222 エルフと同盟交渉
弓聖殿は眉間に皺を寄せ、こちらを見ている。
「それで、長に会いたい理由とは? 聞かずとも見当はつきますが」
「第十三魔王と同盟を結んでいただきたい」
「同盟を結んでどうします?」
「第八魔王の討伐をおこないます」
「また、多くの血が流れるのですね……」
「流れるでしょう。しかし、第八魔王を倒さねば、多くの虐げられる種族が増えます。第十三魔王はそれを良しとはしません。今現在、ケットシー族をはじめいくつかの妖精族が我々と協力関係にあります」
「ケットシー族がですか?」
弓聖殿がガレディアを見るとガレディアが頷く。ここにも何度かにゃんこ共を連れて来てるからな。
「基本、のんびりした妖精族でさえ、今の状況に危機感を抱いているのです。前の魔王の戦いでは使徒が手を貸してくれたそうですが、今回は手を貸してくれません」
「使徒様と会ったような口振りですね」
「我々プレイヤーが、どうやってこの世界に来ているか考えたことはありませんか?」
「使徒様が力を貸してると?」
「我々は使徒とは呼んでいませんがね。GMと呼んでいます」
なぜか横でセイさんが、なるほどといった顔をしている。言ってなかったっけ? でも、普通気付くよね。まあいい、話を続けよう。
「本来であれば、世界の調停者を名乗るクルミナ聖王国が第八魔王討伐を掲げるべきなのですが、いの一番に第八魔王と手を組み北方連合を売りました。なので、奴らも討伐対象です。ライナス国も同じ状況に陥っています」
「滅ぼすおつもりですか?」
「国自体はどうでもかまいませんが、ゾディアック一族は滅ぼすべきでしょう。使徒の眷属を名乗りを、数多くの暗躍を繰り返し、己の保身のために魔王とも手を結ぶ。救いようがない」
「兵を出すおつもりか?」
「出さずとも国民が討ってくれると期待したいです」
できるだけそう仕向ける。暗躍には暗躍だ。もちろん止めは、俺たちが刺しに行くだろう。
「同盟を結んだ暁には、我々にどうしろと?」
「第八魔王討伐準備が整うまでは、クルミナ聖王国とライナス国の牽制をお願いしたい」
「我々だけでですか?」
「今、ドワーフ族とも交渉中です。おそらく同盟を結んでくれるとみています」
「あの頭の固い種族がですか?」
「失礼ですがエルフ族よりドワーフ族のほうが、世界をよく見ています。どちらに正義があるのか? 彼らの信念は単純明快ですよ」
「「……」」
弓聖殿は何かを考えた挙句、
「セイ殿、いえ、プレイヤーも同じ考えと思っていいのかしら?」
「いえ、先ほども言いましたが全てではありません。現にクルミナ聖王国に付いたプレイヤーもいます。この状況に全く興味がないプレイヤーも多いでしょう」
「ファル殿のお考えは?」
「儂はひとりで何とかできると思っとった。しかし、ルークたちと会い真実を聞き愕然とした。ここまで酷い状況になっとると。儂は何と甘く愚かだったのじゃろう。所詮は儂ひとりの力など、川底を転がる石にすぎぬとな」
「拳聖の力を持ってしても、大きな流れには抗えないと?」
「うむ。大きな流れには大きな流れで、抗うしかないと気付かされた」
「……わかりました。長には話をつけましょう。いま少し時間を頂きたいと思います」
ファル師匠はこの後、旧交を温めるそうだ。酒はないかと聞かれたので一升瓶二本につまみになるようなものも渡しておいた。
「しかし、弓聖殿はお綺麗だな。ガレディアさんも綺麗だが、エルフはみんなああなのかな」
セイさんが耳元で囁いてきた。
「ガレディアがいいんですか? あんな行き遅れのババアが?」
「なんか言ったか。小僧」
「あら、行き遅れのババアには私も入るのかしら?」
「グハッ! な、何を仰っておられるんですか……。弓聖殿なら引く手数多、選り取り見取りではないですか」
「そんなことはありませんわ。どうです、ルーク殿が私を娶ってくれるというのは。そうなれば同盟はなったも同然ですわ」
「ハハハ……ご冗談がすぎますよ」
「残念ですわ。振られてしまいましたわ」
こ、怖いこの人……猛禽類の目をしてた。ちびに睨まれた、萎える……もとい、蛇に睨まれた蛙だよ。さっさとお暇しましょう。
外に出ても、セイさんはエルフは美人だとずっと言っている。お持ち帰りしたらいいんじゃないですか? ニンエイさんに切られても知りませんけど。
ゲート前で別れ降魔神殿に戻ると、珍しくオーロラが来ていてお茶会が開かれ、女子トークに花が咲いている。
あの輪の中には入りずらい。さくらにお願いして、秘密の部屋に入れてもらった。中は芝生の匂いに溢れポカポカ。ミケ、タマ、トラは丸くなって寝て、ほーちゃんは毛づくろいをしている。横になるとすぐに睡魔が襲ってきた。胸の上にさくらが乗り丸くなっている。両脇にはニーニャとミーニャがいて添い寝してくれるみたいだ……。
どの位寝たのかな、俺の傍にいるのはミーニャだけだ。ミーニャも寝ぼけ眼でこちらを見ている。部屋に戻ろうか。狭い通路を抜けて部屋の戻ると、お茶会は終わっていた。ミーニャを抱っこして席に座ると、ゼータがお茶とアポンジジュースを出してくれる。
オーロラは残っていたようで、一緒にお茶を飲んでいる。
「なんか動きはあったか?」
「そうですねぇ。海竜王派が裏切った者たちの居場所を必死に探しているようです」
「オーロラは知らないのか?」
「おおよその見当はついています」
「なら海竜王派にリークしてやれ」
「よろしいのですか?」
まったく問題ない。一度裏切った奴らだ。もう使えん。派手に潰しあってくれ。そうすれば、目覚めた海竜王と話しやすくなるに違いない。
「貸しだと言ってやればいい」
「承知しました。それから闇ギルドがまた来て、上納金を払えと言ってきております」
「それこそ無視しろ。奴らのことは後回しだ。が、オメガには報告しとけ」
「はい。報告は済んでおります。もう一つ、迷宮レベルが上がりましたのでリゾート部分を拡張する計画があります」
いやはや、盛況なことですな。今度は富裕層向けのコテージを増やすそうだ。スパリゾートって感じなのか? 人魚同盟の働き口にもなってるそうなので、いいんじゃないの。
「アロマテラピーとかマッサージとかなら、ひなさんたちが詳しいと思うから聞いてみたらいいぞ。そういう方面の詳しい人、紹介とかしてもらえるかもしれない」
「アロマテラピーですか? わかりました。訪ねて聞いてみます」
ドンドン稼いでくれ。お金はいくらあっても困らないからな。
クリスタルのポイントも貯まって、ウハウハだな!
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