168 プレイヤーとの同盟締結

 数日が経ち、イノセントハーツの砦で捕虜引き渡しがおこなわれた。


 返還される捕虜たちには、表だって行動するなと伝えてある。要するに裏工作は好きなだけやれということだ。当面は国の目が光っているので動けないだろうけどな。


 捕虜交換にこちらから立ち会うのは、ランツェ本人。それと変装した俺である。クルミナ聖王国からは第一騎士団長とシルバーソードのケインだ。立会人はセイさんたち数人のクランマスターとなっている。


 調印式が始まり、第一騎士団長とランツェが調印する。



「貴殿が第十三魔王ですかな?」


「そうだ自称だがな。本当は五百年以上前にゾディアックに滅ぼされた国の騎士団長だった者だ。昔も今も変らず、クルミナ聖王国は腐った国だ。北の魔王と手を結ぶなど……恥を知らぬのか」


「……」


「安心するがいい。第八魔王は私が倒す。そしてお前たちが画策した愚かな行為が民主の前にさらけ出され、民衆の裁きを受けることとなろう。使徒の眷属の名を騙り、偽りの勇者を担ぎ上げ、己の保身のみ守ろうとする害虫全てがな」


「貴様! 無礼だろ!」


「黙れ、えせ勇者。また、死に戻りしたいのか?」


「き、貴様、ルークか!」


「さあな、ひとつ教えてやる。ここに居るプレイヤーは、お前がクランマスターの暗殺を指示したことを知っているぞ」


「な、なんのことだ。私は知らん!」



「安心しろ、GMには通報しない。これは戦争だからな。せいぜい背後には気を付けろよ。お仲間のシルバーソード連中以外は敵だと思え。クックックッ……」



 錨は適当に重い……もとい、怒りは敵と思えと言うが、マジでムカつくんだよな、こいつ。



「双方、いい加減にしろ。それでは捕虜の返還だ」



 その後は何事も起こらず、捕虜を連れて帰って行った。


 会議室で皆とランツェとの顔合せをした。最初は誰も本物だと信じていなかったので、ランツェに言って抑えている妖気を放出させると、数人気絶した。全員顔面蒼白状態だ。



「信じてもらえましたかな?」


「失礼した。私はクラン【ウィズダムグリント】のマスターでセイと言います。ここに居るプレイヤーのまとめ役をしています。率直にお聞きします。あなたの目的は何ですか」


「全ての者とは大きなことは言わない。しかし、今よりは多くの者が虐げられない世の中にしたいと願う。私はアンデッドだが、これでも元は人族だ。愛する妻も居れば愛する子たちも居たのだよ。それを己の権力の誇示の為、ゾディアックに殺された。これを赦すわけにはいかないのだよ」


「この国を滅ぼすと?」


「国に興味はない。倒さねばならぬのは、ゾディアックの一族」


「魔王に関してはどうですか?」


「魔王に会ったわけではない。全ての魔王が悪なのかも知らぬ。しかし、第八魔王は倒さねばならぬ相手だということは確定した」


「倒せるのですか?」


「セイ君と言ったな」


「はい」


「倒せるのか? ではなく、倒すのだよ」



 ランツェくん、それパクリぞ! ちょっと吹き出しそうになったじゃないか。



 会議室内は静まり返っていたが、ひとりのプレイヤーが声を発すると一斉に、興奮と感動に打震え始めた。なんでやねん。



「うおぉー! 俺はやるぜ!」


「さすが! 漢、ランツェ殿!」


「打倒! 魔王!」


「「「やんや、やんや」」」



 ランツェ! パクリだからな、パクリッ! 悔しくなんかないからな! チクショー。



 興奮が収まり、



「改めて、我々はランツェ殿と協力関係を結びたい。如何でしょう」


「喜んでお受けしたい」



 セイさんとランツェが、がっしりと握手を交わした。ここに第十三魔王とプレイヤー連合が手を結んだのである。


 後は任せてもいいかな。降魔神殿に戻ろう。


 部屋のソファーでお昼寝しているニーニャの横で、さくらをウニウニしながらステータスを確認する。


 Jobに下忍が増えているが、変更するには所属を決めなくてはならないようだ。


 伊賀、甲賀、雑賀、名張、風魔、甲斐、戸隠などそうそうたる忍者集団だな、しかし、何処にするかは決まっている。


『黒脛巾組 下忍』 STR、VIT、DEX、AGIに補正(+2)が掛り、Jobセット中、HP回復(小) クリティカル10%増の補正が入る。隠形、暗殺術が使用可能になる。


 取得条件 特定スキルの取得、自分よりLv20以上離れた敵を一撃目クリティカルで倒す。



 なかなかに難しい取得条件だ。ほんと偶然の賜物だ。やっと念願の暗殺術を手に入れた。これでユニークスキルを使えるようになる。待ちに待った俺の時代が来るのか?


 イベントクエストのクリア報酬が出ていたのでもらってきている。


 累積報酬で大量の白金貨、敢えて何も言うまい。ひとり勝ちだからな……。


 最大撃破報酬がクリスタルコア、MVP個人報酬が開拓権利書、クリア報酬が拡張オーブ二個だ。


 クリスタルコアは任意の場所に人工迷宮の作成が可能になるアイテム。オールに見せたら、顎がはずれてフガフガ言ってた。



あるじ殿! ど、どこで、そ、それを手に入れられたのう……」


「運営さんから貰った」


「か、管理者殿か……。あるじ殿はその価値がわかっておるのかのう?」


「迷宮が作れるんだろう」


「何とも、簡単に仰るのう……」



 クリスタルコアは先の神の時代の遺物で、レア中のレアだそうだ。オールの師匠が先の魔王から功績を認められ、拝領したものが死者の都のクリスタルなのだそうだ。要するにあれがクリスタルコアなんだな。



「ラッキーじゃん。さくらの拠点が増えるのは良いことだ」


「いや、確かにその通りなのじゃが、何とも腑に落ちんのう」



 開拓権利書はその名の通り、任意の場所に街を創れる権利書。クリスタルコアと合わせて使えば迷宮都市を創る事も可能じゃないのか? 夢が広がるな。ご丁寧に拡張オーブもついている。先ずは、場所探しからだな。


 今日からリアルで予定が入っているので、そろそろログアウトしないといけない。


 さくらと起きたニーニャを抱っこして、



「明日から当分の間、ここに来れなくなるんだ。ごめんな」


「みゃ~」


「にーにぃ~」


「さくら、ニーニャ。とっても寂しいぞぉ」



 ふたりをギュッと抱きしめた。さくらは悲しい顔して顔ペロしてくる。ニーニャはュッと抱きしめ返してくれて顔をスリスリしている。


 仕方ないんだ、明日から出張で福岡なんだよ。許してくれぇ。


 名残り惜しいがふたりと離れ、レイアの元に行き抱きしめた。



「当分来れない。みんなをよろしく」


「はい、いってらっしゃい」


「レイアも無理しちゃ駄目だぞ」


「フフ……わかっています」



 こればかりは仕方ない、会社の命令だ。


 明日の準備がある。後ろ髪を引かれつつ、ログアウトした。





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