202 性能実験

 翌朝、寝ている時に心眼スキルが二人の侵入者を感知した。


 ベッドからするりと抜け出して、侵入者の後ろに回り込む。どうやら狙いは俺のようだ。侵入者の二人は息を殺し、飛び掛かる機会を狙っている。二人が頷き合い、俺がいないと気付かぬままベッドに襲い掛かった。


 俺はその隙を逃すわけもなく、背後から襲いかかる。



「「うみゃっ!?」」



 侵入者二人を拘束したまま布団に潜り込み二度寝する。ゼータの雷が落ちるだろうが、雷属性を持つ俺には効かない。二人ともおとなしく寝ようね。


 気持ちよく寝ていると……案の定、ゼータの雷が落ちた。無視してニーニャとミーニャを抱きしめたまま寝ていると、更なる攻撃を加えてくる。



「い、痛い、痛いから耳を引っ張るのやめて! ゼータさん!」


「それなら、お嬢様たちを解放して、さっさと起きてください。ルーク様!」



 く、くそー。ゼータの奴め物理攻撃に出てくるとは。それは反則だろう。俺の部屋作ろうかなぁ……。


 朝食を食べさくらとマーズと北の砦に行く前に、アイントンさんの研究所に向かった。


 研究所には四台の大砲が置いてある。



「何が違うんだ?」


「経口と砲弾と緩衝装置」



 要するに、弾の大きさ、形、どうやって反動を逃がすかということだ。


 さくらに一式収納してもらい北の砦に飛ぶ。


 実験にあたり砦の先の平原には歩兵部隊を配置させ周りを巡回させている。この時期にこの周辺に人がいることはまずない。逆にいるとすればそれは間者ぐらいのものだろう。オメガにも頼んでいるが念には念を入れている。


 平原は雪景色、見渡す限り真っ白だ。実験結果がわかりやすくていいな。


 まずは大きなほうの大砲だ。経口は百ミリ、全長二メートル半。ただの滑空砲の駐退機式とライフリングのありの駐退復座機式の二つだ。


 滑空砲の駐退機式は二種類の丸い弾を使う。零距離射撃用の鉄の弾と中に火薬の詰まった榴弾だ。


 大砲とは時代によって使用方法が異なる。零距離射撃いわゆる水平射撃は丸い弾を飛ばして敵をなぎ倒しながら跳ねて行く。よって只の丸い弾を飛距離を出すために曲射撃ちしても、地面に埋まるだけで意味がない。如何に周りを巻き込むかが重要なのだ。


 そして、榴弾は信管などにより弾そのものを爆発させ、その破片や着弾点の地面の石などにより広範にダメージを与えるものなので、曲射撃ちでも問題ない。


 滑空砲の駐退機式の大砲は弾を発射した後、大砲本体はは車輪があるので後方に反動を逃がすことができる、反面、元に戻す手間がかかるので再標準に時間がかかる。


 ライフリングのありの駐退復座機式は、弾と砲の間に溝を彫り弾の外に樹脂や軟金属を口径より大きく付けて、発射時に隙間をなくして弾を回転んさせて直進性と飛距離を伸ばすものだ。発射後の反動はバネや油圧で緩和させることにより、再標準がしやすくなる。弾は榴弾のみ。


 さあ、撃ってみよう。


 零距離射撃からだ。炸薬を入れ弾もセットし紐を引き、雷管に針が刺さり爆音と共に弾が発射される。着弾の後、雪と土を巻上げながら跳弾となり転がっていく。距離にして三百メートルくらいだろうか。巻き込まれたらひとたまりもないな。


 計測班が走って行く。


 しかし、音が凄まじく肩にいたさくらがびっくりして、フードの中に隠れてしまった。


 反動もあるので元の位置に戻し、掃除して次弾装填まで三分以上、照準もつければ四、五分というところか。


 次は榴弾で曲射だな。角度を四十五度にセットして紐を引く。爆音とともに弾が弧を描き飛んでいく。着弾の後、爆発し広範囲に破片や石が飛び散る。距離にして八百メートルだくらいかな。意外と飛んだ、凄いな。


 次はライフリングのありの駐退復座機式だ。こちらは曲射のみ。弾は先が尖ったものになるからだ。同じように弾をセットし紐を引く、マズルブレーキも装着されているせいか、爆音の音が鈍く感じる。砲自体がスライドして反動を逃がすため、設置台自体はほとんど動かない。飛距離も相当伸びている。後で聞いたところ、千二百メートル飛んだそうだ。半端ねぇ……。


 次に用意されたのは五十ミリ砲。


 これは零距離による接射が目的だ。弾を榴散弾に変えて撃ち出す。一定距離まで行くと爆発し、四方に弾の中に入っている小さな玉をばら撒きダメージを負わせるものだ。滑空砲の駐退機式用の丸い弾と、ライフリングのありの駐退復座機式用の筒形の二種類を用意した。


 結果はどちらも半端ない。非人道的兵器と呼ばれた意味がよくわかったよ……。



「これは酷いな……」


「造れって言ったのチーフだよ。でも効果的でしょう? 榴散弾はアイントンさんの意見だけど」


「確かに効果的にとは言ったが……」


「この世界では超高度からの攻撃なんて無理だろうから、空の敵に対空攻撃もできるよ」



 確かに超高度をとれるのはドラゴンの一部くらいだろう。昨日のような飛竜相手なら効果的な攻撃になるな。



「徹甲弾なんて作れないのか?」


「造れなくはないけど精密射撃なんてできないし、無煙火薬が使えないから威力がでないから意味がないよ」


「そうか……こいつらの費用と制作時間は?」


「それ以前の問題で人が足りてないね」


「歩兵部隊に手伝わせたら駄目か? 力仕事や土台組ならできるんじゃねぇ?」


「そのくらいなら、頼めるかなぁ?」


「金は掛かっても構わない。できるだけ多く作ってくれ」


「ら、らじゃー」



 戦いは数だよっと言った武人がいたが、そのとおりだと思う。


 少しでも多く作って欲しい。


 時間が惜しい。咳は風邪なり……もとい、時は金なりとはよく言ったものだ。


 マーズ、寝ないで頑張れよ!




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