172 同盟を断る

 夕食時、ファル師匠も帰ってきた。



「戻って来ておったか。ルークよ」


「はい。何かご用件でも?」


「ライオスの事は聞いておるか」


「クルミナ聖王国に反旗を翻したとか」


「ふむ。そのライオスが第十三魔王と同盟を結びたいと言ってきておる」



 なるほど、敵の敵は味方か。だが、同盟相手に不足はないのか? いいように使わられるだけなら意味がない。



「ライオスの国王をご存知なので?」


「儂の弟弟子だった者じゃ」


「性格や人柄はどうなのですか」


「海闊天空 洒洒落落 天衣無縫」



 ファル師匠は言葉を選んで、言っているのだろうが、聞く人が聞けば馬鹿君主とも受け取られかねない表現だ。大丈夫なのだろうか?



「そんな人が国王やれるんですか?」


「配下の者達が切れ者揃いでな」


「ファル師匠はどのようにお考えで」


「結んで損はないじゃろう」



 ふむ。我々とは隣接してないが、クルミナ聖王国の牽制にはなるが、獣人の国かぁ……まさかな。



「それだけですか?」


「う、うむ。実はのう、奴の孫とニーニャ嬢ちゃんの縁談話もきておるかのぅ……」


「やはり、そうきましたか……。ファル師匠には申し訳ありませんが、あちらの意図がただ同盟とは思えません、お断りさせていただきます。残念ながら、国王は別として、重臣たちが信用できません」


「うむ。やはりそうなるかのう。奴には最初に言ってはおいたのじゃが、重臣共に押し切られた感がある」


「私は、相手を利用するのは好きですが、されるのは大嫌いです。特に私の身内を利用するなど、言語道断」


「ルークよ。それは誉められたことではないぞ……ニーニャ嬢ちゃんに関しては同意見じゃがな」



 ただの同盟なら結んだかもしれない、しかし、ニーニャを人質に取るなど地獄に落ちろ! 逆に滅ぼしてやりたくなる。ニーニャが悲しむからしないけどな。それにお約束の『にーにと結婚するの』イベントは外せない。絶対に!



「獣人国ライオスかぁ、厄介なのが出てきたな」


「奴には野心などないぞ」


「ですがファル師匠の弟弟子となれば、それなりのお歳。次期国王はどうなのですか?」


「奴の息子だけに悪い男ではない。が、父が輝き過ぎるため、影が薄いのは確かじゃな」


「となると、問題は重臣ということですか……話にならないですね。この話は終わりです」


「仕方ないのう」



 その後は、久しぶりに煩い夕食を楽しんだ。この煩さ、どうにかならないのだろうか……。


 露天風呂に入った時、あそこのモヤがなくなっていることに気付き、本当にこの世界に来たんだなと実感してしまった。別に望郷の念はない。


 風呂上がり後は、ファル師匠とゆっくり酒を楽しんだ。


 翌朝、イノセントハーツの砦に朝練に向かうと人が多い。なぜ?



「これは、何が起きているのかな」


「あたしたちを抜け者にするのは酷いにゃ」


「せっかく強くなれる場があるなら、参加するのは当然だろう」



 あみゅーさんと更紗さんのクランメンバーも、数名来ているようだ。もちろん、セイさんのところもだ。



「誰から聞きました?」


「うちの女性プレイヤーがダイチから聞いたっていってたにゃ」


「私もダイチが女性プレイヤーに自慢しているところを、たまたま通りかかってな」



 あの節操無しのすけこまし野郎は、なにしとるんじゃい! このボケェがぁー! 朝背に貧乏神……もとい、浅瀬に仇波って奴だ、信じられん。



「よう、ルーク。久しぶり」


「久しぶりじゃねぇよ! 何やちゃってんの、アホなの、頭おかしいの? ダイチくん」


「な、何がだよ?」


「最初に言ったよね。この朝練は特別だって、なにペラペラ女に話してるんだよ!」


「別に隠す必要ないだろ? みんなでやったほうが訓練になるって!」


「そうか……なら今日で朝練は中止する」


「なんでだよ!」


「こんな多くなったら、もう、特訓にならないだろが。始めた趣旨が違うんだよ!」



 弟子のリンネたちは別として、俺とにゃんこ共は強くならなければならないのだ。遊んでいるわけではないのだ。特に俺はこの世界の住人になったのだ、少しでも強くならないといけない。



「ルークよ。よいのじゃ。儂が許した」


「しかし……」


「学びたいと思う気持ちは大事じゃぞ。その機会があると知れば尚更じゃ。多くの者と立ち合うのもよき修行のひとつじゃての」


「ファル師匠がそう仰るのであれば、私は何も言いません。し、か、し、ダイチ!」


「ハヒッ……」


「次に女の前でこのことをネタにしてナンパしたら、背後には気を付けろよ。最近、スキル暗殺術を手に入れてな、使いたくてウズウズしてるんだよ」


「はぃ……」



 朝練が始まり、いくつかのパーティーに分かれて模擬戦が始まっている。


 俺は毎度のことながら自主練。今日はドラゴンオーラとユニークスキル死剣のの検証をする。


 ドラゴンオーラを使うと淡い紫色の光を全身から発している。ステータスを確認すると、全能力値に百の補正値が入っている。時間にして五分。スキルの後ろに六十の数字がカウントダウンされているので、クールタイムは六十分みたいだな。スキルレベルが上がれば稼働時間も増えるんだろう。



「なんだ、ルークもドラゴンオーブを貰っていたのか?」


「どういう意味ですか? セイさん」


「ルグージュ防衛戦の報酬で、ドラゴンオーブを貰ったプレイヤーは十人に満たないんだ。俺はルークと同じでドラゴンオーラを取得したけどな」



 そ、そうなんだ。俺は四つも貰ったよ……内緒にしとこう。


 セイさんは前に模擬戦をした時に、ドラゴンオーラを使っていなかった。あれで、本気じゃなかったってことか……、



 さて死剣の検証は、事前にファル師匠に言っておこう。じゃないと、また雷が落ちるからな。



「死剣とな……使う気か?」


「魔王と戦うには必要な力です。今鍛えているのもその為ですから」


「しかし、死剣は暗殺拳。正派の技ではない。邪派の技じゃぞ」


「技自体には正も邪もありません。使う者で決まる。まあ、俺の場合まっくろくろすけですけどね」


「……だから、心配なのじゃよ」



 ファル師匠は俺がダークサイドに落ちると思っているのだろうか。安心してほしい、俺は既に魔王(笑)のあるじ。最初からダークサイドの人間なのさ。




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