218 正しき道
ミーニャを抱っこしたまま、ニーニャを探しにいつもの広場に向かった。
ケットシーのお子ちゃまたちとメイド隊が遊んでいるが、メイド隊の顔に疲労の色が見える。お子ちゃまの体力は無限だからな。
「ニーニャ! 帰る時間だよ」
「あい!」
集まって来たお子ちゃまたちのお口に、ポンポンアメ玉を入れていく。メイド隊もお口を開けて待っている。君たちも欲しいの? 仕方ないな。ミーニャがメイド隊のお口にアメ玉を入れていくと、満足顔になった。
ニーニャは恒例のハグが終わったようなので、ニーニャも抱っこして転移した。
部屋に戻ると、セアリアスとオールが睨み合っている。どうしたのよ?
「血を吸うしか能のない阿婆擦れが!」
「骸骨爺が何を言う!」
「儂は魔王様の臣下だぞ! 無礼だのう!」
「ふんっ。私はその魔王様の主の臣下だ!」
「ハイハイ。ふたり共、不毛な争いはやめなさい」
「ですが
「マスター!」
「同じ屋根の下で暮らすんだ、仲良くしなさい」
「「……」」
納得してないのがありありと顔に出ている。まあ、なるようになるだろう。
「セアリアスだ。みんなよろしくな」
「こ奴はヴァンパイアですぞ!」
オールの話は無視。
「セアリアス。血が欲しくなったら俺に言え。勝手に他人の血は吸うなよ。命令だ」
「承知しました」
それから、みんなを紹介。さくらが魔王と言った時は流石に驚いていた。ニーニャを紹介すると、ニーニャはもじもじしてはにかんでいた。ニーニャにしては珍しいな。
ミーニャは物怖じしない性格から、セアリアスに抱っこされても一瞬きょとんとしたが、後は嬉しかったのかしっぽをぶんぶん振っている。そのしっぽがテシテシとセアリアスの頬に当たる度、
「お、お嬢様……ご褒美ですか……ご褒美なんですね!」
ちょっと……いや、だいぶ心配だな。
今日の夜は迷宮探索に行く気はないので、ゆっくりしよう。
露天風呂でファル師匠とデルタ、オール、マーズ、オメガとのんびり酒を酌み交わしながら今後のことや課題を話した。
「ライナス国はどうするつもりじゃ?」
「さあ、どうしたらいいと思います?」
「第八魔王に操られておるなら断ち切るべきであろう」
「野心的なものはどうなのでございましょうか? 仮にもニーニャお嬢様を人質に取ろうとした者たちでございます」
「正妻の座ならともかく、飼い殺しはギルティだよね」
「確かに、赦せませぬのう」
確かに戦力としては欲しい。ゾディアックが我々の敵な以上、これ以上敵は作りたくはないのが本音だ。だがライナス国がやろうとしたことは、断じて許されることではない。
そのうえ、あそこの隣に自由都市フライハイトまである。下手すりゃクルミナ聖王国とライナス国、自由都市フライハイトが手を組むこともありえる。
そのためにも、ドワーフとエルフとは同盟を結んでおきたい。奴らの周りを同盟国で囲んでおけば十分な抑止力になるだろう。
「先ずは第八魔王から切り離すのが先決だ。ライナスは我々を甘く見ている節がある。冬明けの第八魔王との戦いで、それが間違いだったと思い知るだろう。その後の誠意次第だな」
「クルミナ聖王国はいかが致しますか?」
「あそこは潰す! これは確定事項だ。使徒の眷属だか何だか知らんが、あいつらがちゃんとしていれば、ここまで苦労することはなかったはずだ。第八魔王と手を組んだ挙句、第十三魔王討伐まで掲げたんだ、残す理由はない」
世界の調停者が聞いて呆れる。金と権力にまみれ汚れきり、同族にも見放された国に用はない。思いどおりにいかないという理由で、暗殺まで仕掛ける奴らだ。容赦する必要もないだろう。
ついでに、シルバーソードも潰したい。奴らは単なる遊びでしかないのだろうが、こっちはこの世界が生き残れるかがかかっているのだ。遊びじゃないんだよ。邪魔をするなら徹底的に潰してやる。
「潰してどうするのじゃ? おぬしが王になるか?」
「興味ないですね」
「ならば、どうする?」
「ケットシー国でも建国しますか。彼等なら間違ってもゾディアックみたいには、ならないでしょうからね」
案外いい考えかも。直ぐには無理でも手を貸せば上手くいくんじゃねぇ。
「それで、軍備のほうはどうなんだ?」
「スケルトンはだいぶ増強したのう。近場の古戦場は全て回って来たからのう」
「……訓練は順調だ」
「ボウガンにカノン砲も順調だね。問題はカノン砲を誰に使わせるかだね」
「カノン砲はプレイヤーに頼もうと思っている。あの大きさならストレージに入る。あれを簡単に持ち運びできれば、戦略上有利になる。あれが入るマジックバッグなんて作れるか?オール」
「厳しいですのう。あんなのが入るのは、本物のマジックバッグぐらいですのう」
「売ってたりするのか?」
「ありえませんのう。国宝級ですからのう」
だろうな、それを考えるとプレイヤーってチートだよな。更にさくらのキティバッグなんて魔王級だし。
「今日、ケットシーの長から話が合って、大森林の大神殿が協力してもいいと言ってきた。が、条件があってどうやら我々の力を試したいようだ。猪退治に協力を要請された。シルトとスケルトン部隊を行かせるつもりだ。デルタ、ランツェと話を詰めてくれ」
「……承知した」
大神殿の件はあとは、加法は見て足せ……もとい、果報は寝て待てだな。もふもふ、もふもふ。
「オメガ。そのほかの状況は?」
「さしてこれといった動いた状況はありませんが、海竜王派が多少慌ただしくなっているようです」
お尻に火がついて、やっとやる気になったのか? 頑張って欲しいものだ。海竜王が目覚めれば、一度挨拶に行かないと駄目だろう。彼等とは同盟を結ばないといけないからな。聖竜王のほうも何とかしたいものだ。
「マーズ。何かあるか?」
「相手の戦力が全く見えないのが難点かな。それくらいだね」
それは、正直どうしようもない。軍事衛星でもあれば話は別だが、人の手に頼ってる以上限界はある。特に正規の軍でもないので、把握は難しいだろう。
ほかにもいろいろ洗い出しをおこなった。これだけやっても不安は拭いきれない。これでいいのか? ほかにもやりようがあるんじゃないか? 俺が目指す世界が神が考える世界に合ったものなのか? 考えても考えても解答は導き出されない。
俺は弱い人間だ。全てを投げだしたいと思ったことも、一度や二度ではない。しかし、この世界が消滅の危機にあると知っている人間は俺だけだ。
全てぶちまけて、誰かに代わってもらえるなら代わって欲しい。まあ、
やるしかないのだ。魔王、悪魔と呼ばれようが、俺が正しいと思った道を突き進むしかない。それを邪魔する者は全て排除する。神の審判が下るその日までは……。
愛する者を守る、ひいてはこの世界を救うことになるのだから。
その後、おれは不安を押し殺し、またみんなと酒を酌み交わした。
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