169 ルーク、異世界召喚される

 リアル出張も残すところ、あと一日。


 明日の決起集会と親睦会が終われば帰れる。さっさと戻ってみんなと会いたい。


 ホテルに戻るため出張先の会社のエレベーターから出ると、そこは暗闇。


 あれ? どこかで、見たことがある光景……。



「お久しぶりでございまーす。冴木様」


魔王ラヴィーちゃん!?」


「むむ。何やらよからぬ気配が……でございまーす」



 そうだ。ここは『infinity world』を始める時のアバター作成の場所だ……。俺、エレベーターから出ただけだよな。車に轢かれてもいないし、穴に落ちてもいない、まして魔法陣の中にいたわけでもない。まさか、心臓マヒか? 医者から心臓に毛が生えてる、と言われたくらい健康優良児なんだけどな……。



「これは夢? それとも幻? 疲れてるのかな?」


「夢、幻、サラリーマンのお疲れモードでもございません。でございまーす」


「夢の中では、みんなそう言うんですよ」


「むむ。でございまーす」


「で、要件は何ですか。一応聞いときます」


「よろしいでしょう。お答えします。ズバリ、冴木様は『infinity world』に召喚されました! でございまーす!」


「意味がわからん。やっぱり夢か……」



 早くホテルに帰って、着替えてから屋台巡りしたいんですけどねぇ。起きて駄目ですか? しかし、どこで居眠りしたんだ?



「信じてないご様子。仕方ありません。ご説明します。でございまーす。冴木様の子猫ちゃんが冴木様に会えない寂しさの余り、召喚魔法を使って冴木様を召喚したのでございまーす!」


「うーん。ストーリー的にはよくできていると思うよ。でも、じゃあなんでここにいるわけ?」


「ここでラヴィーちゃん! カミ~ング、アウト!」



 どっかのテレビ番組みたいだな。それでどうした?



「何か盛り上がりに欠けますねぇ」


「ドンドン、パフパフ」


「……」


「やんや、やんや」


「……もう、結構でございまーす。それでは発表いたしまーす。ラヴィーちゃんは! 使徒なのです!」



 一寸先は神……もとい、一寸先は闇。頭痛がしてきた。



「ロンギヌスで貫こうか? それとも暴走モードに入って暴れた方がいい?」


「いまどき、そんな古い時代のツッコミ要りませんから! でございまーす」



 にゃんこ共が言ってた使徒が、これだと知ったらあの世界の人たち、幻滅するだろうな……。



「むむむむむ。更によからぬ気配が。でございまーす」


「で、魔王ラヴィーちゃんが使徒だと、どうなる?」


「そこはチョチョイと細工して、ここに呼んだのでございまーす」


「だから、なんで?」


「いろいろと、お話しなければならないことがある、ございまーす」


「時間は大丈夫?」


「ノープロブレム! でございまーす。ここには時間という概念がない空間でございまーす」


「えっ? そうなの? 前にでゅえーとだから、早く終わらせろって……」


「お黙り! 気分の問題でございまーす」


「……」



 理不尽極まりないな。それはさておき、本題に入ってほしい。



「それでは、ご説明を始めさせていただきます。でございまーす」


「すみません! お願いがあります」


「はい、なんでしょう冴木様。でございまーす」


「その語尾の、でございまーすって止めてもらえます。ウザいんですけど」


「……私のアイデンティティが……orz」



 そこから長い長~いお話が始まった。


『infinity world』の世界は実際に存在する別の世界。


 今現在、地球のある世界と『infinity world』のある世界は同一神が管理していること。


 昔は『infinity world』の世界は別の神が管理していたが、無理やり今の神に押し付けられたこと。時間の概念がないとはいえ、精神的に疲れるほど長い話だった。


 しかし、ここまで聞いても、俺に何が関係あるのかわからない。



「これで起承転結の起が終わりました。では承に移ります」


「マジですか……。椅子と飲み物とお菓子の要求を申請します」


「却下です」


「それは横暴だ! 寝るぞ、夢の中で更に寝てやるぞ!」


「仕方ありません。申請を受理します」



 目の前にテーブルに椅子、飲み物とお菓子? が出現した。ピザはお菓子か?


 魔王ラヴィーちゃんが口をモグモグさせながらピザを食べている……。あんたが食べたかっただけかい!


 ひと息つき、魔王ラヴィーちゃんはまた、話し始める。


『infinity world』の世界を押し付けられたはよいが、地球のある世界より複雑に作られているらしく、運営が上手くいっていないらしい。


『infinity world』の世界には神と呼ばれる存在が他にもいるらしく、ことあるごとにチョッカイを出すらしいのだ。そのよい例が邪神だ。世界の革新と称して余計なことをする。


 このままではいかんと思った神は、邪神が革新、革新と煩いので、それならばと地球側の人間を送り込み新しい風を起こすことにした。しかし、突然異世界の人間を送り込んでこの世界が崩壊しては不味いので、『infinity world』というゲームを通してシミュレーションを行うことにした。


 世界に十二のサーバーがあり、おのおのシミュレートされている。その中から最もよい世界を選ぶらしい。選ばれなかったサーバーの世界は消去され、なかったことにされる。


 なんとも、壮大すぎてついていけない。しかし、消された世界はたまったもんじゃないな。あちらには、あちらのレイアやニーニャがいるわけで……。それを気にいらないから消しましょうって、理不尽だ。ある意味、神に与えられた特権なんだろうけどな。



「現状、よい方向に進んでいるサーバーは三つ。そのひとつが日本サーバーです。お国柄もあるのでしょうが、他の九つのサーバーは酷いものです。カオスです。奴隷制度といった人にあるまじき制度を作ったサーバーもあります。人間の欲望とはおぞましい限りです」


「……」



 なにも言えんな、日本の厨二病患者も奴隷やハーレムが大好きだからな、人間の深層心理には他人を束縛、支配したいというのがあるのかもしれない。それを表面に出す出さないというのが、思想、倫理、道徳と言った教育の違いなのだろう。



「かと言って、三つのサーバーがこのまま上手くいくとも断言はできません。現に日本サーバーでは大きなイレギュラーが二件起きています」



 はて? なんのことだろうか? そんなことあったのか?


 二件のイレギュラーってなにさ?




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