171 ルーク、異世界に立つ

「すぐに慣れろと言っても無理でしょうから、当面の間質問をメールでお受けします」



 それは助かる。急に放りだされても困ってしまう。



「それでは、お覚悟は宜しいですか? と言っても一方通行なんですけどね。冴木様の『infinity world』での旅路に幸多からんことを。でございまーす」



 目の前が暗転する。気付けばいつものさくらの部屋。


 みんながこちらを凝視している。



「やあ、チーフ。なかなか、面白いことになったね」



 俺の隣に十代半ばの少年が立っている。俺をチーフと呼ぶ奴は限られている。魔王ラヴィーちゃんは約束を守ってくれたようだ。



「マーズか?」


「他に誰がいるんだい?」


「外に出た感想は?」


「変な気分だよ。体があって、匂いがあって、全てが驚きだね」


「生き残るために、手を借りるぞ」


「僕は元々、人類の生き残こる道を作るため作られたんだ。本望だね」



 我に返ったさくらが飛んできた。



「ミャッミャッミャ~」



 顔中ペロペロされました。余程、寂しかったようだ。


 さくらを顔の前に掲げて



「さくら、やってくれたなぁ」


「みゃ……」


「怒っているんじゃないぞ」


「みゃ~?」


「でもな、相談はして欲しかったよ」


「みゃ~」



 さくらはごめんなさいといってるように、頭を上下させている。


 今さらどうしようもないことだ、怒ってないことを態度で示すためウニウニしてやった。ニーニャも抱きついてきたので一緒に抱っこしてチュッチュッした。


 スキンシップが済んだあと、全員にマーズを紹介する。これから一緒に暮らす仲間だ。


 詳しい説明は後ですると言って、まずはオメガの元に行く。



「こいつはマーズ、リアル世界の叡智の塔だった奴だ、よろしくな」


「オメガと申します。以後良しなに」


「うん。よろしくね」


「それにしても、叡智の塔でございますか……」


「オメガとは気が合うと思うぞ。こちらの世界のことを教えてやってくれ。今の我々の現状もな。チェスをしながらでも構わないぞ」


「承知しました。マーズ様はチェスがお得意なのですか?」


「チーフとの対戦成績は七百五十九戦六百十五勝百四十敗四ドローかな」


「チーフとはルーク様のことでしょうか? だとすると相当お強いのでしょう。これは挑みがいがございます」


「それより、現状報告を頼む」



 やはり、俺が居ない間に大きな出来事が幾つか起きていたようだ。


 東のテオール帝国で魔王が現れたそうだ。詳しい情報はまだ入って来ていないが、魔王との戦いが始まっているらしい。


 もうひとつが、クルミナ聖王国の属国であった西の獣人の国ライナスがクルミナ聖王国に反旗を翻して、本来のライオス領であった場所を攻撃し奪還したそうだ。これによりクルミナ聖王国は西の街道都市周辺を失ったことになる。


 そのクルミナ聖王国は自称魔王軍に敗れ、属国だった獣人の国ライナスにまで敗れことから、身動きが取れない状況になってるそうだ。多くの民衆は不安になっているだろう。救いなのは仇敵のテオール帝国が魔王で動きが取れないことだろう。しかし、衰退への道を一歩一歩進んでいるように見えるな。


 反対にこちらの北の魔王対策は順調に進んでいる。大森林の砦も順調に改修され、プレイヤーの参加人数も日に日に増えているそうだ。



「それで、僕は何をすればいいの?」


「情報解析、戦略戦術補助、武器開発改良、街の造成、開発、発展、政治。全てだ」


「寝る暇がなくなりそうだね」


「今まで散々、惰眠を貪ってきたんだ。精一杯こき使ってやる」


「酷い言い方だね。これでも会社には貢献してきたんだよ」


「片手間だろ? 今言ったことだって、マーズから見れば能力の半分も使わないんじゃないのか?」


「どうだろう? この体になってから結構なリソースを使ってる気がする。でも逆に総領域は格段に増えた気がするんだよね。前みたいにデータとして見れないのは不便だね」


「そこらへんは後でゆっくり調べてくれ。今は我々の状況を可能な限り解析して欲しい」


「わかった。頑張るよ」



 部屋に戻りレイアに世界が消えることは抜かして、少しばかり脚色した事情を説明した。



「それではルークは、私達と同じになったのですか?」


「若干違うけど、そうなる。もう向こうの世界には帰らない。いや、帰れない」


「よかったのですか?」


「さくらのお願いじゃ断れないからな」


「みゃ~」



 さくらはごめんねぇって言ってるみたいだ。



「いいんだ。こうしてずっと一緒に居れるようになったんだ。レイアも」


「ルーク……」


「あい!」


「もちろん、ニーニャもだ」



 何故か、エターナがモジモジしている。お前もか……。



「エターナな、お前もな」



 二パッと笑って、片膝をつき畏まった。



「で、ルークにゃんは何が変ったにゃ?」


「より魔王に近くなったのだろう?」


「ここから、大魔王の覇道が始まりますわ」


「……(コクコク)……」



 お前ら、明日の朝練覚悟しとけよ。ポーンのプロモーションではないが、新生ルークを見せてやる。


 そうだ、種族が変わったんだから、試す事があったな。


 さくらのおもちゃ箱を漁り、目的のものを見つけた。ドラゴンオーブだ。試しに使おうとすると、選択肢が出てきた。


 なになに、竜語魔法、ブレス、ドラゴンアーツ、他にも強力そうなスキルがある。俺は取れないが竜人族だと竜化ってのもあるな。ドラゴンオーブは三つあるけど、スキルも三つ取れるのか? 取り敢えず、ひとつ有用そうなスキルを取ってみよう。


 ドラゴンオーラ 一定時間の間、全能力値に大幅に補正が入り、その間はHP/MPが回復し続ける。時間と補正値はスキルレベルに依存する。


 これが俺と相性が良いような気がする。前衛、後衛どちらにも使えるスキルだ。


 もうひとつ使おうとすると、レベルが足りないと出た。ということはレベルが上がれば使えるのだろう。今は使い道がないので、さくらのおもちゃ箱にしまっとこ。


 俺は待機反省……もとい、大器晩成タイプだからな徐々に強くなれば良いいさ。




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