201 飛竜のヒーちゃん

 さくらが飛竜の子のお腹の下に潜り込んだ。何がしたいの? さくら。


 ゆっくりだが、少しづつ浮いている。



「ミャミャ……」



 さくらの浮遊スキルで持ち上げてるみたいだが、いかせんさくらが小さすぎる。何とか俺の顔の高さまで浮いたが、限界だったみたいだ。急に浮力を失い落下した。


 とっさに飛竜の子とさくらをキャッチ。危なくさくらがペチャンコになるところだった。



「ウミャ~」



 さくら、頑張ったね。残念だったけど、健気で可愛いかったよ。ほっぺにチューしてあげよう。


 さて困った。どうしようか?


 飛竜の子は元気になったせいか盛んにトラにお肉をねだっている。この状況を理解しろと言うのも無理な話だが、暢気なものだ。


 うーん。返せないなら、うちで引き取るか?



「なあ。お前、うちの子になる気はないか?」


「クギャッ?」


「お前を親元に帰してやりたいがちょっと無理みたいだ。お前の面倒はうちでみるから、あいつらに帰ってもらえないかな?」


「クギャッ?」



 って、わかるわけないよな……。



「クギャー!」


「え!? うそっ!」



 テイムが成功した……。マジっすか、冗談のつもりだったんだけど……。


 トラに飛竜の子を持たせ城壁に登る。



「ルーク! どうなった! このままだと防ぎきれんぞ!」


「セイさん、ちょっと場所開けてもらえます?」


「くっ、この忙しい時に、そこ! 少し開けてやれ!」



 トラが城壁の空いた場所に、飛竜の子を置いた。



「頼むぞ、ヒーちゃん!」


「クギャ? クギャッ! クギャーーーー!」



 ものすごい甲高い鳴き声が響き渡る。途端に、飛竜の群れの攻撃が止む。ヒーちゃんは何度か鳴くと、二頭の飛竜が近づいて来た。


 更に何度か鳴くと、ヒーちゃんに二頭の飛竜は顔をくっつけあった後、一瞬自分を見てから離れて行った。ヒーちゃんの親なんだろうな。ごめんな。本当は帰してやりたいんだが、ちょっと無理。


 しかし、どうやら危機は去ったようだ。先程の二頭の飛竜が甲高い鳴き声を出すと、飛竜の群れは北の方に向きを変え飛び去って行った。



「終わったのか……」


「みたいですね」


「どういうことか説明しろよ」



 なので、簡単に飛竜の子を囮にして群をおびき寄せ、この城を攻撃させたと語った。



「何の意味があってこんなことを……」


「理由は色々あるでしょうね」


「我々はクルミナ聖王国の敵とみなされた。ということか」



 そういうことですよ。ニンエイさん。但し、ウィズダムグリントだけじゃなく、今日ここに集まった全てのクラン、プレイヤー、NPCがでしょうね。



「ワイルドあにまるズがライナスに付いたのも、知られているでしょうから」


「うちらにゃかー?」


「本当の狙いは、北の魔王の援護というか、既成事実を作りたかったんじゃないでしょうか」


「北の魔王への牽制か……」


「クルミナ聖王国も焦っとるというわけじゃな」



 そういうことだろう。クルミナ聖王国が第十三魔王に敗れ獣人国ライナスに敗れた今、北の魔王が裏切ってもおかしくない状況。クルミナ聖王国が利用しようとした存在が、逆に制御しきれず邪魔な存在へと変わってきた。


 それはプレイヤーがこの世界に来てから、おかしくなったと奴らは思っているかもしれない。だが、我々プレイヤーが来なくとも、徐々に破錠していたはずだ。プレイヤーはきっかけでしかない。



「飛竜をテイムか、羨ましいな」



 そういう問題じゃないと思いますよ、更紗さん。



「手引きしたのはシルバーソードの連中だろう」


「奴らもなりふり構わなくなってきたな……」


「どうするにゃ?」


「どうもできんだろう。証拠がない」



 プレイヤーのみなさんは口惜しそうにしている。シルバーソードも正直なところ、肉を食らわば皿まで……もとい、毒を食らわば皿までって感じじゃないだろうか? 全く弁護する気はないけどな。勝手に自滅しろ。


 折角のお披露目会がとんだことになった。今日はこれで終わりだろう。満足顔なのはお腹いっぱいになった、にゃんこ共だけだ。やれやれだぜぇ。


 トラにヒーちゃんを抱っこさせ降魔神殿に戻ると、全員固まっている。



「飛竜のヒーちゃんだ。よろしくな」


「クギャー」



 ヒーちゃんの鳴き声で、我に返ると今度は興味が湧き周りを囲んでいる。ニーニャとミーニャがヒーちゃんの頭をなでなでしている。


 さすがに、室内では飼えないな……。でんちゃんの所に連れて行くか。毛布を多めに持ってでんちゃんの所に来た。のそっとでんちゃんが首をあげてこちらを見る。



「ヒーちゃんだ。仲良くしてくれ」


「ミャー」


「くぎゃ~」



 でんちゃんの首の所に毛布を重ねて、寝床を作りヒーちゃんを置く。でんちゃんがその寝床をを囲うように首を丸める。どうやら問題ないな。これで安心だ、最強の養育係だよ。


 夕食を食べ終わるとメイド隊とニーニャ、ミーニャはヒーちゃんにご飯をやりに行った。俺はマーズと進捗状況について打ち合わせをする。



「カノン砲のプロトタイプが出来たけどどうする?」


「実射はしたのか?」


「明日やろうと思ってる」


「それじゃあ、明日付き合う。北の砦の先の平原でやろう」



 そうか、とうとう出来たか知識チートの極みだな。使徒様ラヴィーちゃんの妨害がなければ、無煙火薬まで行けたのにな。まあ、よしとしよう。実験結果次第では戦術が大きく変わる。良い意味でだけどな。期待大だぞ。フフフ……明日が楽しみだ。


 オメガの所に行き、



「明日、北の砦の先で実験をするから間者の排除頼む」


「実験、でございますか?」


「俺たちの世界には魔法がない。それを補う兵器だ。極力見られたくない」


「承知しました。手の者を送りましょう。ですが、そこまで強力なのですか?」


「強力だな。これが量産型された暁には、魔王なんぞあっという間に叩いてみせるわ!」


「そ、それほどのものですか……」


「それほどのものだ、だが作るのに金がかかる。それが難点だな」


「今のところ、資金は潤沢にあります。リゾートも海運業も順調です」


「今はな、だが、必ず足りなくなる。だから、そうなる前に国を作り基盤を固める。そうしないと全ての魔王に対抗できない」


「国でございますか……」



 そう国だ。第八魔王を退けたら北方の国捕り合戦が待っている。


 明日の実験はその為に欠かせないものだ。





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