207 呑めば呑むほど強くなる
建物内にも、まだ少なからずレッサーヴァンパイアが残っていた。いったい何体いるんだって感じだ。
宝箱などないか二階から物色させている。立派な執務用の机があったのでもらっておいた。オブジェクト設定で取れないかと思ったが、建物内のものはほとんどが持ち出し可のようだ。さくらがいれば根こそぎ持って行くのにな、残念。
ほかにも書物なども豊富にあったので回収。特にオールが喜んで漁っていた。ヴァンパイアだけに魔道関係の書物を集めていたようだ。
宝箱は二つあり中身は血鮮錠と言うアイテム。使い捨てだが、使うとヴァンパイアが寄って来るというものだ。面白いアイテムだ。
一階に降りて探索するとワインセラーを見つけ、ワインは全てお持ち帰り。デルタに報酬をもらうと言って、その場で年代物を二本空けられてしまったのが悔やまれる……。
この階でも目星いものを物色して頂戴した。ウハウハだ。ダンジョンマスターが怒ってなければ良いけどな。
宝箱も四つあり、血鮮錠が二つに呪われた剣と呪いの小剣を手に入れた。呪いの小剣はデルタにあげよう。呪い系の武器防具を使えるのはアンデッドくらいだからな。
地下に降りる階段は二階に上がる階段の裏にあった。要するに続いていたのね。
階段を降りて行くと、そこは酷い有様……。
「悪趣味ですのう」
「お前が言うか、それ」
「……」
壁一面、骸骨で埋め尽くされている。悪趣味というほかない。試しにスケルトンにならないかオールにやらせたが駄目だった。オブジェクト設定のようだ。尚更、悪趣味だ。
「……たんなる飾りか」
「つまんねぇーの」
「迷宮内ですからのう」
奥に進んで行くとオオカミと熊と蛇が合体したモンスターが出てきたが、デルタに真っ二つにされ消えていった。鑑定では???になっていたがキメラという奴だろう。
観察する間もなくいなくなったせいで、オールがもったいないとかブツブツ言っている。じゃあ持って帰って、うめき声が聞こえるという開かずの間にでもしまとけよ。
更に先に進むと実験室のような場所に出た。大きな水槽が幾つもあり、得体の知れないものが入っている。またも、オールが狂喜乱舞している。こいつと同類か?
「持って帰ってもよいですかのう?」
「どうやって持ち帰るつもりだ」
「……魔王様にお願いですかのう?」
「入んねぇよ!」
「転移魔法で……」
「ひとりでやれよ」
「……orz」
そこら辺にある研究資料で我慢しなさい。ほら先に進むぞ。
大きな部屋に出た。入ってきた入り口が鉄格子によって閉ざされる。閉じ込めたつもりか? この程度ならデルタ切っちゃうよ?
「フッハッハッハ! よく来たな下等生物共! ここが貴様らの墓場となるのだ!」
正面の二階にある観覧席からヴァンパイアが叫んでいる。失せ物のそりゃないわ……もとい、えせ者の空笑いか!?
左右の大きな鉄格子が開き中から大きな足音が聞こえてくる。
左からは赤い肌をしたサイクロプス亜種(ヴァンパイア化)、右からはゴツゴツした体を持った土竜が出てきた。
このサイクロプス亜種はヴァンパイア化してるということは、あのヴァンパイアこいつの血を飲んだってことだよな。うへ、気色わりぃ……。
土竜は確かリンネたちがレイド戦で、戦ったとか言ってたな。確かに強そうだ。
「土竜はデルタとオールに任せる」
「……よかろう」
「承知じゃのう」
「エターナとほーちゃんはこいつだ。ヴァンパイア化してるから魔法主体でいけ」
サイクロプスは防衛戦以来だな。せっかくなので、日頃の成果を確認しよう。全身に気を纏い、右手に聖属性、左手に雷属性、瞬動術で接近し攻撃する。サイクロプス亜種はヴァンパイア化してステータスがUPしているがいかせん遅い。一撃一撃は確かに凶悪だが、俺について来れていない。エターナたちの攻撃も効きまくっている。
逆にヴァンパイア化したことにより、アンデット特化のうちらのパーティーにとっては弱体化したことになるんじゃない? なんか悪いね、ご期待に添えなくて。
前と同じで足の親指を潰すと倒れこんだ。弱点を突くのはセオリーだから悪くて思わないでくれ。ただ、サイクロプス亜種だけあってヴァンパイア化したこともあり、再生能力が半端ない。相手の拳を躱しながら顔面に拳を叩きつけているが、なかなかに倒しきれない。
「……手を貸すか?」
え!? そっちはもう倒したの? 仮にもレイドボスだぞ。デルタさん半端ねぇっす。
「くっそー! 必要ないわー! これは俺たちの訓練なんじゃぁ!」
両手を光属性にして連打連打の嵐、エターナとほーちゃんの頑張りもあり、数分後に何とか倒した。
「ば、馬鹿な! こうもあっさりと……」
「畜生! 待ってろよ吸血野郎! 今からそこに行ってギッタンギッタンにしてやるからな!」
ヴァンパイアは奥に逃げて行った。逃がしてたまるか!
空飛ぶほーちゃんにロープを持たせて、二階の柱にに結ばせ登って追いかけた。
最奥の部屋にそいつはいた。周りにはミイラ化した遺体がごろごろ転がっている。中には明らかに子供と思われるものまである。クエストとはいえど、遣る瀬ないものがある。こいつ、許すまじ。
「クックック……まさかここまで追い詰められるとはな。本来であればあのお方に献上するはずだったが、背に腹は代えられまい」
ヴァンパイアは棚にあったワインボトルを一気に飲み干した。なんだ? 鑑定すると奴のステータスが一気にUPしている。
「我らヴァンパイアは血を飲めば飲むほど、一時的ではあるが力が増すのだよ。お前たちを倒すには十分な時間だ」
ほう。飲めば飲むほど強くなるか。これは俺に対する挑戦状だな。
「面白い。実は俺も吞めば呑むほど強くなるんだ」
「なに!? 貴様、もしやダンピールか!」
「ダンピール? そんな使い古されたものと一緒にしないでくれ」
先程手に入れたワインの口を手刀で斬る。これやってみたかったんだよ。意外と簡単にできた。
ワインを一気に
「……もったいないな」
もったいないとはなんだね? デルタくん。これは必要なことなんだぞ。
「プッハー、ヒック。い~い感じらぁーよ。しゃあ、ろんどんいくよ~」
「ロンドン?」
「ろん、ろん!」
「主は何がしたいのでしょうか? 某、図りかねます」
ほーちゃん。もう少し待ってちょーだい。もう少し吞ませてね。残りのお酒も一気に呑む。かぁーって感じだな。
どうやらあちらさんも、準備ができたようだ。
今度は逃がさない。
確実に消してやる。
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