188 新たなる筋書き

 降魔神殿に戻ると使徒様ラヴィーちゃんからメールが届いていた。


 なにも聞いてないんだが、なんでメールが届いたんだ?


 内容は勝手に使徒の名を使うなということだ。無視決定、はい終了。風呂入ろ。


 風呂で雪見酒を楽しむ。ペン太に乗ってサーフィンごっこをしているほーちゃんにも飲ませようとしたら、僧正坊様のお許しがないと飲めないそうだ。可哀そうに。


 一人楽しんでいるとファル師匠が入ってきた。



「風流なことをしておるのう。どれ、一献頂くかのう」



 新しいお猪口をファル師匠に渡し徳利を傾ける。



「美味いのう」



 朝酒は代打で打っても飲め……もとい、朝酒は門田を売っても飲めって言うからな。夜だけど。



「レオルグがお主と会いたいと言って来ておる。如何致す」


「レオルグ? って誰ですか?」


「むっ、言っておらんかったかのう。儂の弟弟子じゃ」


「ライナスの国王ですか? 正直、会うメリットがないんですよね。逆に会ったら殴りますよ。きっと……いや、確実にね」


「そ、そうか……それもよかろう。タダで殴られる奴でもないしのう」



 え!? いいの? まあ、ファル師匠の弟弟子だから簡単に殴れると思っていないが……も、もしかして、それほどに強いのか?



「何時がいいかのう」



 い、行くのは決定のようだ。仕方がない腹を括るか。最悪殴った後、転移で逃げればいいしな。



「明日は魔王の使者と会う予定ですし、明後日はうちのメンバーの顔合わせ会なので、ちょっと」


「うむ。それは忙しいのう……ま、まていぃ! 魔王の使者じゃとぉ! なんじゃ、それはぁ!」


「北の魔王ではないですよ。もう一方の海にいる魔王のほうです」


「……確かに話には聞いておったが。ルークよ。お主いったい何をしようとしておるのじゃ?」


「邪魔な魔王の排除ですけど、なにか?」


「じゃ、邪魔な魔王……お主いったい何者じゃ?」



 何者って、さあ、何者なんでしょうね? 俺もよくわからん。ゲームで作ったキャラ設定と向こうの人格が混ざりあってきている。悪い奴ではないとは思っているんだが、自分自身があやふやな感じだ。善や悪人それぞれの価値観の違いなんで、今の俺はみんなにどう見られているのだろう。



「明日と言ったな。儂も同伴させよ」


「え~、やめたほうがいいと思いますが?」


「何故じゃ」


「聞いたら、もう抜け出せなくなりますよ。いや、違うな……抜け出させるわけにはいかなくなる、でしょうか? そのお覚悟はありますか? ファルング様」



 あえて、ファル師匠とではなく、拳聖としてのファルングと呼ぶ。ちょっと気になるから顔出させてじゃ済まない。少々の脅しは仕方がない。



「儂を脅すつもりか?」



 ファル師匠の氣が膨れ上がる。どっちが脅してるんだか、わからん。



「我々は遊んでこのようなことをしているわけではありません。魔王は十二人もいるのです。一度にすべてを相手にはできません。中には敵味方と手を組む者も出てくるかも知れません。ファル師匠などはありえんと言うでしょうが、正論だけで勝てるほど甘くないんです。時には汚いことし、時には非情ともいえることをして己の手を汚してやっと勝てるかもしれないという相手たちです。そこで一々、正論を吐かれても困るのです。我々に負けは赦されない」


「ぐぬぅ……」


「獣人国ライナスも我々の障害となるなら排除の対象になり、確実に潰します。それでもよければ三日後に会いましょう」


「……」


「魔王の使者と会うのは明日の夜。覚悟がお決まりになりましたら、明日の夕食時に仰ってください」



 そう言って、俺は風呂から上がる。


 拳聖としてまっすぐな道を進んで来たファル師匠には、酷な言い方だったかも知れない。だが、この世界がかかったこの戦い、負けるわけにはいかないのだ。この世界をかけた戦いから抜けるなら今のうちだ。


 もうすぐ大きな波が来る。すべてを洗い流して新しい時代を作るのか、破壊と混乱だけをこの世界に与えるのか。この分岐点を間違えれば待っているのは世界の消滅。見苦しく見えようとあがくしかない。汚いと言われようと勝つしかない。


 それで世界が残るなら……。


 翌朝、朝練を終えた後、降魔神殿に戻るとみんな出かける準備をしていた。



「今日はどこ行くの?」


「おばさまの所にミーニャを会わせに行こうと思います」


「じゃあ、一緒に行こうかな」



 ニーニャとミーニャを抱っこしたら、さくらも乗ってきた。



「あらあら、いらっしゃい。さあさあ、中に入って」


「ば~ばぁ」


「ニーニャ、いらっしゃい。あら、こちらの可愛いお嬢さんはどなたかしら?」


「娘のミーニャです。故あって引き取りました」


「まあまあ、孫がひとり増えたのね。ミーニャちゃん、こんにちはばーばよ」



 コリンさんはミーニャを抱っこして、ほっぺにチューをした。



「うにゃ~」



 ミーニャはコリンさんの胸に顔をスリスリさせている。


 ニーニャもコリンさんの所に行きたがったので、コリンさんにソファーに座ってもらいニーニャも預けた。



「ウフフ……ふたりとも、甘えん坊さんね」


「ば~ばぁ」


「うみゅ~」



 全く持ってコリンさんには、敵いませんな……。


 外に出るとマクモンさんがいた。



「あんなばあさんでよければ、やるぞ」



 何言ってんのこのクマは? でも、ニーニャたちは喜ぶかな?



「最近、テオールから多くの難民が来てるらしい」



 魔王との戦いが酷くなってるのだろうか。天の声インフォやメールは来ていない。おそらく、テオール帝国限定イベントなんだろう。ヒューマンのプレイヤーってどのくらいいるんだ? 勇者なしで勝てるのか?



「ヒューマン至上主義でしたよね? 大丈夫なんですかね?」


「今はな。さすがにおいそれと街には入れんだろう。東の砦付近にテント張って生活してるみたいだ」


「長引けば問題ですね」


「それ以上に魔王だろう。奴らに倒せるのかよ……」


「さぁ……」


「この国だって自称魔王に敗れたって言うじゃないか。向こうは本物の魔王なんだろう? 使徒様の眷属の末裔が自称魔王にすら勝てないんだ。不味いんじゃねぇか?」


「だとしてもこの国は何もしませんよ。テオールもプライドがあるでしょうから助けてくれなんていえませんし、今この国に自称魔王に敗れたばかりで、余所に割ける戦力なんてないですから」


「上の奴らは何考えてんだろうな……ライナスもこんな時に反乱なんて、間が悪すぎるぜ。北にも魔王がいるってのによ」



 マクモンさんの言うことが普通一般の考えだろう。不安で仕方がないというのが実情。かと言って逃げる場所すらないのだから。


 勇者はいるが自称魔王に敗れた。本来国をまとめるカリスマ的存在になるはずだった……ゾディアックの筋書きでは。


 それを粉砕したのは俺たちだ。勇者の代わりにランツェに頑張って魔王打倒のカリスマ的存在になってもらうのが新しい筋書き。


 ちょっとキャラ的に弱いんだよな……あいつ。


 どこかに不幸なプリンセスみたいなキャラはいないかなぁ。


 そんな都合よくはいかないよな。




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