるんじゃないか。攻略組のトッププレイヤーだって厳しいと思うぞ。



「準備はよいか? ルークよ」


「何時でも」


ハオでは、行くぞ」



 ファル師匠の全身が金色に輝きだす。



「聖光集氣、悪魔降伏、怨敵退散、獣王降臨!」



 今度は金色のオーラを放ち始める。目で見えるほど、氣が濃縮されていくのがわかる。凄まじいほどの氣の量だ。近くにいるだけで息苦しくなってくる。



「デルタ殿! 離れよ!」



 ファル師匠の掛け声と共に、デルタは後方に引き、ファル師匠は瞬動術で真祖に迫る。



「なに!?」



 一瞬で位置が入れ替わり、ファル師匠の剛拳が真祖を捉えてのけ反らせる。間髪入れず真租を蹴りあげ宙に浮かせたと思うと、既に真祖より上にいて渾身の力で拳を振り下ろしていた。


 パリーン



「……グッハッ!」



 何かが割れる音がし、地面に真祖が叩きつけられた。一瞬、ファル師匠が金色こんじきのラッシュラビットに見えた……目の錯覚か?


 って、思ってる暇は今はない。ドラゴンオーラを解放し光属性付加の死剣を連続で放つ。倒れている真祖に死剣があたり連続で爆発がおき、爆煙で視界が悪くなる。しかし、中心部に真祖がいるのは心眼でわかっている。全力で死剣を繰り出す。そして、全身の氣を使い果たし前のめりに倒れた。


 やった、俺はやったぞ。もう、動けん。何とか集氣法はできる。できるが苦しい。セアリアスが起こしてくれた。やったゕ? やったよな……あれ? これフラグじゃね?



「フッハッハッハッ! 耐えたぞ! 耐えきったぞ!」



 全身ズタボロの上血だらけの状態で起ちあがってきた。フラグ回収しました……化け物め! って思った矢先。



「なぁっ!?」



 デルタの大剣が一閃。真祖の上半身と下半身が分かれた……。ファル師匠も追撃をかけて下半身が砂になり消えていく。


 プレイヤーたちもここぞとばかりに、真祖の上半身目掛けアーツを放っていく。今までの鬱憤を晴らすかのように……。



「ば、馬鹿な……我は真祖ぞ……究極の力ではなかったのかぁ……」



 徐々に砂に変わっていく、変わった場所から砂が風に飛ばされていく……。



 究極の力? そんなものあってたまるか! 神ならいざ知らず、この世界にそんなものは必要ない! くたばれヴァンパイア! 


 あっ! セアリアスは別だからね。究極の力でも至高の力でも、手に入れて構わないからね。そんなジト目で見ないでよ。


 ヴァンパイア真祖が消えると、街のようすが変わり始め徐々に廃墟の様相を成していく。



「な、なんだこれは……」


「何が起きてるんだ」



 プレイヤーたちもこの場の異様さに戸惑っているようだ。


 辺りは完全に廃墟と化した。生きている者の気配が微塵も感じ取れない。あのヴァンパイアが消えたせいで、魔法でも解けたとでもいうのだろうか。


 アメ玉を配った時、喜んでくれたお子ちゃまたちも幻だったのか? いや、考えるのはよそう。これはクエストだったんだ。最初から何もなかったんだ。なんて後味の悪い結末だ。このダンジョンマスターは趣味が悪すぎる。



「これで五十一階に行けるのかな?」



 ウィズダムグリントのパーティーのリーダーが話しかけてきた。



「そうだと思いますけど」


「今日クリアできたのは、君たちのおかげだ。礼を言う」



 もう一つのパーティーからも礼を言われた。正直、巻き込んだのはこちらのような気がするけどな。二つのパーティーはこのまま探索を続けるそうだ。


 俺たちは五十階のボス部屋に転移で飛んで、五十一階まで降りてから降魔神殿に戻った。くたくたで、セアリアスの肩を借りないと歩けない。


 何とか風呂に入ってから、ベットに倒れこんだ。




 翌朝、起き上がれなかった……。


 全身が悲鳴をあげてる感じ。ニーニャとミーニャが起こしに来たけど、俺の只ならぬ様子にレイアとコリンさんを呼びに行ったようだ。



「ハハハ……。動けません」


「ルークくん。何をしたのか知りませんが、自分の体は大事にしないといけませんよ」


「はい……」


「ルーク。起き上がれますか?」


「む、無理かな……」


「何か軽い食事を持ってきますね」



 レイアがそう言って部屋を出ていった。



「にーに……」


「にーい……」


「ちょっと動けないだけだから、大丈夫」


「ニーニャ、ミーニャ。先ずは朝食をとって来なさい」



 ふたりはトボトボと部屋を出て行った。うー、心が痛い。ほどなくしてレイアがスープを持って来てくれた。


 まさか、こんな状況でアーンをすることになるとは。トホホホ……。



「今日は安静にして、ゆっくりと休んでくださいね」


「はい……」



 食事を取ったら眠くなってきた。



 お兄の錯乱……もとい、鬼の霍乱とはよく言ったものだ。





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