223 残念ヴァンパイア兄弟

 夕食の時間になった。


 コリンさんとレイア、ニーニャがいないと思ったら料理をしていたようだ。


 テーブルに並んだのは、キッシュ? ほうれん草のようなものとベーコンが入ったタルトだ。キッシュは好きしゅ。ふむ、いい出来だ。


 ほかにもジャガイモをスライスして、ミートソースっぽいものと何層にも重ねて焼いたもの。野菜のいっぱい入ったポトフ。焼き立てのパン。


 どれも美味しそうだな。ニーニャもミーニャも好き嫌いがないから、パクパク食べている。さくらは残念ながらネコ缶だ。ポトフのスープ少しだけもらってピチャピチャ飲んでいる。残さず飲んだからお口に合ったようだ。


 しかし、残念ながらうちの大食漢達には、少々足りず。結局、クリスタルから追加で料理を出した。さすがにコリンさんも驚いていた。昨日の夕食時はコリンさんが一緒だったから遠慮してたそうだ。にゃんこ談。そうは見えなかったが……。


 今日は迷宮に行く。


 中ボスもあと二体、ささっと倒そう。


 迷宮に行く準備をしていると、ファル師匠がやって来て参加するそうだ。訛った体を元に戻したいらしい。今のままでも十分だと思うが……。


 四十八階の洋館前に転移。建物は復活していないが、後ろに四十九階に降りる階段が出現している。


 階段を降り探索を開始だ。この階からはレッサーヴァンパイアしか出てこないようだ。一つのパーティー編成されており、前衛、後衛に別れバランスのとれた戦いをしてくる。正直厄介な相手だ。


 だが、こちらもセアリアスという盾役が加わったので、惹きつけ役ができ戦いやすくなった。特に今日はファル師匠の無双のおかげで、楽をさせてもらっている。


 そう、無双なのだ。ファル師匠が放つ一撃でレッサーヴァンパイアが沈む。ファル師匠が出す技に、聖ないし光属性が付加されているようだ。うさ子は火属性だったな。修行をすれば、うさ子も覚えるのか?


 デルタなんてほとんど働かず、たまに剣で相手を軽くいなしてるだけだ。オールなんか何もしていない。


 宝箱からは剣など見つけているが、俺たちには使い道がないので倉庫行き。槍とか弓が出てくれれば、嬉しいのに気が効かないダンジョンマスターだな。


 戦争のような集団戦では剣なんて使わない。イギリスでは、剣は逃亡する自軍の兵を切るために持っていたなんて聞いている。


 日本の戦国時代だってそうだ。基本、長槍だ。刀なんて数人切ったら、切れなくなる。まして、鎧を着てたら刀で切るには繋ぎ目を狙う以外ない。使い勝手が悪すぎ非効率的。要するに浪漫武器でしかない。メンテナンスも大変だしな。


 なんて考えてる間に洋館に着いた。が、何か変だ。全く気配を感じない。



「罠でしょうかね?」


「だとして、どうするのじゃ」


「行くしかないでしょう!」



 エターナに扉の開錠をさ鍵は開いたようだが扉は開かなかった。



「デルタ。やっちゃって」



 デルタが剣を振るうと、扉が……建物の壁ごと倒れた。大きな入り口の出来上がりだな。


 建物の探索したが、ヴァンパイアどころかレッサーヴァンパイアもいない。宝箱の中身は回収しておいた。


 暇だったのか、ファル師匠とデルタは勝手にキッチンにあったワインを開けて飲んでいる。まあ、いいけど。


 地下も調べたが、何もなかった。スッカラカンだ。


 そこで考察。ここは俺たち以外のパーティーが倒した後だったのか、最初からいなかったのか、あるいは逃げ出した? と考える。どうでもいいけどな。建物の裏に五十階に降りる階段があれば問題ない。


 建物の裏に行くとあった。この階はスルー階だったのか? ということは下の階に中ボスが二体いるのか? 大変そうだな。


 階段を降りると一本道、上のボス階と同じ作りのようだ。道を進み大きな扉の前に着く。



「ボス部屋ですね。ヴァンパイアが二体いると思われます」


「……倒せばよいのであろう」



 はい。デルタさんの言うとおりです。殲滅しちゃってください。我々のことはお気にする必要はないぞ?


 扉を開けて中に入る。なんて壮観な眺め……。レッサーヴァンパイアが武装して整然と並んでいる。ざっと見ても百を超えてるんじゃないか?



「フッハッハッハッ! やっと来たな、盗人共め。ここに来た以上は生きて帰れると思うなよ」



 一体のヴァンパイアが俺たちを見て高笑い。そして、なぜかもう一体のヴァンパイアは歌っている。テノール歌手のようだ。朝屋台は貧乏そう……もとい、朝謡は貧乏の相と言うが、確かに貧相な顔をしている。朝じゃないけどな。



「兄上~♪ 私にも~♪ 残して置いてくださいよ~♪」


「わかっておるわ。先ずはいたぶって……」



 レッサーヴァンパイアが並んでいる場所一帯に、ライトゾーンを張る。レッサーヴァンパイアたちが苦しみのたうち回る。


 エターナとほーちゃんからも無慈悲のも魔法が放たれている。さすが、俺の部下わかっているじゃないか。



「貴様らぁ! 人の口上も聞けぬのかぁ!」


「馬鹿かお前? なんでいちいち聞いてやる義理がある? ナンセンスだな」


「戦いの流儀も知らぬ、下等生物がぁ!」


「ハイハイ、ささっと消えろ。無知、無能、無力」


「兄上~♪ あ奴はこの私に譲ってください~♪ 八つ裂きにしてくれましょう~♪」


「うむ。許す、好きにいたせ!」


「い出よ~♪ 我が眷属共よ~♪」



 魔法陣が浮き上がり、何かが召喚されてくる。


 でかい鳥? かと思ったらハーピーだな。ハーピークイーン(ヴァンパイア化)となっている。もう一体出てきた。ブラックオーガ(ヴァンパイア化)だ。


 が、出てきた途端苦しんでいる。そりゃそうだ、ライトゾーンの中に召喚したんだからな。



「馬鹿だろうお前……」


「馬鹿ですのう」


「……あぁ、馬鹿だ」



 デルタはいいとしてオールに言われたらおしまいだぞ?



「な、なんだとぉ~!? ちょっと間違えただけよ~♪」


「そうだ! 弟はちゃんとやればできる子なんだ!」


「馬鹿じゃな……」


「某も、そう思います」


「……(コクコク)……」


「同族として恥ずかしい限りだ……」


「「……」」



 やっちゃった感いっぱいだな。


 残念ヴァンパイア兄弟だったか……。




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