187 海竜王の使者

 みんなと夕食を取った後、蒼流神殿に向かった。



「準備はいいのか?」


「はぁ……」



 おいおい、大丈夫かよ……。これから使者と会うのに、相手に飲まれたら終わりだぞ。アリーナ、エリーナは大丈夫そうだな。ちゃんとフォローしてやれよ。


 使者はホテルの会議室に案内してるらしい。じゃあ、向かいますか。


 会議室に入ると神官のような女性と、警護と思われる騎士風の二人が女性の後ろに立っている。



「この度は貴重なお時間を取って頂き感謝しております。わたくしは海竜王様に使えるミサレと申します」


「よくおいでくださいました。私がこの島の主オーロラです。この二人は娘のアリーナ、エリーナです」


「そちらのお方は? ヒューマンではなさそうですが?」


「こちらは私の相談役ルーク殿と言います。ルーク殿はプレイヤーです」


「プレイヤーが相談役……?」



 何か文句でもあるのだろうか? 一応、大人の対応で軽く会釈はした。


 メイドドールがお茶を配る。



「噂には聞いておりましたが、大変な賑わいですね」


「ええ、これも相談役のルーク殿のおかげです。窮地に立たされていた我々に手を貸していただいただけでなく、こうして多くの人族を呼び他の種族にも恩恵を与えてくれました」



 くっ、オーロラの奴、俺に話を振って全権を渡すつもりだな。



「いえいえ、私などほんの少し助言しただけのこと。すべては人魚同盟をまとめあげた、オーロラ様のご尽力の賜物です」


「「「!?」」」



 オーロラ親子は驚いた顔をしている。オーロラなどは驚きの表情の後、凄い目つきで睨んできた。まさか、返されるとは思っていなかったのだろう。



「魔王クラークに対抗するための人魚同盟も素晴らしいものです。オーロラ殿がいなければ、我々海竜王側は危ないなところでした。この度も身内から裏切り者が出てしまい恥ずかしい限りです」


「私は少しでも同胞や友人を魔王の手より救い、対抗できる形を整えただけのkと。大したことはしていません」


「何をご謙遜を! 今までそのような高尚なことを考え、実行する者はおりませんでした。何卒、我々にもご助成をお願いしたい!」



 海竜王側は妙に下手にでているな。そこまで追い詰められているのか? 情報がないからもう少し静観だな。



「それで、海竜王様の巫女自らおいでになるというkとは、魔王クラーク討伐に本腰を入れる気になられたのですか?」


「そ、そこまで私の一存では決められませぬ。ですが、人魚同盟も我々から裏切った者をみすみす魔王の元へ行かせるわけにはいかぬのではございませんか? ここはお互いに協力して、奴らを倒すのはどうでしょう?」


「私たちに何のメリットがあるのでしょうか?」


「メ、メリット!? 魔王につこうとしてる者たちを倒すのに、理由やメリットが必要なのですか!」



 正論できたが魂胆が見え見え。こりゃ駄目だな。



「魔王の討伐は掲げないのに魔王に寝返った者は倒す。矛盾してませんか? それに倒す相手も海竜王側の身内。私たちが出向く理由がありません。逆に我々が手を出せば魔王を刺激することになるでしょう。その場合、海竜王側も魔王討伐を掲げていただけるのですか?」


「そ、それは先程も言いましたが、私の一存では決められませぬ……」


「ならば、身内のことは身内で方を付けるのがよろしいでしょう」


「ですが、魔王の力を増やすことは、オーロラ殿たちにとっても良いことではないはずでは?」


「まだ、返答はしていませんが魔王クラークより和睦の申し出が来ています。私たちの人魚同盟は立ち上げたばかり、今は勢力拡大させ然るべき時に備えるべきとの声があります」


「魔王と和睦ですと!?」



 あ~あ、ここでそのカードを切っちゃったよ。早いよオーロラくん。そのカードはもっと後で切るべきカードだよ? エリーナが首振っている。あの子は理解しているっぽい。普段はおっとりしてるが結構交渉向きだったりして?



「信じられません! 魔王と手を組むなどあってはならぬこと!」


「だが、寝返ったんだろ? あんたたらのお仲間は」



 オーロラがカードを切った以上、こちらは引けなくなった。しゃぁない、選手交代か。



「無礼者め! お前らのような下賤な者が口出しすることではない!」



 後ろにいた護衛の一人が、俺を睨みながら口走る。



「下賤ね……これだから雑魚は困る。俺たちプレイヤーの後ろには誰がついているか知ったうえで言っているのか?」


「ざ、雑魚だと、ゆ、許せぬ! 巫女様この者を成敗するご許可を!」



 やめといたほうがいいと思うな。あんたではエテ公ウッキーと鳴く……もとい、猿猴月を取るのが落ちだ。



「落ち着きなさい。お聞きしますがプレイヤーの後ろ盾とはどなたでしょうか? 我々が聖竜王様と並び称される海竜王様の身内と知ってのことでしょうね?」


「聖竜王も海竜王も会ったことがないので何とも言えんが、プレイヤーの後ろにいるのは、あんたたちが言う下賤・・な使徒様だ」


「「「!?」」」


「初めて聞きましたよ。ルーク殿……?」


「そりゃそうだ。初めて言ったからな」


「それでは……さくら様は……」


「オーロラ殿、余計なことは言わぬほうが身のためだと思うが?」


「も、申し訳ありません!」



 減点十点。さっきの件と合わせて減点二十点。これ以上減点するなら、後でOHANASHIだぞ。



「ば、馬鹿な! ありえぬ。何故、今になって使徒様が介入する!」


「簡単だ。聖竜王も海竜王も不甲斐ないからだ。12の魔王が現れてから、どれだけの年月が経っている? その間にやったことはなんだ? 言ってみろ」


「……」


「使徒様から見れば聖竜王も海竜王も無能でしかない、見限られる一歩手前なんだよ。例え、どんな大事な扉を守っていようと、使えない者は必要ない。使える代役を投入するだけのこと」


「と、扉のことまで知っているのか……」


「使えない者は見限り、その代役を立てること使徒様は考えた。それがプレイヤーだ。今、お前たちは崖っぷちに立たされている、結果を出さなければお払い箱。例え、海竜王であってもだ」


「……」



 正直、拡大解釈だが結果良ければすべて良し。腐っているホヤは俺でも使えん……もとい、立っている者は親でも使えと言うからな。



「身内争いで人魚同盟を利用しようなどと浅はかなこと捨て、もうすぐ目覚める海竜王とお前らで魔王クラーク討伐の準備が出来たら出直してこい。その時にもう一度話を聞いてやる。おい。何をもたもたしている? さっさと帰って準備しろ! お前たちに残された時間は少ない。ついでに聖竜王にも言っとけよ。お前も同じだとな」


「帰りますよ」


「「ハッ!」」


「俺たちプレイヤーは心が広いからな、礼儀を知る者には手を貸してやる。覚えとけよ。誰が敵か誰が味方かはお前たち次第だとな」


「「「……」」」



 海竜王の使者は帰って行った。



「あれで宜しかったのですか?」


「良いわけないだろう」


「「えっ!?」」


「お前たちがフォローするんだよ」


「わざと憎まれ役を演じたわけですね」


「「!?」」



 エリーナはわかっていたようだな。おっとり顔のポーカフェイス、十分に武器になると思います。



「エリーナ。ちゃんと説明して対策立てておけよ」


「承知しました」


「「……」」


「明日の魔王の使者の相手は俺がする。手を結ぶ気は一切無い。以上だ」


「「「はい」」」


「話は変わるが、明後日に降魔神殿で全員の顔合わせをする。夕食に招待するから、メニューの希望はあるか?」


「ハンバーグ!」



 アリーナは元気があっていいな、もう少し頭を使って欲しいが……。



「希望がなければ、こちらで決めるぞ?」


「お寿司が食べてたいです」


「私も!」


「了解」



 お寿司かぁ。立食会にでもするか? まあ、少し考えよう。




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