215 エキドナ戦

 ケロベロス、オルトロス、キマイラはエキドナとテュポーンの間に生まれたモンスターだ。これ以上出てこないよな? ましてテュポーンなんて出てこられたら、勝ち目ないんじゃねぇ? ギリシャ神話の主神ゼウスと対等に渡り合ったモンスターだからな……。


 俺の目の前にいるのはオルトロス。二つの頭を持った黒犬だ。ドーベルマンのような顔をしている。エキドナと近親婚して子まで成した強者つわものだ。


 接近して攻撃を仕掛けるが片方の顔が牽制し、もう片方が攻撃してくる。前足の攻撃に加えて尻尾の蛇も侮れない。厄介な相手だ。


 雷属性の付加した拳で顔を殴りマヒさせることができるが、もう一方の顔はマヒしていない。双方独立しているということか? こちらも精霊を呼び出し防御に徹してもらっているが、一撃喰らうだけで消えてゆく。もちろん、精霊だけで防ぎきれるわけもなく、HPが削られていく。



「雷遁。紫雲」



 オルトロスを紫の霧が包み込みダメージを与える。苦しそうな声を出してのたうち回っていたかと思うと、ファイアブレスを吐き出して霧を払いだした。なるほど、そういう防ぎ方もあるのか、って関心している場合か!?



「雷遁。光糸牙」



 追い討ちを掛ける。



「レイバースト」



 ドラゴンオーラが続いている間に仕留めたい。尻尾の蛇が力なく垂れ下がった。部位破壊に成功したようだ。


 オルトロスの怒りに満ちた一方の顔が動きを変えた。何か仕掛けてくる気だろう。ファイアブレスか? 一瞬の間の後、緑色のブレスを吐いてきた、毒か? これは逆にチャンスだ!


 ダメージを受けているが毒耐性のおかげで、思ったほどダメージは受けていない。逆にオルトロスの顔に近づき、迅雷の小太刀を取り出し渾身の力で、ブレスを吐いてる顔の首を切りつける。けたたましい鳴き声をあげその首が、ゴトリと地面に落ちた。


 よし、こうなれば、ただの犬ころと変わらない。精霊に攻撃指示を出す。もう怖くはない、思う存分切りつける。



「雷遁。光糸牙」



 雷がオルトロスを貫き、勝負あり。オルトロスは光に消えていく。エキドナの叫び声が響く。見ればHPが少し回復している。子であり夫であるオルトロスが倒された悲しみで、HPが少し回復したとでもいうのだろうか? 面倒だ、後二匹居るってのに。


 セイさんたちも順調にダメージを与えている。キマイラの方も大丈夫そうだ。



 ドラゴンオーラももう少しで切れそうだ。切れる前にエキドナに一撃加えよう。ワザと大回りしてエキドナの背後に回り込む。セアリアスがこちらの意図を読んだようで、大袈裟にエキドナに対し牽制してくれている。


 ストレージから手持ちで一番攻撃力のある槍を出して雷属性を付加し、ジャンプしエキドナの尻尾目掛けて突き刺した。エキドナの悲鳴のような叫び声があがる。槍は思惑通り蛇の尻尾を貫通して、地面に深く突き刺さった。簡単には抜けないぞ。


 エキドナは何とか槍を抜こうと体を捻るが届かない。その隙に背中の羽を切り落とす。これで飛べなくなったはず。


 深追いは禁物、ドラゴンオーラが切れる。セアリアスの後ろに退避だ。


 武器をボウガンに持ち替え、ケロベロスに攻撃。既に頭が一つになっている。倒すのも時間の問題だ。キマイラのほうもダイチがアーツで注意を引き、デクスの槍攻撃に更紗さんたちの魔法で瀕死状態になっている。



 ほどなく、ケロベロスとキマイラも光に消えた。また、エキドナが悲しみの叫び声をあげHPが回復する。



「気を抜くなよ! 止めを刺しに行くぞ!」



 セイさんの掛け声と共に全員が攻撃に移る。対してエキドナはHPはある程度回復したものの、満身創痍だ。攻撃パターンもわかっているので、既にたいした敵ではなくなっていた。


 セイさんの渾身の一撃がエキドナの胸を貫き、息子たちの仇を討てなかったからなのか、悲しみの声と共に光に消えていった。



「強敵だったな」


「反則じゃねぇ。あんなの」


「どう見てもレイドボス級だと思うが……」



 いやー、勝ててよかったよ。本当。


 ファル師匠たちのほうはどうなった? 向こうも通常のオウルベアを召喚されたようだが、ファル師匠とデルタでは明らかに戦力過多、ほかのメンバーは必死そうだけどね。



「ぐぬぬ……まさか、とっておきのエキドナが敗れるとは……クッ、私が本気を出せば、お前たちなどゴミ同然なんだからなね! ああして、こうして、ポイっとしてやるんだから! 覚えていなさい!」



 およそざるは啜る……もとい、及ばざるはそしると言うが、負け犬の遠吠えにしか聞こえないな。露出狂のヴァンパイアは捨てセリフを吐いて奥に消えていった。


 さすがに疲れた、ちょっと休憩。自分にヒールを掛ける。セイさんたちも座りこんでいる。レイアがセアリアスとデクス以外に回復魔法を掛けていく。みんな疲れた表情だ。露出狂のヴァンパイアを倒したら撤収かな。


 向こうもオウルベアを倒し、グレートオウルベアを残すのみだ。


 デルタがいい具合にダメージを与えてHPを減らしていってる。これなら、リンネたちとにゃんこ共、エターナとほーちゃんでも倒せそうだ。


 最後はミケ、タマ、トラの連携攻撃でグレートオウルベアは沈み、光に消えていった。



「疲れたにゃ~」


「さすがにこれは……」


「鬼畜過ぎますわ」


「……(ハァッハァッ)……」


「つれ~よ。これは」


「キュピュゥ……」


「まだまだじゃのう」



 鬼だ、鬼がここにいる。お前ら頑張れ。


 ファル師匠とデルタ以外、全員座りこむ。



「そっちは大変だったみたいじゃのう。日頃のおこないのせいじゃな」



 皆さん、なんで俺の顔を見る?



「ミャ~」



 ううっ、俺のことをわかってくれるのは、さくらだけだ~。






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