210 シルバーソードの内情

 今夜も迷宮探索に行く。


 また、中ボスがいるんだろう。みんなで話し合った結果、面倒なので相手の話に乗らずさっさと潰すという意見にまとまった。ごめんね、ダンジョンマスターさん。


 そして四十七階、目の前には洋館がある。


 ライトゾーンを唱えて洋館まるごと包み込んだ。エターナは玄関辺りにライトエリアを唱えて設置する。


 館内部から多数の悲鳴が聞こえてくる。



「……無慈悲だな」


「え!? それ言っちゃう?」


あるじ殿、間違っても我々を巻き込まんでくだされのう」



 それは振りか? 本当は巻き込んで欲しいのか? と、思っていたら、二階の窓を突き破って何かが出てきた?



「貴様らぁ! 非常識にもほどがあるであろう!」



 ヴァンパイアのようだな。知らんがな。ライトバレットを二発放つ。ヴァンパイアとオールを狙ってな。



「「な、なにをする(んですのう)!」」


「チッ!」



 どっちも躱しやがった。運の良い奴め。



あるじ殿! 今、チッって言いましたのう! この魔王ろくでなし!」


「そんなに元気なら、さっさとそいつ倒せよ。オールの嫌いなヴァンパイアなんだからよ」


「ぐぬぬ……ぶつぶつ。ええぃ、死ならせ! ヴァンパイア!」



 ヴァンパイアの四方を炎の柱が囲む。



「フレアコンプレーション!」



 炎の柱が輝きを増し、四方の柱が中心のヴァンパイア目掛け集まる。



「ぐぉー!」



 四本の柱が一つになり、更に輝きを増した。もう、直視できない。


 数分後、炎が収まると、真っ黒な炭になったヴァンパイアらしきものだけが残っていた。



「や、やればできるじゃないか。オールくん」


「ふんっ。これでもリッチキングですからのう。こんな下級ヴァンパイアなんぞ、ひとひねりですのう!」



 そうか、それは頼もしい。年寄りの冷酒ひやざけ……もとい、冷や水じゃないことを祈る。


 それより、こいつ中ボスだったのか? 呆気ない最後だったな。


 ライトゾーンを解除して建物内部に入ると、地獄絵図だった……。消滅しきれず、焼けただれたレッサーヴァンパイアがのたうち回っている。


 もう少しライトゾーンを続けていれば、倒しきれたのかもしれない。



「……弱者をいびって楽しいか?」


「それ、マジで言ってる?」


あるじ殿は真の魔王ですからのう。弱いモンスターなどゴミ同然ですからのう」



 お前らねぇ……一度、腹割って話しようぜ。マジで。


 建物内の瀕死のレッサーヴァンパイアに止めをさしていく。また二階から順に物色した結果、宝箱は五つあり血鮮錠などのポーション系を手に入れた。それ以外にも、もらえるものはもらっておいた。なんか悪いですねぇ。ダンジョンマスターさん。


 地下に降りる階段は前回と同じ場所。使いまわしだが、簡単でいい。作りもほぼ同じ、途中に罠用のモンスターもいたが鎖でつながれていたままだったのでサックっと倒した。本来ならレイドボスなんだけどな。


 途中に牢屋があり中を覗くと、干からびたミイラ化した遺体しかなかった。ヴァンパイアの犠牲者なのだろう。


 一番奥の牢屋に通りかかると、



「畜生! ここから出せ!」



 などと、牢の中で喚いてえいる集団がいた。鑑定するとプレイヤー。それもシルバーソードのプレイヤーだった。



「おい! あんたプレイヤーだろ? 頼むからここから出してくれないか? 礼はする」


「強制ログアウトすればいいんじゃね?」


「それが、この場所はそれができないんだよ」



 へぇー、おそらくストーリーの展開上、ログアウトできないんだろう。思うに本当なら中ボスとのやりとりがあって、血を吸われて死に戻りとかに進むんだろうが、さっき中ボス倒したから俺たちが救出する流れになったとみえる。



「助けるのは構わないが少し話が聞きたい」


「何でも聞いてくれ。知ってることなら話す!」


「あんたらシルバーソードのプレイヤーだろう? 今の状況をどう考えてるんだ?」


「どう考えてるんだって言われてもなぁ」


「別に何も考えてないな」



 こいつら、本当に何も考えてないんだろうな。



「ほとんどのトップクランに喧嘩売ってんだぞ? クランマスター暗殺までやってるし」


「俺たち関係ないし」


「ここで俺がPKすると思わないのか?」


「ログアウトできるなら、いいかなってくらい?」



 か、軽いぞお前ら! みんなそうなのか? シルバーソード連合ってそんな奴らの集まりなのか?



「じゃあ、お前らをPKしていいんだな。俺さあ、ケインって奴嫌いなんだよ」


「いやいや、ケインと俺たち関係ないからね、ねっ?」


「シルバーソードも嫌いなんだよ。邪魔ばかりするからさあ。ルグージュ防衛戦でPKされた経験があってな、マジムカついてんだよ。まあ、影清って馬鹿には制裁くわえたけどな」


「影清? ってことは……あんた、ルークって奴か?」



 なんだ、俺も有名になったもんだな。



「だとしたらどうする?」


「別に何とも、さっきから言ってるが、攻略組の俺たちは関係ない。シルバーソードにいるのは便利だからだ」



 彼らが言うには、シルバーソードの攻略組は前回の魔王戦には参加してない。攻略組はケインに従っているわけではなく、クランに属する特典狙いで所属しているとのこと。ほかのクランとは違い、攻略組を優遇してプレイヤーを集め上位クランを維持しているのがシルバーソードらしい。


 ケイン自体が金持ちのボンボンで、このゲーム以外も金の力でクランを作っていたらしく、ここでも同じことをしている。ケインの近くにいる連中は、以前からの取り巻きだそうだ。金持ちって羨ましいよ。



「あんたたちはこのままシルバーソードにいるつもりか?」


「わからん。最近は攻略組にもケインは口を出してくるからな。ウザいんだよ」


「イベントに参加しろとか、それこそあんたをPKしてこいとかな」


「正直、いつまでもいる場所ではないと考え始めてる」



 なるほど、少しは話がわかる奴らだ。



「そうしたほうがいいぞ。じゃないとあんたたちもPK対象になる。ほかのクランは相当にイラついているからな。このままいくと全面戦争突入だな」


「そこまでなのか……」


「そこまでだ。ウィズダムグリントの本拠地のお披露目会の襲撃も、シルバーソードが裏で手を引いたのも知っている。NPCまで巻き込んでな」


「マジかよ……」


「やばくねぇ?」


「今回は助ける。代わりにほかの攻略組に今の情報を流してくれ。そして願わくば、PK対象にならないよう移籍を進める。デルタ」



 デルタが剣を振るうと、鉄格子がチーズの如く斬れた。



「助かったぜ。さっきの話はみんなに言っておくが、移籍するかは確約できない」


「あぁ、それで構わない。もし困ったことがあればゲインというプレイヤーに声を掛けろ、俺の名を出せば手を貸してくれる」


「わかった」



 少しでもシルバーソードの力を削げれば御の字だ。




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