165 開戦。そして罠発動!

 あれから更にリアルで二日経った。


 こちらの準備は向こうの行軍が遅れてくれたことから、呆れる程万端になった。


 クルミナ聖王国軍は北の国境の砦とその周辺に陣を敷いている。なぜか? 単純に入り切らなかったからだ。


 クルミナ聖王国の間者もまだ自称魔王の居場所を把握しておらず、探している始末。ちょうどいいのでゲインに手柄を立てさせる為、メールでランツェの砦の場所を教えておいた。


 さっさと攻めて来い。下手に長引いて魔王軍まで出て来ると厄介だからな。


 場所を教えたにも関わらず全く動く気配がない。いったい何を考えているのやら。仕方ないので計画の変更をする。


 日中でも行動できるギリギリの場所にランツェを陣取らせた。もちろん罠は仕掛け済み。


 それを見たクルミナ聖王国軍もやっと重い腰を上げ、街道脇の雪原に陣を敷く。


 ここまでお膳立てしたにもかかわらず、未だに攻めて来る気配がない。じらし戦法なのだろうか? 北の魔王軍が控えていなければいつまでもやらせておくのだが、そうも言ってられない。


 ランツェに夜間に敵陣を攻撃させてみた。


 歩兵部隊が前衛で守りを固めて、後方から聖光魔法攻撃に投擲で聖水が投げられる。理に適った攻撃だ。しかし、向こうからは攻めてこない。


 ゲインにメールを送り調べさせると、どうやら誰が攻めて、誰が砦を落とし、誰がフェアラートとともに自称魔王を討つのかということで、内輪もめしているらしい。馬鹿だなこいつら……。


 夜間に同じ攻撃を二日連続で仕掛けた。痛み分けだが、こちらが失うのはスケルトン、たいして痛くない。向こうが失うのは魔法部隊。さぞかしイライラしているだろう。



「ランツェ。今日の攻撃であの罠を使え」


「乗って来ると思うか?」


「乗るか? じゃなくて、乗せるんだよ! どんな手を使ってでも奴らを罠まで引きずり込め!」


「……承知」



 ランツェは、こう何ていうか、自分自身に自信がないというか、心配性というか、ビシッとこないんだよな。デルタとは言わないが、もう少し憮然とした態度でいて欲しいところだ。やればできる子なんだけど、性格で損するタイプだな。


 その夜、スケルトン隊が攻撃を開始した。なかなか苛烈を極める戦いになっており、魔法と矢の応酬の消耗戦だ。スケルトン隊が逃げ出し始めたが、最前列のスケルトンはクルミナ聖王国軍の歩兵に踏み潰され、粉々になっている。これがわざとで、ランツェの策ならやるじゃないか。


 クルミナ聖王国軍はここぞとばかりに、追撃に出て来る。しかし、騎士団とシルバーソードは動かない。冷静なのか、ただ仲が悪いのか判断に苦しむ。しかし、当初の計画は上手くいきそうだ。罠が仕掛けられた場所にもうすぐ敵の部隊が入る。


 敵の魔法部隊が罠が仕掛けられた場所に入った時、ランツェから合図が鳴らされた。合図とともに魔法部隊の多くが急に崩れさる。よく見ると地面から槍や剣が生えているように見える。見えるだけで実際は地中にいたスケルトンが攻撃しているのだ。


 地面からムクムクとスケルトンが起き上がり、魔法部隊に攻撃を加える。乱戦では魔法は役に立たないため、バタバタと魔法兵が倒れていく。後方では先程潰されたスケルトンが復活し、背後から攻撃を加えている。逃げだす振りをしていた前衛部隊も陣形を立て直し、歩兵部隊に攻撃を再開している。


 その上、ここでランツェは温存していたドラゴンスケルトントルーパーを投入。歩兵部隊の側面がえぐり取られる。本隊も不味いと思ったか騎士団を出してきたが、その間にこちらは既に全軍を引かせている。この作戦は魔法部隊の壊滅が目的。敵の殲滅が目的ではない。それでも予想を上回る成果をあげたようだ。



「良い采配だったな。ランツェ」


「ハッ!」



 ランツェの表情が、心なしか嬉しそうに見える。飴の効果があったかな?


 さて、もうひと押ししましょうかね。



「オール、準備は良いか?」


「問題ないですのう」


「では、奴らに絶望感を与えてやれ」


「承知」



 オールは陣の前に行き、以前イベント前に見た儀式を始める。今回は範囲が狭いので、オールひとりでも問題ないそうだ。


 先程の戦場に魔法陣が浮き上がり、地面に転がる死体に光が吸い込まれ、生前の肉体から脱皮するかの如く、無数のスケルトンが起き上がる。


 クルミナ聖王国軍にすれば悪夢でしかないだろう。今まで味方として戦っていた兵が、アンデットとして敵になるのだから……。


 しかし、こちらはプラス収支だ。魔法部隊のスケルトンソーサラーも大幅に増員された。ウハウハだ。聖、光魔法を使う者たちが激減した今、損害無視で総攻撃をしてもいいのだが、もう少し痛い目にあってもらおうか。


 明日の夜、更に阿鼻叫喚の地獄絵図をクルミナ聖王国軍の血をもって描いてやる。フフフ……。



あるじ殿が魔王の顔になっとるのう」


「私は仕えるべきお方を間違えたのだろうか……」


「ルークにゃんは生まれる場所を間違えたにゃ……」


「それなりの地位の生まれなら、覇王でもおかしくない……」


「魔王を倒して世界征服ではなくて?」


「……(ガクブル)……」



 こいつら、言いたい放題だな。めでたいことはすぐ言え……もとい、言いたいことは明日言え!


 これも全ては愛するさくらのためとはいえ、良心の呵責に苛まれ、心で血の涙を流し、心を引き裂かれんばかりの苦痛を味わっているというのに……。

 あれ? そうだっけ? ま、まあ。そういう気持ちを持った方がいいかな、程度には思っているわけで。本当に思ってるのか?


 やめよう。段々、自分が無慈悲な魔王に思えてくる……。


 自分は、真っ当な人間だ!


 と思いたい……。





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