209 獅子身中の虫

 食い倒れ屋に来ている。


 ニーニャとミーニャ、なぜかさくらもお着替え中だ。


 着替えが終わったようだ。三姉妹一緒に出てきた。


 ……とんでもない破壊力だ! 何ですかこれ? なんて可愛い生き物でしょう! 可愛くなるのはわかっていたがここまでだとは……。


 ニーニャはいつもの愛くるしい笑顔で、ウサギの可愛い着ぐるみから顔を出してモジモジしている姿はもうプリティーとしか言いようがない。


 ミーニャはウサギの着ぐるみから可愛い猫顔を出し、ピョンピョンウサギ飛びをする姿は誰でも抱きしめたくなるだろう。


 さくらも猫からウサギさんの格好になり、フワフワ浮いている姿は魔王じゃなくて天使だな。



「みんな可愛いすぎです。お持ち帰りしていいですか?」


「駄目に決まってるでしょう」


「それにしてもな、この可愛さは反則やろう」


「それには同感です。この格好で外に連れて行くのが怖いですよ」


「……そやなぁ」



 注目の的だろうな。変なのに目を付けられないようにしないと。こんちゃん、そろそろ三姉妹を離してください。帰るんで。


 部屋に戻ると、全員がその破壊力にダウンし。いつも冷静なレイアでさえ、三姉妹をギュッと抱きしめたくらいだ。


 三姉妹をテーブルの上に乗せて、ファッションショーが始まる。エターナくん、君はのぼらなくていいよ。ついでににゃんこ共もな。邪魔だ。


 メイド隊からタメ息がこぼれる。わかる、わかるよその気持ち、可愛さのあまりタメ息しか出ないよね。


 ゼータ、ミーニャを見て手をワキワキするのやめなさい。出禁にするぞ。


 レイアと三姉妹を連れて、コリンさんに見せに行こうとなった。


 転移ゲートを出た瞬間に一斉に視線が集まる。



「す、凄いですね」


「あぁ、ここまでだとはな……」



 少し歩いただけだが周りを取り囲まれている。移動できない……。


 ニーニャが愛想を振りまきながら手を振ると、ミーニャも負けじと手を振る。肩のさくらはあくびをしている。


 キャーキャー歓声が上り、更に人が増える。



「どうしましょう?」


「帰るしかないんじゃない?」


「おば様の所はまた今度ですねぇ」



 転移ゲートにも戻れないので、転移魔法で戻ってきた。


 ニーニャが難しい顔をしているな。もっとあの場にいたかったのか、コリンさんに会えなかったからなのかはわからないが、レイアに宥めてもらおう。


 ミーニャはキョトンとしている。状況が飲み込めてないな。



「ルークか、丁度よい。こないだの件で報告が来た。ほう、ミーニャ嬢ちゃん、可愛らしい格好をしとるのう。爺とおそろいじゃな」


「ウミャッ!」



 ファル師匠が戻ってきていたようだ。ファル師匠は自分からミーニャを抱き受け椅子に座る。俺も対面に座り、ゼータにお茶とアポンジジュースを頼んだ。


 ファル師匠はミーニャにアポンジジュースを飲ませながら、話を始めた。



「お主が言ったとおり、重臣の一人は黒のようじゃな。今は体調を崩したと言って、屋敷に籠っとるそうじゃ」


「理由は?」


「ヴァンパイアと接触していたそうじゃ」


「第八魔王ですね」


「おそらくな」



 やはり繋がっていたか。第八魔王は深謀遠慮タイプのようだ。面倒だな。


 しかし、こんなものか? あまりにも雑過ぎる、何か微妙だ。何かが違うと脳が警鐘を鳴らしている。



「ファル師匠はどう思われます?」


「そ奴で間違いないであろう」



 そうだろうか? ファル師匠には悪いが、それは線路の石……もとい、路傍の石ではないだろうか?


 そもそも、その重臣を眷属化してしまったら、意味がないのでは? 例え隠蔽スキルを持っていたとしても、日中活動できないのだからばれるのは時間の問題。屋敷に籠っているのも時間稼ぎでしかない。何かおかしい。


 俺ならどうする? そうだな、この重臣は囮だ。捨て駒でしかない。ワザとわかりやすい獲物を用意して本命を隠す。囮が捕まれば油断して、本命がいるとは考えなくなる可能性がある。そうでないとしても、時間を大幅に稼げるに違いない。二段構えということだな。



「側近のほうを徹底的に洗ってください。どんな細かいこともです」


「どういうことじゃ?」



 ファル師匠に俺の考えを聞かせた。



「ふむぅ。考えすぎではないかのう」


「ならば、その側近も巻き込んで重臣を捕らえてください」


「してどうする?」


「必ず、何かしらの不自然な動きを見せるはずです」



 積極的に動くか、邪魔をするか、あるいは口封じをしてくるか。普段と違う行動をしてくれれば御の字。その素振りを見せなくとも、目論見どおりにいったと油断はすることだろう。第八魔王と繋がっていれば、その後、必ずや尻尾をだすはずだ。



「このことはレオルグに話してもよいか?」


「やめたほうがいいでしょうね。誰がどこで繋がっているかわからない状況です。泳がせてもいいのですが、先ずは害虫を炙り出したほうがいいでしょう。泳がせておくとライナスの内部を食い荒されてしまいかねません」


「うむぅ……しかたあるまい。ブルームと動いてみよう」



 どこまで浸透しているか知らないが、重臣の半数は洗脳か言いくるめられているだろうな。ここで第八魔王との繋がりを切ったとしても、混乱は避けられない。下手をすれば、クルミナ聖王国と全面戦争になる。


 ライナス国にとっては厳しい状況だな。




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