160 ルーク、埋伏の計を仕掛ける。

 迷宮の十三階層に来たが、まだ敵を感知できていない。今日はお休みか?


 まあ良い、気にせず探索を開始する。十階層からはゴブリンに加えてオークも出現するようになった。


 そろそろエターナの装備を見直したほうが良いかも知れない。


 今まで通りエターナがメインでレベル上げ、俺は後ろから投擲スキル上げをおこなっている。デルタは後をただ歩いてる。


 十五階層まで来た時、心眼スキルに怪しげな何者かを感知した。エターナとデルタにハンドサインを送り注意を促す。先に進むに連れ、逃げ場を塞ぐように後方に五人ついて来ている。おそらく、この先に広い空間でもあるのだろう。そこでメインのPKが、俺たちを待ち伏せしているのだろうな。


 先頭をデルタに代えて、エターナを後方警戒に回す。エターナには魔法支援と投擲だけするように言っておく。敵は万全の体制で待ち構えているはず。まだ、エターナには荷が重いだろう。


 急にデルタが立ち止まり、装備を変えた。


 グッと心臓が絞めつけられるような感覚に襲われる。エターナは大丈夫かと見ると苦しそうだ。無理はしなくていいぞ。



「……大丈夫か」


「なんとかな」



 おそらく、装備した狂乱の鎧の効果なんだろう。まだパーティーを組んでいるので効果が低くなっているが、デルタと対峙する奴らはどうなるんだ? 効果範囲も気になる。


 通路の先に広い空間が見えて来た。


 デルタが広間に足を踏み入れた途端、矢やナイフが飛んでくる。


 正直、何をしたのか見えなかったが、デルタの足下に矢やナイフが落ちている。デルタ先生、さすがです。



「チッ、駄目かよ」



 広間に繋がる二つの通路から、プレイヤーが出てきた。後ろも含めると二十五人程居るようだ。まあ、よく集めたね。主犯はどっちかわからないが、ご苦労なこって。


 鑑定すると全員PK職についている。ということは、生粋のPKということだ。



「すまないが、誰かと勘違いしてないか?」


「そう思うか?」


「誰かに恨まれる事など……一杯やってるからわからん!」


「そ、そうか……なら問題ねぇじゃねぇか!」


「誰から狙われたくらいは、知りたいと思うだろう?」


「さあな、俺たちには関係ない。ここでお前らは死ぬんだ」



 他人に口出し……もとい、死人に口なしってやつか。でも、俺プレイヤーだよ。すぐ復活するぜ? まあ、デルタ先生が居る限り、死に戻りはないけどな。



「ゲイン アサシン。ダルク アベンジャー。ビリオ ローグ」


「こ、こいつ鑑定持ちだ。隠蔽も効いてねぇ。やべえよ!」



 こいつ等、レベルは高いがスキルレベルが低いんだよね。次々に鑑定してエターナが紙に書いていく。


 PKさんたち、なんか揉めてますよ?



「お前ら、シルバーソードの影清って男のこと知ってるか?」


「……」



 どうやら知ってるようだな。



「せっかくここで知り合ったのだから、同じ目に合わせてやろう」


「おい、お前らやれ!」


「デルタ。ご自由にどうぞ」


「……くだらんな」



 さっきの心臓の絞めつけが更に強く襲ってくる。これはエターナでは無理だな。エターナを壁際に移動させ、俺は守りに入る。


 が、必要ないかも……。PKたちも相当苦しいようだ。何とか数の優位で気合を保っているようだが、いつまでもつかな?


 デルタが剣を振るう度、紙切れを切るようにPKたちの体が二つに分かれ光となって消えていく。


 何人かは転移石で逃げようとしたが、投擲で邪魔をしてやった。通路の奥に逃げようとした者も居たが、俺がが仕留めた。逃がすわけないだろう。


 数分もかからず、残すはリーダーのゲインだけになっていた。



「デルタ。そいつは殺すなよ」


「……ふん」


「た、助かったのか……」


「どうだろ、君次第かな?」


「全部言う。知ってる事は話す!」



 こいつ等を雇ったのはゾディアック、集めたのはシルバーソード。まあ予想通りだな。邪魔な存在を消す裏部隊として雇われたという。総勢百名居るらしい。依頼をこなす度報酬が出るうえ、PKにも関わらず街に入れるようになったという。



「なかなか面白いロールプレイだな」


「だ、だろう。ただ、PKするより楽しいぜ」


「なら、もう少し楽しくなりたくないか?」


「どう言う意味だ?」


「俺はな、ゾディアックのあのいけすかない上から目線が嫌いでな、魔王軍についてるわけよ。ここまで理解できる?」


「ああ。お前、魔王側についてるのか、俺たち以上にクズなんだな」


「なんとでも言え。そこでだ、君にはもっとロールプレイを楽しんでもらいたいと思う」


「な、なんだよ」


「どうだ、我々のスパイにならないか? もちろん報酬は出す。情報によってはボーナスもだそう。他のPK連中も引き込んでスパイ部隊を作ってほしいんだ。面白いと思わないか? ゾディアックの馬鹿どもとシルバーソードの連中に一泡吹かせたくないか?」


「なるほど、面白そうだな。やってもいい。だが報酬以外にも条件がある」


「なんだ?」


「二つ、武器の供与とバレた時の身の安全」


「構わないぞ、何ら問題ないな。武器ならくれてやる。もし、バレたら魔王軍で活動すれば良いだけの話だ。更に楽しいロールプレイができるぞ」


「お、おう。で、どの位、仲間を引き込めばいいんだ」


「全員でも構わないが、できるだけ本気でロールプレイを楽しんでるタイプの奴らが良いな。口が軽い奴は駄目、身勝手な奴もパス」


「わかった連絡はどうすればいい?」


「プレイヤーなんだメールを使えよ」



 フレンド申請を送った。



「……登録した」


「シルバーソードには気を付けろ。あいつら馬鹿だが力はあるからな」


「わかった。これからどうすればいい?」


「死に戻りしてもらう。ひとり生き残ったらおかしいからな」


「……わかった」


「デルタ。頼む」



 デルタが剣を一閃させると、首が落ちて光に消えた。



「……お前を敵に回したくないものだな。あまりにも卑劣だ」


「そうか? 誉め言葉として受け取っておく。それに、戦いにおいて情報は最大の武器だぞ。どんなに強大な力があっても、それを使いこなす情報がなければ、大和の主砲だ」


「……大和の主砲が何か知らんが、我々が今までしてきた戦いとは違うのだな」


「多くの人材に多くの捨て駒があれば、こんな事はしない。相手の軍勢より多く兵を集め戦うのが兵法の常道。少数で多くの兵を倒すのは邪道。しかし、我々には邪道で行く道しかないのも事実。ならば、より味方の犠牲が少ない道を探すは必然。ただ、それだけの事だ」


「……そうか」



 フフフ……。それにしても良い駒が手に入った。使い捨てにしても惜しくないし、汚れ仕事にうってつけの駒だ。


 使いどころが難しいが、ゾディアックの獅子身中の虫には違いない。


 一寸の虫にも五分の魂と言うからな。ここぞという時にゾディアックの喉元に、剣を突きつけてもらおうか。


 成功すれば良し、失敗しても失うものはないからな。


 クックックッ……。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る