221 エルフの弓聖

 ポチさんの話を終え、降魔神殿に戻った。


 まだ少し時間があるので、コリンさんをまだ紹介していないメンバーに会わせに行く。でんちゃんとヒーちゃんだ。ニーニャとミーニャがヒーちゃんのエサやり係だからいずれ会うだろうが、事前に顔合わせしといたほうがいいだろう。


 ニーニャとミーニャを抱っこしてコリンさんを連れ裏庭に行く。毎度の如く、のっそとでんちゃんが顔をあげた。コリンさんの顔が引きつってる。


 ニーニャとミーニャを降ろすと、さくらと一緒にでんちゃんの所に走って行く。



「あ、あのう、ルークくん。これはそのぅ……夢かしら?」



 ニーニャとミーニャがさくらが頭に乗ったでんちゃんの鼻の辺りを、なでなでしている。



「現実ですよ。大丈夫ですよ。命令しない限り人を襲うことはありません」



 コリンさんは恐る恐る近づいて、ニーニャとミーニャと同じように撫でてあげる。



「クギャー」


「ひゃっ!」



 ヒーちゃんの突然の鳴き声に驚いたようだ。



「ひーちゃん!」


「ひーにゃ!」


「ひーちゃんって言うの? 飛龍の子かしら?」



 二人が持ってきた、焼いてあるお肉をヒーちゃんの口に入れていく。なんか旨そうだな。にゃんこ共もヒーちゃんの横に並んでいる。お前たちにはプライドというものがないのか? こら、肉の取り合いをするんじゃありません!


 ここにきて、やっとコリンさんが笑ってくれた。これなら大丈夫かな。コリンさんにみんなを任せてファル師匠と出かける用意をしよう。


 ゲートを通り情報ギルドに行くと既にセイさんも待っており、中に入るとすぐにレミカさんが現れ会議室に連れて行かれた。


 座って待っていると、レミカさんがお茶を配ってくれる。ずずぅーとお茶を啜っていると、ドアが開きガレディアと白髪のエルフが入ってきた。


 爆発散弾銃……もとい、白髪三千丈というが、髪の色以外は若々しい。エルフだから年齢は見当も付かない。一瞬目が合ったが、微笑んでるにも関わらず背筋に悪寒が走る。このエルフはヤバイエルフだ。直感で悟った。逆らっては行けない相手だ。見た目に騙されるタイプだ。



「えでぇー!?」


「失礼なことを考えるでない」



 ファル師匠に拳骨をもらってしまった……。


 ファル師匠が立ち上がったので、それに習う。セイさんも立ち上がった。



「久しいな、アイラ殿。こうしてまた会えたこと喜ばしい限りじゃ」


「フフフ……。ファルング殿もお変わりなく」



 どうやらファル師匠が言ってたとおり、お知り合いだったようですね。なんか話が盛り上がって、俺たち忘れられてません? ガレディアを睨むが目をそらしやがったな、こいつ……。



「うおっほん。ファル師匠、そろそろ我々にもそちらの麗しきエルフ嬢をご紹介していただけませんか?」


「まあ、麗しきエルフ嬢だなんて……恥ずかしいですわ」


ハオ。この方はな、現弓聖のアイラリーフガルド殿じゃ。この者は儂の二番弟子でルークでな、こちらはプレイヤーのセイ殿じゃ」


「セイと言います。全てのプレイヤーの代表というわけではありませんが、多くの仲間の代表として本日は出席させていただきました」


「ファルングが不肖の弟子、ルークと申します。弓聖殿にお会いでき、光栄でございます」


「お弟子をとられたのですね。ルーク殿が次の拳聖ですか?」


「いや、一番弟子が修行の旅に出てましてな、その者に譲ることになりましょうな」


「ルーク殿はそれでよろしいのですか?」


「はい。私には拳聖の名は荷が重すぎます。拳聖の名は姉弟子が継ぐべきでしょう」


「次の拳聖は女性なのですか、お会いするのが楽しみですわ」



 全員が座りで、レミカさんがお茶を入れ直してくれた。



「剣聖殿は、今頃どこにいるのでしょうね?」


「あ奴は、テオールに行っとるはずじゃ」


「魔王ですか?」


「そうじゃ」



 ほう。初耳ですな。剣聖がテオールにねぇ。



「それで我らの長と会いたいと仰っていたのは、どちらですか?」


「その前に、ひとつお聞きしたいことがございます」


「なんでしょう? ルーク殿」


「今のこの世界の状況をエルフ族は、どのようにお考えですか?」


「そうですね。非常に危うい状況と考えています。クルミナ聖王国が第十三魔王に敗れ、更にライナス国が反旗を翻す。この大陸のパワーバランスが崩れ去ろうとしています」


「エルフ族は魔王について、どこまでご存知なのでしょうか?」


「テオールにいる魔王、北にいる魔王、最近出現した第十三魔王でしょうか」


「それしかご存知ないのですか?」


「それしかとは?」


「今現在、この世界には十三の魔王が実際に存在しています。近場で言えば、大森林に一人、南の海にひとりいるのですが、ご存知ない?」


「ガレディア」



 弓聖殿はガレディアを見るが、ガレディアは首を横に振っている。知らないってことだな。



「なぜ、そのことをご存知なのですか? よろしければ、お聞かせ願いませんか?」


「構いませんよ。それは、我々が第十三魔王に組みしてるからです」


「馬鹿な! 魔王に組みするだと! 気でも狂ったか小僧!」


「お黙りなさい。ガレディア」


「クッ……申し訳ありません。アイラ様」


「どういうことかご説明いただけませんでしょうか」



 弓聖殿は目つきを鋭くさせて睨んでくる。美しい女性にこうも見つめられると困っちゃうな。こんな状況でなければ喜ぶところなんだろうけど。残念だ。


 ということで、プレイヤーから始まり、十二の魔王、クルミナ聖王国との確執、自称魔王ランツェ、第八魔王の策略、魔王の手の上で踊るライナス国、もうすぐ始まる第八魔王との戦いについて語った。


 弓聖殿だけでなく、ガレディアにレミカさんまでも信じられないといった顔で聞いている。



「我々多くのプレイヤーの一部も、第十三魔王に賛同して同盟を結んでいます」


「ファル殿、今の話は本当ですか?」


「全てが本当か、と問われれば正直わからん。しかし、この状況まで至る経緯を見るに間違ってはおらんと見ている。それにじゃ、儂も第十三魔王殿の厄介になっておる」


「「「……」」」



 直ぐに信用しろというのはさすがに無理だろう。


 でも、真実を知っていると知らないでは大きな差がある。例え今回、協力を得られなかったとしても、真実を知ったことで関心は持つはずだ。そうなれば、必ずどこかで協力し合える時が来る。


 それが今回であれば、最高の結果だ。




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