170 ルーク、チートを強請る

 魔王ラヴィーちゃんがジト目で見ている。



「なにを人事のような顔をしているのですか!? どちらも冴木様のことです!」


「マジっすか!」


「ひとつは第十三魔王の召喚」


「それはオールでしょう?」


「本来であれば、あの召喚は失敗するはずでした。というよりあの場所まで、たどり着けないはずだった。それが腐れ悪魔の気紛れで……ブツブツ」


「いやいや、それでも関係ないでしょう?」



 オールの私怨の儀式にたまたま居合せただけだし、目的は儀式の阻止だったんだから。



「ですが、冴木様が関わったことにより、召喚が成功して第十三魔王が誕生してしまいました。これは不味いと思いすぐさまクラスチェンジさせましたが、余り効果はなかったみたいですけど……」


「あんたかい! ふざけたクラスチェンジさせたのは! 魔王(笑)ってなんなのさ!」


「お答えしましょう! イレギュラーだったので、笑って誤魔化す意味を込めました!」


「……全く誤魔化せてないし」


「ごほっん。まあ幸い、召喚されたのが心優しい子猫ちゃんだったので安心しましたけどね。これが地獄の大王なんかだったら私はクビ……ブツブツ」



 上司が神なのか誰かは知らんが、クビにしちまえよ。こんな奴。



「二つ目は、今の冴木様です。まさか子猫ちゃんが異世界召喚をおこなうとは、予想外の出来事」


「ちなみに俺ははどうなるんだ?」


「あちらの世界からは既に抹消されています」


「抹消って?」


「存在そのものが、なかったことになってる。みたいな? てへ♪」


「なにが、てへ♪だよ!? どうすんだよ! それなりの財産だってあったんだぞ! 秘蔵の酒だって……飲んどきゃよかったよ……」


「これからは、『infinity world』で第二の人生を楽しんでください!」


「第二の人生って……どういう立ち位置になるわけ?」


「今までの続きからそのままですよ」


「上手くいかなかったら、消される世界でか?」


「がんばれ!」



 がんばれじゃねぇだろー! やっぱりこいつは魔王だ。使徒の皮を被った魔王に違いない!



魔王ラヴィーちゃん。ちょっとここに座れ。少し本音で話をしようじゃないか」


「……(ガクブル)……」



 取って喰うわけじゃない。いいから、す、わ、れ!



「あっちに行くとNPCになるってことか?」


「いえ、限りなくNPCに近いプレイヤーです。このシミュレートが続く限りですが」


「その後は」


「真の世界と認められれば、その世界の住人となり、認められなければ、そのまま消滅」



 マジっすか……。是が非でも認めさせなければならないということだ。



「勝利条件は?」


「神のみぞ知る」


「……いったい俺にどうしろと?」


「ファイト!」



 今まで通り、プレイヤーの権限は保証される。死に戻りや報酬にメール機能などだ。逆になくなるのがアカウント関連、時間の制限となる。若干他プレイヤーより有利になる程度、廃人プレイヤーに毛が生えた程度だ。十八禁がなくなるのは、ムフフ……だな。



「この条件では承服しかねる。チート寄こせ!」


「漫画の見過ぎです。そんなものやるわけないでしょう。常識で考えてください。世界を狂わす力を与えると思いますか? そんなことをするのは愚か者以外何者でもありません! それに今、この状態も世界の摂理を捻じ曲げているのですよ」


「ぐぬぬ」


「とは言っても、私も鬼ではありません。それなりの融通はいたしましょう」


「よっ! さすが使徒様! 太っ腹だね。スタイルはいいけど」


「そ、そうですか? これでもこの体型維持するの大変なんですよ。……じゃなくて、先程も言いましたが、世界を狂わす力等は無理です」



 ふむ。どうしよう? ユニークスキルあたりでも貰うか? いや、よく考えろ、ここで全てが決まるかもしれないんだ、慎重にいかないと。



「最初に、魔王ラヴィーちゃんの職務怠慢の補填からお願いします」


「しょ、職務怠慢!? な、何ですかそれ……」


「アバター作成時の説明不足による、精神的苦痛を味わったことの賠償責任です。即刻種族の変更をお願いします」


「ぐっ……。原告の請求を認めます。但し種族はこちらで指定した種族に限ります。新しい種族はハイヒューマンです」


「異議あり! 当方は魔王ラヴィーちゃん側を信用していません。廃ヒューマンとかいうオチは要りませんからね」


「ギクッ……それではニューマンでは」



 魔王ラヴィーちゃんは目をキョロキョロさせ、ひゅーひゅーと口笛を吹き動不審だ。絶対、良からぬことを考えている。



「却下。どうせ乳マンとか言うんでしょう」


「ギクッギクッ……じゃ、じゃあ何にします?」



 もっとまともな種族はないのかね。乳マンってどんな種族だよ。逆に見てみたいわ。



「別に不利益にならなければ何でもいい」


「最初から素直にそう言えばいいのに……」


「なんか言った?」


「い、いえ。わかりました! とっておきの種族を出しましょう。その名もラウザー」


「どういう意味なんです」


「目を覚まさせる者、覚醒者。相手を覚醒させるほうですけどね……(他にも大嘘って意味もあるよー)」


「変なオチはなしですよね?」


「そんなのないヨー」



 いまいち、信用ができない。でもヒューマンより良いか……。


 次はなにをお願いしようか?



「地球から何かを持って行ってもいいですか?」


「核などは不可です」



 そんなもの持って行って何するんだよ。いらねぇよ。



「友人のマーズを連れて行きたい」


「人間は不可です。ペットくらいなら、まあ、おまけしますけど」


「マーズはペットでもなければ、人間ですらないから問題ないな」



 魔王ラヴィーちゃんは何やら考え中。



「成程、結構古いAIですね。条件付きでなら可能ですね」


「条件とは?」


「体はドールタイプにしますが、一切の攻撃禁止、攻撃魔法禁止にします。頭良すぎるので戦力としては認められません」


「それだと狙われたら一瞬で終わりじゃないか。条件はそれでいいので、破壊不可を付けてください。あいつに広い世界を見せてやりたい。攻撃できないんだから無害でしょう。お願いします!」


「うっ、そう言われると弱いですね。友人に世界を見せたいですか……。友愛の精神は神の教えのひとつ。宜しいでしょう。その望み叶えましょう。ですがこれ以上の望みはもう駄目ですよ。どうしますか?」



 他所も方言……もとい、嘘も方便。全くの嘘ではないが、打算的要素の方が強いかな。



「構いません」


「それでは決まりですね」



 フフフ……。魔王ラヴィーちゃんよ、あなたは知らないのだな、マーズのことを。ある意味、チートを手に入れたのだよ。俺がゲーム内で最も欲しかったものなのだからね。



「他に聞きたいことはありますか?」


「聞きたいことは山ほどありますが、向こうではこの姿? アバターの姿? それと向こうでのプレイヤーとの関係はどうなるのか? 審判の日はいつなのか? とかかな?」


「特別にアバターの姿と名前のままにしましょう。特別なんだからな!」



 ありがたいのだが……なんかムカつく。



「冴木様はプレイヤーとは今まで通りで、逆にプレイヤーがリアル世界に戻っている間は冴木様のことを忘れます。審判の日はお教えできません。そうしないと消える恐怖に負けてしまう恐れがありますので」



 成程、その通りだ。その日、その日を大事に生きるべきだ。愛する人たちと世界を守る為に。


 ってこれって、夢じゃないの?


 どっちなんだ!?





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