204 ドワーフ族の勧誘

 オメガの所に来た。



「ドワーフ族の件ってどうなってる?」


「はい、現在鉄の部族と接触を試みております」



 ドワーフ族は国という形態をとってはいるが、国王にはさほど権力はない。実質は部族同士の会議で全てが決まる。なので、決まるまでが異常に長い。


 前回の第十三魔王軍対クルミナ聖王国軍との戦いの時も、結局最後まで意見が纏まらなかったそうだ。我々は多いに助かったが、立場が逆になると何とももどかしいだろう。


 そして、ドワーフ族の中でも最大勢力を誇るのが鉄の部族。オメガはその部族に根回しを頼んでいる。たいていのファンタジー小説でもそうだが、この世界のドワーフも例に洩れず酒好きな種族らしいので、根回し用に大量の酒を持たせたそうだ。ガンガン飲ませて言質を取ってしまえばいい。



「どんな感じだ?」


「頑固、直実、豪胆というところでしょうか。味方に付いていただければ、頼もしい味方となることでございましょう」



 パワーだけなら竜人族に匹敵し、なにより見た目から想像できない器用さを持ち合わせて鍛冶技能が高いときている。味方になれば色々助けになってくれることだろう。


 俺たちの場所からは、陸路ではクルミナ聖王国と自由都市フライハイトを挟むが、ドワーフ王国は港街があるので海路ならすぐだ。ライナス国、エルフの国、自由都市フライハイトとも隣接している。



「根回し状況はどうだ?」


「鉄の部族長は我々の話に乗り気です。後は残りの部族を説得するようにお願いしております」


「ドワーフ王国は隣接する国が多いし海にも面している。第八魔王だけでなく第十一魔王の牽制にもなる重要な国だ。失敗は許されない。必要なら酒でも何でも送ってやれ。それで、味方に付いてくれるなら安いもんだ」


「自由都市フライハイトはいかが致しますか?」


「自由都市フライハイトかぁ……」



 自由都市フライハイトは言ってみれば、どこの国にも属していない商業都市だ。クルミナ聖王国、ライナス国、ドワーフ王国に隣接しており海にも面している。しかし、黒い噂が絶えない所でもある。商業ギルドの本部があり、闇ギルドの本部もあると言われている。ギャンブルの都、グランドカジノがある場所でもあるな。



「あそこは保留だ」


「オーロラ殿の所にいろいろとちょっかいを出していますが?」


「潰してるんだろ?」


「はい。今のところは」


「なら今のところ問題はない。やるにしても証拠がいる。今はそっちに手をさく余裕はない。監視だけにしとけ」


「承知しました」




 今日は久しぶりに迷宮に行こう。最近忙しくて行けてなかったからな。その前にエターナの新装備を取りに行こう。



「ルークくん。エターナちゃんいらっしゃい! ってその子はなに!?」



 ほーちゃんがこんちゃんに捕まった……当分戻ってこないな。



「舞姫さん、装備できてるってメールもらったんだけど」


「できてるでぇ。ちょっとまってなぁ。エターナちゃん、これが新装備や! 着替えてや」



 エターナが新装備を持って奥に入って行った。暫しの間待つ。エターナが奥から出てきた姿を見て唖然……。某ご隠居さんと一緒にいる、忍びのおシルバーさんだ。なんかエロい。



「よう似合っとるやないか! この装備はな上から下までセットでな、代わりに補正値と特殊効果が付く優れもんや!」



 防御値はそこそこだが、AGIに五十の補正が入り、回避力UP、猿系モンスターが稀に協力してくれる。って、フライングモンキーか!? 終いには風車が飛んでくるんじゃねぇ?


 葵の忍び装束と言うらしい。まんまやないかい!


 しかし、見ていて寒そうなんだけど……どうなのよ?



「心配無用や! そう言われると思おてな、ちゃんと作ってあるんや!」



 嫌な予感しかしないのだが、気のせいか?



「言うておくけど、葵の忍び装束だけでも温かいんやからな、全身タイツやけど、温かいうえ蒸れないんやからな! でも確かに見た目は寒々しいのは確かや。そこでや、ジャジャアーン! ウサギスーツや!」



 ウサギスーツだと! ウサギの着ぐるみにしか見えませんが、どうなんです? エターナさん。


 エターナは頬を上気させウサギスーツを凝視してる。あっ、着てみるのね? 忍び装束の上から着ると、まんまウサギだな……。若干スレンダーで動きやすそうではある。



「どぉやぁ? 可愛いやろ。好感度UPの特殊効果もあるんやで」



 さ、さいですかぁ。まあ、本人が気に入っているならそれでいい。この目立つ格好と認識阻害はどっちが勝つんだろうか……。



「ルークくん! この子ください!」


「駄目だから……」


「ルークくんばっかりずるいです~」


「自分でテイムしてくればいいじゃないですか」


「テイムスキル持ってないよ~」


「なくてもできるのはリンネが証明している。必要なのは行動力と熱意だ!」


「迷って決められないよ~」


「じゃあ、諦めるしかないな」


「う~、いけず~」



 更紗さんを紹介してあげようか? そういえば更紗さんが落札したレアモンスターの卵ってどうなったんだ? 今度聞いてみよう。ついでに飛竜についても、何か知らないだろうか? ペン太みたいにいつまでも幼生体のままってのもなぁ。あいつはどうやったら大人になるんだ? まあ、いいけどさぁ。


 いやいや、いかんな。人の遭難より我が女難……もとい、人の七難より我が十難、俺ももっと強くならないといけないな。


 個人の力など微々たるものだが、何かあった時に後悔したくない。


 愛する者を守ると決めた以上、守ってみせる。


 やるしかないんだ。





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