197 破滅への選択。それもまた自由。
周りは殺気だっている。目の前のライオンマンは平然としているように見える。内心はわからないが。
ライオンマン、確かレオルグって言ったかな? 見た目からは老いは感じさせない、逆に精気を発しまくっている。なるほど、確かにファル師匠の弟弟子だ。聞いていた人柄とちょっと違うような気がするんが……今も俺を品定めするかのようにジッと見ている。
「一国の国王を前にして無礼であろう! 使者殿」
「使者? 何を勘違いしているのか知らないが、ファル師匠に言われたから来た迄。使者として来た覚えはないし、この国にも興味はない」
ファル師匠は天を仰ぎ、あみゅーさんはやっちゃったって顔をしている。あれ? 俺、何かおかしなこと言いました?
「では、貴殿は何しに来たというのだ!」
国王を殴りにです! とは流石に言えず……。隙がないんだよね、このライオンマン。
「さあ? どうなんです? ファル師匠」
「ハァ……そろそろ、お遊びはやめんか? ルーク」
「そうですか? 面白いんですけどね」
「「「……」」」
重臣一同、唖然とした表情。おそらく、こんなことふざけた状況なんて初めてなのだろう。頭がこの状況についていってない。一人いや、二人を除いて……。
「それで、目的は何かな?」
初めてライオンマンが喋ったが、思ったより声が若いな。ほんとにファル師匠の弟弟子か? 鑑定で見る限り間違いないんだが。
「目的ですか? その舐めきったその態度を、同門として少々改めさせあげようかと」
瞬動術で一気に間を詰め、氣を纏った拳で殴りつける。が、あの態勢から飛び退き、俺の拳はそのまま誰も座っていない椅子を粉砕。やるじゃないか。
ふぅーと息を吐き、体勢を整える。
隠れていた者たち音を立てずに現れ、俺の周りを囲み攻撃を仕掛けてきた。よく訓練されているが、まだまだ甘いな。
「雷遁。紫雲」
仕掛けてきた者数人が紫雲に触れ床に沈む。それを見て驚きに戸惑って動きを止めた者、数人に雷属性の蹴りをお見舞いした。飛んでけ~! 残った数人もたいしたことなく、すぐに床に沈む。まだまだだね。
さて、残すはライオンマンだ。
あみゅーさんが出て来ようとしたが、ファル師匠に阻止されている。
「ほおぅ。強いじゃないか。俺の影たちが役に立たんとはな」
「それはどうも。それで準備はいいですか? ほんの少し本気を出しますので、歯を食いしばってくださいね」
「ほんの少しだと……舐められたものだな」
「俺が本気出したら死んじゃいますって。殺さない程度に抑えてあげるんですから、感謝してほしいですねぇ」
「舐めた口を利きやがる」
ほんじゃ行きますか。ドラゴンオーラを解放。
「!?」
一瞬驚いた顔をしたが、危険を察知したのか向こうも何かのリミッターを解除したようだ、ステータスが急上昇している。
だが、俺のステータスに追いつくほどではない。更に雷属性を付加して攻撃力を上げる。
お互い瞬動術を駆使して戦う。よくついて来ている。俺が本気でないとしても、称賛に値する。拳聖の弟弟子のことだけはあるな。
長年の経験を活かして、能力の差を埋められている。これは俺の経験不足のせいだ。だが、それもここまで、相手の動きに慣れてきた。相手の攻撃を読み、躱して相手の腹部に拳を突きたてる。もちろん、手は抜いている。
「それまでじゃ!」
ファル師匠の声が響く。これ以上俺もやる気はない。一発殴って気は済んだ。
ライオンマンは重臣たちに支え起こされる。
「ルーク。気は済んだか?」
「ええ。すっきりと」
「
「師兄……」
「奸臣どもに乗せられ、買わずともよい恨みを買う。言ったはずだ、己の身をわきまえよと」
犬は弱けど主は強がれ……もとい、家は弱かれ主は強かれと言うが、このライオンマンもうぬぼれていたのか?
もしかして……俺は兄弟子からの愛のムチとして使われたのか? ファル師匠はまっすぐな人と思っていたが、こんな変化球を使うとはなかなか侮れんな。
「帰るぞ。ルーク」
「お、お待ちください。師兄! 今一度、今一度機会をいただきたい!」
「さて、どうするかのう。のう? ルーク」
「先ほども言いましたが、この国に興味はありません」
「だ、そうじゃ」
「くっ……」
「待ってにゃ! 話を聞いてほしいにゃ! ルーク」
ここでやっとあみゅーさんの出番。筋書き通りですな。
「あみゅーさんの頼みですかぁ……。いい返事をするとは限らないと理解していただけるのであれば、あみゅーさんたってのお願いですから、顔を立てましょうか」
「本当にゃ? よかったにゃ~」
場所を変え別の部屋に移動した。
向こうのメンバーはライオンマン、ライオンマン二世?、あみゅーさん、重臣二名だ。
メイドさんがお茶の準備をする。喉が乾いていたので淹れてもらったお茶を飲んだら、舌がビリビリする。ステータスを見ると異常状態毒となっている。
ストレージから毒消しポーションを出して飲む。
「如何したのじゃ。急に」
「毒ですね」
「「「!?」」」
「馬鹿な!?」
「その者を捕らえよ!」
ライオンマン二世が言うと、扉の前にいた兵士がメイドを抑え込んだ。
「わ、私は知りません!」
ティーセットを鑑定すると、お茶の葉に毒が仕込まれていた。ということは、不特定多数を狙ったものだろう。
「その人は、おそらく関係ありませんよ」
「どういうことだ?」
「このお茶の葉に毒が仕込まれています。その人を押さえる前に、まずは誰が用意したのかを調べるべきでは?」
ライオンマン二世がもう一人の兵士に指示を出した。
「それでお主、大丈夫……なのか?」
「ええ、何とか」
正直、毒耐性スキルがあって助かった、毒耐性があったおかげで確認する時間があり、ポーションが間に合った。毒耐性がなければ死に戻りだったかもな。最初に飲んだのが俺でよかった。もし、ライナス側だったら面倒なことになっていただろう。
それが狙いか? 誰が? というより、クルミナ聖王国以外考えられないな。
ライナス側は顔を青くしている。それはそうだ、ここで俺が死に戻りすれば戦争は必須。避けられない。隣接はしてないが、クルミナ聖王国と手を組んで攻められると思っていることだろう。あり得ないけどな。
「重ね重ね、申し訳ない……なんと詫びてよいやら……」
「まあ、いいでしょう。何事もなく済みましたので」
「白けたのう。それより、ここまで敵の手が伸びておる。危ういのう。レオルグよ」
「正直、ここのような手を使ってくるとは思いませなんだ。師兄」
「単に、危機管理が甘いだけの気がしますが?」
「「「……」」」
「ルークは手厳しいにゃ……」
そうだろうか? この人たちを見ていると、自分は大丈夫、自分はそんなことに引っ掛からない、というような気質が見え隠れする。
「で、この白けた場で話を続けるんですか?」
「私はレオルグが子レオシスと申す。ひとつだけ誤解を解いておきたい。我が息子と猫姫の婚姻についてだ。ファルング様より貴殿が憤っていたと聞いた。しかし我々には他意はない。本気で考えている」
「話にならない。ファル師匠。帰りましょう。馬鹿と話す気はない」
「そうじゃのう。レオルグよ、先代様は悲しんでおられるぞ。今のお主は心が曇っておる。なぜ、息子や重臣どもの間違い正さぬ。こ奴らはわかっておらぬぞ」
「あみゅーさんも、まだこの国にいるつもりですか? このままだと、遅かれ早かれこの国は滅びる運命。心中するつもりですか?」
「ウニュニュ……うちのクランは獣人オンリーにゃ。みんなの気持ちを考えると見捨てられないにゃよ」
破滅への道、それもまた自由か……。
この『infinity world』のプレイヤーにとても、シビアな選択だな……。
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