203 餌付け

 実験は順調に進んでいる。



「アイントンさん。無線のほうはどうですか?」


「うむ。これがなかなかに難しい。映像が送れるなら、簡単と思っていたのだが……。音声を信号にして音声に戻すのがな、もう少し時間が掛かりそうだ」



 そうか、難しいのか双方向でやり取りできれば、戦術が格段に広がるんだけどな。双方向でなければ幾つかの方法はある。転移魔法を使える者を用意するなどだな。しかし、転移魔法は決まった場所にしか飛べない。戦況が動けば、いちいちフロントラインに移動しなければならない。


 何かいい方法はないかね?



「飛空船の操作距離の強化のほうはどうですか?」


「この世界には電波法がないからね、問題ない。周波数と電界強度を調整中だ。パラボラやアンテナ等を使えば更に伸びる」


「了解です。鉄塔でも建てますか?」


「そうすれば完璧だな」


「マーズ。検討頼む」


「はぁ……らじゃー」



 美味いもん食わせてやるから頑張れ!




 降魔神殿に戻ると、ゼータに抱っこされてたミーニャが俺に飛びついてくる。



「ウミャ~」



 ゼータは寂し気な目を向けて来るが知らんがな。


 ニーニャたちはでんちゃんの所で飛空船を飛ばしているらしい。行ってみるか。


 でんちゃんの所ではメイド隊とにゃんこ共、エターナたちがヒーちゃんに干し肉を与えていた。ほーちゃんが途中で奪ったりして、キャッキャッ、ウフフと賑やかですな。


 レイアが抱っこした状態でニーニャはゴーグルを被って飛行船を飛ばしている。



「ねえ、ニーニャ。ミーニャにも見せてあげてくれないかなぁ」


「あい!」



 ゴーグルをミーニャに被せてあげるが、操縦はニーニャがするようだ。



「ウミャッ!」


 ミーニャはビクっと体を硬直させ、俺にしがみつく。だんだん体がフラフラ揺れている。飛行船の動きに連動しているな。飛空船がレイアの前にくると、



「みゃ~ぁ、にゃ~ぃ」



 と言って手を伸ばしている。



「ママとニーニャが見えるのかしら? ミーニャ」


「ウニャ~」



 今度は俺の前に飛空船がきた。



「に~ぃ、ちゃ~ぃ」


「ミャー」



 ちゃ~ぃはさくらのことみたいだな。まだ、ちゃんと喋れてはいないけど、ちゃんとわかってるようだ。さくらがミーニャをペロペロしている。嬉しかったのかな?


 空中散歩も満足したようなので、ヒーちゃんの所に行ってみた。


 でんちゃんが顔を寄せてくる。さくらがでんちゃん頭にぴょんと乗りなでなでしてあげてる。ミーニャもさくらに習って、でんちゃんの鼻の辺りをなでなでしてあげる。ミーニャは結構物怖じしないタイプなのか、それともさくらがでんちゃんに優しくしたからだろうか?


 どちらでも構わないが、優しい子に育って欲しいな。


 ヒーちゃんはにゃんこ共と同じで、メイド隊に餌付けされてるな……。ほーちゃんも既に餌付けされた後のようだ……。みんな並んで干し肉を待ってる姿はシュールだな。特にトラ……。


 ミーニャも干し肉をもらって、ヒーちゃんにあげる。



「クギャー」



 ヒーちゃんがミーニャに顔を寄せてスリスリしてくる。そんなヒーちゃんの頭をミーニャがなでなでしている姿はとても微笑ましい。


 ミーニャはほーちゃんにも干し肉を差し出した。



「某にも頂けるのですか? ミーニャ殿はお優しい」



 なんやかんやで、ミーニャとほーちゃんは仲がいい。古城のクエストの時にずっと傍にいたせいかもしれない。エターナとほーちゃんにニーニャとミーニャの世話を頼むと、エターナはニーニャ、ほーちゃんはミーニャのペアになることが多い。まあ、仲がいいのはいいことだ。



「うにゃ~! ミケも欲しいでござるにゃ!」


「うまうま」


「この頃、体重が……」


「……(ダラダラ)……」



 ミーニャがにゃんこ共に餌付けを始めた。いいのか? にゃんこ共、ケットシーの先輩としてのプライドはどうした?



「ルークにゃんは甘いにゃ!」


「力ある者がボスだな」


「哀しいけど、力=食べ物なのよね……」


「……(コクコク)……」



 よ、よわい……弱すぎるぞ、お前たち!! ニーニャの親衛隊なのが不安になってくる。というかお前たちは、このままだといつまで経っても最底辺から抜け出せないと思うぞ。


 ミーニャはこんな大人になっちゃ駄目だぞ。仮免教師……もとい、反面教師にしなさい。マネしちゃ駄目、絶対!


 おっ!? あみゅーさんからメールが届いた。


 トラ、ミーニャをよろしく。


 なになに、毒入りのお茶は出入りの商人から最高級のお茶と言われて買ったもので、売った商人も行商人から仕入れたものなんだそうだが、行商人の所在は不明。ふむぅ、内情を知ってる者の手引きがないとできない罠だな。


 側近に関しては怪しい動きはないが、重臣のほうは多くの者の出入りがあるため、現在調査中。


 あの謁見の後、意見が二つに割れ協議というより言い争いに近い状況なんだそうだ。片方は第十三魔王と友好を結ぶべきと言い、片方は魔王として討伐対象にし他種族にも協力を仰ぎ打倒すべきと言っているらしい。


 正直、どちらでも構わない。邪魔なら排除するだけだ。問題は背後に第八魔王がいるかどうかが問題。ファル師匠の情報待ちだな。


 そういや、ガレディアはどうなった? 約束忘れてないよな。



「なぁ、レイア。情報ギルドに行く用事ってある?」


「そうですね、なくはないですがどうかしましたか?」


「ガレディアかレミカさんに会ったら、ルークが約束は? って言ってたって言っといて」


「約束ですか? わかりました。言っておきます」



 オメガのほうはどうなっている? 隠れ住んでるエルフに比べて、ドワーフ族はちゃんとした国の形態をとっているから、接触しやすいと思うんだが後で確認しよう。


 トレント族とも会ってみたいし、コボルト族のポチさんが交渉しているオオカミの一族とも会っておきたいな。


 味方は多いに越した事はないからな。




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