166 目には目を歯には歯を

 ゲインにシルバーソードに近寄らず、事が起きたら例の件を実行しろとメールを送った。


 今からおこなわれる事は、自分でも悪魔と呼べる程の悪辣な作戦だ。しかし、これは必要悪。クルミナ聖王国軍に、どれだけ愚かな事をしているかを理解させることにある。


 そんな中、クルミナ聖王国軍も腹を据えたようで、決戦の準備しをしているようだ。虎の子のゾディアックの五宮も戦いにでるようだが、まだ部隊の後ろで踏ん反りかえっているらしい。既に決着はついているとも知らずに……。


 戦力を分散させた時点で、クルミナ聖王国軍の負けは決まっていた。なので、ここからは戦いではなく蹂躙へと変わる。



「チロ、俺が見えなくなったら合図を出せ」


「任せて」


「ランツェ。後は任せる」


「承った」



 俺は闇夜に消える。ここからは個人的な恨みを晴らすための舞台ステージ



「ニャオーン!」



 チロの猫魔法の遠吠えだ。遠くの仲間に聞こえる魔法らしい。


 俺は敵陣の近くに潜伏する。事が起きた後、敵陣に紛れ込みことを成す。


 さて、そろそろかな? 


 暗闇の中、シルバーソードの部隊に黒いレーザーがつき刺さる。一瞬で何百というプレイヤーが消える……。その攻撃が四度続く、でんちゃんのブレス攻撃は強烈だな。


 俺もこの機を逃さず、混乱しているシルバーソードの部隊に紛れ込む。


 クルミナ聖王国軍は大混乱の真っ只中、ランツェもこの攻撃に乗じて攻撃を開始した。


 さて、ターゲットは何処や。気配遮断、認識阻害を使っているので誰も俺に見向きもしない。



「何をしている! 態勢を立て直せ! 敵はすぐ来るぞ!」



 居たな。でんちゃんの攻撃ではやられなかったようだ。しぶとい奴め……いや、重畳、重畳。


 変装用魔道具で姿を変え、迅雷の小太刀を手に持ち相手に近づく。相手の察知力よりこちらの気配遮断のほうが上回っているらしく、全く気付いていない。


 ターゲットの背後から迅雷の小太刀を心臓目掛け突き刺す。周りから見れば抱きついているように見えるだろう。



「ぐっわっ……」


「よう、えせ勇者。いろいろやってくれたじゃないか。嬉しくて涙が出てくるぜ」


「き、貴様ぁー」


「今日はわざわざお礼に来てやったんだ。ありがたく思えよ」


「お、覚えていr……」



 シルバーソードのクランマスターケインが光に消えた。



『条件をクリアしましたのでJob【下忍】を取得しました』



 ここでかい! まあいい。後で確認しよう。


 取り敢えず、



「シルバーソードのクランマスター討ち取った!」



 まさかの暗殺に全軍に動揺が走る。


 さてと、やることやったので、さっさと転移で逃げますよ。


 降魔神殿に戻り、でんちゃんの元に向かう。


 さくらがでんちゃんの頭の上で、なでなでしていた。


 傍に居たゼータに、



「でんちゃんはどうだ?」


「先程までだいぶ苦しんでいたようですが、今は落ち着いたようです」



 でんちゃんの顔に近づき撫でてやる。



「Guruuu……」


「さくらもご苦労な。もう少し、でんちゃんについていてやってね」


「ミャー」



 オメガの元に行き状況を聞く。



「予定通りに、ことは進んでございます」


「北の魔王の動きはどうだ?」


「まだ、何も……」


「不気味だな」



 さくらの部屋に行き、待機していたエターナに転移魔法を使わせた。


 転移した場所は、国境の砦。


 クルミナ聖王国軍とランツェとの戦いの間に、デルタに落とさせていたのだ。


 砦の常駐兵も殆どがランツェとの戦いに出たため、この砦に残って居たのは五百にもみたない兵士のみ。それも監視している国境と逆の背後からである。



「デルタ。どうだった?」


「……あっけなかったな。抵抗なく終わった」


「捕虜にしたのか?」


「……殆どがフォースによって、こちらに寝返った」



 デルタのユニークスキルフォース、相手の意思を捻じ曲げ強制的に従わせることができる、恐ろしいスキルだ。だが万能ではなく、魅了させるか、畏怖を感じさせないと効き目がないし、意思の強い者には効き難い。



「良い駒が手に入ったな」


「……お前にとっては駒に過ぎぬか」


「それ以外に何がある? もうすぐ多くの駒が手に入るぞ。上手く使えよ」


「……ふぅ。わかった善処しよう」



 飛空船情報部隊から、クルミナ聖王国軍が敗走してこの砦に向かっていると情報が届く。


 ゲインからもメールが届いており、作戦が成功してゾディアックの五宮の全てを暗殺に成功したそうだ。


 そうあの時、ゲインに指示したのは暗殺。後ろに隠れているゾディアックに一撃をお見舞いしてやった。悔しがるがいい。決して褒められる行為ではないが効果がある一撃に違いない。例えレイアの両親でも決行していた。何度もいうが、これは戦争であり必要悪なのだ。


 そう、自分に言い聞かせる。盤上でチェスをやっているのと同じ、あれは人ではない駒なんだと。俺もその駒のひとつ……ルークなのだから。


 防壁上に見えないように、クロスボウを持つスケルトンと、セイさんたちに作ってもらった秘密兵器を持ったスケルトンを配置する。


 俺は変装用魔道具で変装して門の上にデルタと立つ。


 雪が降る闇夜だが、遠くから騎兵がこちらに向かってくるのが見えた。どうやら歩兵を見捨てて来たようだな。勇者様の名が泣くな。


 先頭の一団が門の前にたどり着いた。



「開門! 開門せよ!」



 徐々に騎士団の兵がたどり着く。



「なにをしている! 開門せぬか!」



 門の前が騎士団の兵で埋め尽くされ始めた。



「貴様! 砦の門番の分際で何をしている! さっさと開けぬか!」



 門の前は兵士でごちゃごちゃだ。そろそろ良いかな? デルタに向かって頷く。


 デルタが片手をあげると、防壁上にあったクルミナ聖王国の旗が外に打ち捨てられ、さくらの紋章が描かれた旗が立てられる。


 それと同時に、秘密兵器が放たれた。そう、放水が開始され下にいる兵士達に水が掛けられる。


 セイさん達に頼んだのは手動式圧縮ポンプ。実験結果では最大二十五メートルまで放水可能。これを防壁上に設置して放水している。ちなみに水は水を湧きだす魔道具の大型版をオールに作らせた。動力はエナジーコアである。エナジーコアは腐るほどある。バンバン使うのじゃ!


 防寒具を着ているとはいえ、水を掛けられればずぶ濡れになる。お馬さんだってずぶ濡れ。こんな雪の降る中でずぶ濡れになればどうなる? 風邪を引く? 惜しい。正解は低体温症になって動けなくなるでした。


 更にクロスボウの攻撃が始まる。鎧を着ていようが関係ない。貫通するからな。


 逃げようにも逃げる場所がない。後方からはランツェの軍勢、砦は既に占拠。尋問の刑事でか拷問の御上……もとい、前門の虎後門の狼状態。


 もう、彼らにできることいえば……降伏しかなかった。


 武装解除させ勇者フェアラートを探したが、既に転移魔法が使える者によって逃げ出した後だった。


 捕虜は総勢九千人、シルバーソードを除けば七千人が死亡したことになる。


 クルミナ聖王国軍は大敗を喫した。



『イベントクエスト、クルミナ聖王国軍対自称魔王軍において、自称魔王軍側が勝利条件をクリアしました。貢献ポイント上位者は後日、メールにて発表させて頂きます……』



 天の声インフォが聞こえた



 まあ、当然といえば当然だが、我々の大勝利だな。






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