189 舐めプはいけません

 さくらだけを連れ、情報ギルドに来た。古城のクエスト報酬を貰いにだ。


 ギルドに入ると、何故かレミカさんに捕まった。



「ルーク様! いい所に来てくださいました。さあこちらへ」



 ギルド長室に案内される。



「久しぶりじゃないか。小僧」


「行き遅れのババァに興味はないんだがね」



 暫しの沈黙の中、笑顔で向かい合う二人の目は笑っていなかったと、後日レミカさんが語っていた……。



「お、お茶をお持ちしますね。子猫ちゃんはジュースでいいかしら?」


「ミャー」



 この場の雰囲気に耐えられなかったのか、レミカさんは部屋から出て行く。立ってるのも面倒なので、ソファーに座ると



「誰が座っていいと言った」



 こ、この野郎! じゃなかったこの女郎! ん? このアマ! えぇーいどっちでもいいわぁ!


 頭にきたのでガレディアの机の前にある応接セットを、ストレージにしまい。ガレディアの真正面にさくらの部屋で使おうと思って用意していた、豪華な革張りの社長椅子を出してドッカっと脚を組んで座ってやった。ふん。


 また沈黙が部屋を支配し睨み合いが始まる。さくらは膝の上で欠伸をしてるけどな。



「な、何があったんですか!? ほんの少し離れた隙に……」


「レミカ! この身のほどをわきまえないガキに茶など不要だよ!」


「人を呼びつけておいてなんて言いぐさだ。この腐れババァ!」


「バ、ババァ、ババァって死にたいようだね! 表に出な!」


「ふざけんな! なんのメリットがあるんだ? 勝手にひとりでやってろ!」



 今さらガレディアと戦ったところで意味がない。おそらく、俺のほうが強くなっているからだ。



「ハハァーン。ビビってのかい? 怖いんなら帰ってママのオッパイでも吸ってるんだね」


「ハンッ! なに勘違いしてんだババァ。弱いものいじめするのが嫌なんだよ!」


「よ、弱いものいじめ……だとぉ? いいだろう。あたしに勝てたら何でも言うことを聞いてやるよ。但し、小僧が負けたら一生、あたしの召使だ。どうだい泣いて謝る気になったかい?」



 フフフ……なんて愚かな。踏んで蟹いる夏の浜……もとい、飛んで火にいる夏の虫。愚かなガレディアよ、俺との実力差がわからない時点であんたの負けは決まった。負けたら一生召使? いいだろう。面白い、やってやる。


「いいだろう。その言葉忘れるな。さくらとレミカさんが証人だ」


「ルーク様!」


「よかろう。吠え面をかかせてやるよ」


「何時やる?」


「今だろ!」


「いい場所がある。ついて来い」



 ガレディアとレミカさんを連れイノセントハーツの砦に飛んだ。



「「ここは?」」


「知り合いのクランの砦だ」



 練兵場に行くとファル師匠がリンネたちやプレイヤーといる。



「師匠どうしたんですか? ニヤケ顔が気味悪いです」


「そうか? 元々こんな顔だろ。師匠って……ぐおおぉー」



 ユウにグリグリの刑……もとい、教育的指導をして差し上げた。ムウちゃんは可愛いね。なでなでしてあげよう。



「キュピ?」


「模擬戦したいんだが使っていいか?」


「はい。ちょうど、誰も使っていませんので」


「ファル師匠。審判、頼めますか?」


「なんじゃ。訓練か?」


「いえ、私闘です」



 この場にいた者たち、全員が驚いた顔をしている。



「この中では何をやっても死なない。好きなだけ本気を出せ。一応、審判は拳聖のファルング様にお願いしたが、勝敗は相手を倒すか降参するまでだ。いいな?」


「拳聖だと……ああ、それで構わないよ」


「ルークよ。本気を出すつもりか?」


「出しますよ。負けられない理由があるので」



 模擬戦のエリアに入り、怪しい忍者装備に変更する。



「いつ見ても、おかしな格好だね」


「……」


「怖くて声も出ないかい?」


「……」


「チッ……」


「用意はいいか? では、始め!」



 ガレディアの装備は皮鎧にレイピア。腰にムチも付けている。全開の教訓を生かしてか、魔法を確かめて風の刃で攻撃してきた。


 躱してもいいが、あえて手に魔力を纏わせ風の刃を殴り相殺する。ガレディアの顔が驚きに変わった。ならばと、連続で風の刃を放ってくる。



「雷遁。紫雲」



 俺の周りに紫かかった霧が立ち込めそれに触れた瞬間、風の刃が火花を散らし消えさる。



「雷属性は風属性の上位。そんな攻撃ではキズ一つかんな……」


「くっ、ならば!」



 目の前に強烈な勢いを持つ竜巻が現れ襲いかかってきた。



 瞬動術で躱すが、竜巻が俺を追尾してくる。面倒だが、この竜巻以上の力で潰すしかないようだ。



「雷遁。光糸牙」



 上空から一筋の稲光が竜巻に直撃し竜巻が霧散する。



「なにっ!?」


「もう終わりか……」


「舐めた口を!」



 ガレディアはダッシュで間を詰め、レイピアでの攻撃に変えてきた。しかし、魔鋼で出来た籠手に魔力を流して強化し、払い受け流す防御を突破できないでいる。


 ガレディアの顔に焦りの色が見え始める。


 当たり前だ、初めてガレディアとあった時と、ステータスが全く違うのだ。俺は経験を積みレベルが上がったが、ガレディアはあの時とさほど変わりがない。さっきも言ったが、俺のほうが圧倒的に力が上なのだ。



「馬鹿な……だがまだだ!」



 ガレディアが後方に下がった。まだ、奥の手があるのか? いったい、何をするつもりだ?



「我願う。我と名を交わし風の精霊王よ。我の前にい出て、汝の力を持って、我に仇なす者に神風の裁きを与えん!」


 ガレディアの前が揺らぎ始め、何か……おそらく風の精霊王が召喚されるのだろう。おかしいくらい威圧感が増していく。なんか、やばくねぇ?


 揺らぎが収まり始め人の形を成し始める。薄衣を纏った美しい女性だ……。てっきり、筋肉隆々の魔神のようなのが出てくると思った。やり難いなぁ。


 などと思っていると、俺を球体が包み込んでいく。あれ? これやばいパターン?


 球体の中で嵐が吹き荒れる。


 グババババッ……息ができない……体と四肢、ついでに首がちぎれそう……。しいて言うなら洗濯機に突っ込まれた感じか?


 HPがガリガリと削られていく。これはまずい、しょうがない、こちらも本気モードだ。ファル師匠にああ言ったのに、舐めプして負けたら恥ずかしいからな。


 ドラゴンオーラ、死剣、雷属性で手当たり次第攻撃。おかげで、球体に隙間ができた。心眼である程度の位置は把握しているが、もみくちゃにされてるせいで、平衡感覚がおかしくなっている。その隙間から精霊王とガレディアが見えたおかげで狙いやすくなった。


 死剣を精霊王とガレディアに向かって何度も放つ。


 精霊王が悲しい顔をして消えていく。そして、そこに既にガレディアの姿もなかった……。


 いやぁー、危なかった。あんな奥の手を持っていたなんて。種族固有スキルの精霊魔法だろう。


 危うく召使になるところだった。


 舐めプはいかんな。


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