196 国王か師叔か
顔合わせの決起集会は、みんなに楽しんでもらえたようだ。
新顔としてランツェ、エターナ、ほーちゃんはみんなと打ち解けたようでなにより。
新顔と言えば、ミーニャもみんなに可愛いがられていた。猫好きのプルミはミーニャを紹介した時、失神しそうになっていたな。本人曰く天使が舞い降りたと思ったらしい。リトルエンジェルだから当然だな。
さくら、ニーニャ、ミーニャが一緒にいる時など、カメラが無いのが口惜しい。原理はわかっているんだ、材料さえ揃えば作れるだろう。マーズがね。よし、作らせよう。
時間も時間なので一旦お開きにする。たまには、こんなのもいいな。息抜きは必要。明日からまた、戦いの準備が続くのだから……。
お開き後、女性陣は露天風呂に行くようだ。みんなうちにお泊りだから時間は気にしない。
男性陣は部屋で飲み会続行だろう。最初に風呂に入ってくるかな。と思ったら男性陣も露天風呂に直行だった。もちろん、お猪口持参でだ。
「いやぁ、生き返りますのう」
「本当だな、風呂など何百年ぶりだろう。こんな素晴らしいものがあるなら、もっと早く言ってほしかったぞ、オール」
生き返るってねぇ。言葉の綾なのはわかるが、お前らアンデットですから!
「しかし、多彩じゃのう」
「多彩? ですか」
「アンデットに人魚、ケットシー、エンジェールはまだわかるが、ドール、烏天狗などは儂は聞いたことすらない種族じゃ」
「妖精族にコボルト族、トレント族も加わります。これからも増えるでしょう」
「そんなに集めてどうする気じゃ?」
決まっている。さくらや俺たちの望む世界に邪魔な奴らは排除する。
「当面の目的は北の第八魔王の討伐、ついでに北方連合を頂きます」
「国を起こすのか?」
「そうなるでしょう。第八魔王の討伐は始まりでしかない。何をするにも足場が必要。今のままでは、いつかジリ貧になるでしょう。金、物資、人、全てが足りません」
「そんなに上手くいくかのう」
「いかせますよ。問題がないわけではありませんが、追々考えますよ」
国を起こすのは前にも語ったが、さほど難しくないと思っている。問題はその後だ。トップに誰を据えるかが問題なのだ。ランツェか? 器じゃないな。傀儡としてドールにでも演じさせるか……考え処だな。
「それからルークよ」
「なんでしょうか」
「明日の件、忘れていまいな」
「え!? ほんとに行くんですか?」
「当たり前じゃ」
明日、九時に迷宮都市ツヴァイスの転移ゲート前に、迎えが来るそうだ。行きたくないな。でも一発殴りたい気持ちもなきにしも非ずなんだよな。
奴らは反乱に成功して強気になっている。今なら何をやっても上手くいくと勘違いしてるに違いない。それが胡椒の飴……もとい、胡蝶の夢ということを、一発殴って思い知らせてやりたい。いや、やる。ファル師匠の言いつけだ、どうせ断れないならばやってやる。第十三魔王を舐めるなよ。
「どうしたんじゃ、思い詰めた顔をして。そんなに嫌かのう」
「いえ、楽しみですよ。フフフ……」
「ルークにゃんが悪い顔をしてるにゃ……」
「いつものダークサイドに入ったみたいだな」
「……(コクコク)……」
「大丈夫かのう……」
「いや、大丈夫じゃないでしょう……」
ダイチくん、何か問題でも? ちょっと裏にい行って話をしようじゃないか。その後、ダイチは湯船に浮いているところをペン太に助けられたという……。
風呂を上がった後も酒を楽しんだ。女性陣は女子トークに花が咲き、朝まで騒いでいたせいで朝食時に起きて来なかった。
ゼータとレイアに三姉妹は参加しなかったようなので、ちゃんと朝食を取っていた。メイド隊しっかり仕事しろよ!
今日はファル師匠と俺は朝練は中止だ。ライナスに行かないといけない。エターナとほーちゃんはお留守番、ニーニャとミーニャの世話を頼んだ。さくらは連れて行くか迷ったがお留守番をお願いした。何が起きるかわからない。
迷宮都市ツヴァイスの転移ゲートに着くと、すぐにフードを被ったハーフキャトールの人が近づいて来た。
「お待ちしておりました。ファルング様。準備はよろしいでしょうか?」
「うむ。問題ない」
ハーフキャトールは転移魔法を使った。
着いた場所は大きな都市だ。普通にヒューマンが歩いている。獣人国の王都のイメージとちょっと違うんですけど……。
「ここは?」
「西街道都市アハトじゃ」
ですよねー。おかしいと思った。でも普通、使者を呼ぶなら王宮じゃねぇの? 仮にも第十三魔王の使者だぞ。俺、舐められているのか?
「国王も重臣たちもほとんどがこの街に来とる。ここがクルミナ聖王国に敗れる前のライナスの王都だった場所じゃ」
俺の不満顔を見て、ファル師匠が説明してくれた。なるほど。
転移ゲート前には馬車が用意されていて、その馬車に乗り込む。
街の中は、占領されたというのに何事もなかったかのように落ち着き払っている。馬車は元辺境伯の館という場所に到着した。無駄にデカい、館と言うより城か砦と言ったところだ。
馬車を降り部屋に案内され、茶を出された。
ここで会うんだろうか? それにしては狭くないか? これだけ広い建物なんだから、もっといい部屋があるんじゃないの?
「陛下の準備が整いました。ご案内致します」
だよねぇ。連れて行かれたのは所謂、謁見室。一段二段三段高い場所に、ライオンマンが座っている。両側に重臣達が並んでいるが、なぜかあみゅーさんもいる。
それ以外にも心眼スキルに多くの者が察知される。厳重なことで……。
ライオンマンの前のほうまでファル師匠が進んだのでついて行く。ファル師匠が立ち止まったので、俺も止まる。沈黙が続くんですけど。なに?
「ウォホン。挨拶いたせ」
「なぜです?」
沈黙から物騒な気配に周りが変わり始めた。
「ああ! これは大変失礼しました」
周りがまた静かになり、わかってるんなら早くやれよ、みたいなは雰囲気に包まれる。
片膝つき、両腕を前で組み挨拶する。
「師叔におかれましてはご健勝で何より。お初にお目にかかります。ファルングが弟子のルークと申します。以後、良しなに」
そう言って立ち上がった。ファル師匠が首を横に振っている。周りはこれ以上にないくらい殺気だっている。
ふんっ! お前らの思い通りになると思うなよ。
ファル師匠に言われたから来ただけなんだからな!
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