148 変人科学者の勧誘

 課題の多い、朝練だった……らしい。俺が悪いのか?


 結局、セイさんはデルタと後日立ち合いをすることを約束していた。



「しかし、この設備はいいな。うちにも欲しいと思はないか? ニンエイ」


「可能なら欲しいところだ」


「作るのは依頼を出せばできますが、材料は強力な魔法石か宝玉が必要になります。オーブなら完璧ですね」


「どれもこれも貴重な素材だな。滅多にお目に掛かれない」


「ルークが確かオークションで落札していなかったかな?」


「あれは、研究用なので駄目ですよ。攻略組なら誰か持ってるんじゃないですか? 確かボス討伐報酬か何かであった気がします」


「ニンエイ、確認頼む」


「わかった」


「複数出たら分けてください。言い値で買います」


「い、や、だ!」


「職人紹介しませんよ?」


「……余ったらな」



 探せばあの魔道具を作れる者も居るかも知れないが、手間を考えると大変だ。うちにはオールがいるからな便利だ。



「君に頼まれていたプレイヤー。わかったぞ」


「はやっ。昨日頼んだばかりですよね」


「ノインスに居る、自称科学者というプレイヤーだ」


「自称科学者ですか?」


「生産組では、そこそこ有名人らしい。役に立たないものばかり作る事でな」



 典型的な研究家タイプだな。革新過ぎて世間に認められないタイプ。なんて理想的な人材。ぐふふ……絶対に確保しなければ。



「場所はわかりますか?」



 ニンエイさんは紙に書いた地図を渡してくれた。



「何をする気だ?」


「秘密兵器作成。愚か者共に現代知識の恐ろしさを見せてやるぜ! フッハッハ……」


「悪役だな」


「マッドだろ? うちの師匠」


「だな」



 君たち失礼だぞ。世の中、勝てば換金負ければ借金……もとい、勝てば官軍負ければ賊軍。勝てば良いのだよ! 勝った者が歴史をるんだ。現実世界が良い例じゃないか。


 さっそく、会いに行きましょうかね。


 セイさん達と別れ降魔神殿に戻った。



「レイアのご予定は?」


「孤児院回りとレミカのお手伝いです」


「レミカさんの手伝い?」


「はい。だいぶ忙しいようで、助けて欲しいと。いつもお世話になってますから」



 あれだけ優秀な人材でも助けて欲しいとSOSを出してくるなんて……。



「ガレディアの秘書って大変そうだよね」


「……そうですね」


「ならニーニャは俺と一緒だな」


「あい!」


「さくらはレイアと一緒でお願いね」


「ミャー」



 ニーニャとにゃんこ共を連れノインスに来た。面倒事があって以来、足を運んでいない。面倒事は勘弁して欲しいからな。


 地図を頼りに場所を探す。



「ルークにゃん。ここより先は危険でござるにゃ」


「我々の眷属が警告している」


「猫姫さまの行くような場所でなくてよ」


「……(コクコク)……」


「良いんだよ。人の上に立つ者は、綺麗汚い区別なく全てを見なくてはならない。それは幼いうちからちゃんと教えるべきことだ」


「「「「……」」」」



 実際に酷い場所だった。道の端には、生きてるのか死んでるのかさえわからない人が多く横たわっている。動ける者は全て物乞いだ。建物はあばら家同然。衛生管理などという言葉は無いに等しい。ニーニャはぐっと俺の服を握ている。だが目をそらしてはいない。強い子だ。


 地図の場所に着くと比較的大きなあばら家だ。扉をノックしたら、扉が内側に倒れていった……。なんのコントだ?



「すいません。誰か居ますか? 居ないなら帰りますよ?」


「人の家の扉を壊して、なんて言い草だ」



 奥から声が聞こえてきたが、姿は見えない。あばら家の中はガラクタばかりで人が居るようには見えないんだが。



「プレイヤーのルークっていいます。アイントンさんで合ってますか?」


「合っているな。なんの用だ」


「あなたを買いに来ました」


「ほう。私を買うだと?」


「いくらで売ってくれますか?」


「何をさせたい?」


「兵器開発」


「平和利用ではないのか?」


「科学の発展は戦争と共にある。兵器を作りその技術が平和利用される。これは節理と言っても過言ではないと思う。科学技術の発展に平和だけを掲げるのは、ナンセンスだ。どんな製品開発であろうと、他社との競争で成り立っている」


「医療や薬学の進歩はどう見るつもりだ」


「欲望との戦い。健康で暮したい、長生きしたい。人間のエゴだな。個は平和でも集団は争いだ」


「君は性悪説派なのか?」


「違う。性善説を信じたい現実主義派だ」



 ガラクタの中から人が出てきた。白衣を着たヒューマンだ珍しいな。



「私はこれでも、リアルでは物理学の連続体力学を専行している学生でね。半分研究を兼ねてこのゲームに参加している。ゲームだけにとらわれるわけにはいかないんだが?」


「構いません。研究以外の残り半分を買います。研究費用もそれなりにお出ししますよ」


「ふむ。兵器とはどんなものだ?」


「ドローンの開発が一番。後は現代兵器の魔法転用などですかね」


「君は戦争でもする気か?」


「えぇ、その通りです。既に始まってますがね」



 アイントンさんは考えこんでいる。



「研究費用に研究場所、この世界の知識を補助してくれるなら君に力を貸そう」


「問題ありません。相棒にこの世界屈指の魔道具職人を紹介しますよ」


「魔道具職人か……面白い。で、どうすれば良い?」


「明日の朝、迎えに来ますので準備しておいてください。荷物はこちらで運ぶので必要なものの選別だけお願いします」


「わかった準備しておこう」



 どのルートで死者の都に連れて行こうか?


 昼飯食べながらでも考えよう。取り敢えず、挨拶してあとにした。


 ニーニャがすごく難しい顔をしている。機嫌が悪い時の顔だ。


 アイントンさんと話をしている時、目をキラキラさせしっぽもブンブン振っていた。あのガラクタの中に飛び込みたくてウズウズしていたが、がっちしホールドしていたのだ。可哀そうだがあんな中に飛び込んだら、怪我をしかねない。



「ねぇ、ニーニャ。機嫌直してほしいなぁ」


「にゃ!」



 プイっと横を向いてしまった……。



「お腹空いたろ? ご飯にしようか?」


「賛成でござるにゃ」


「旅の先々で食べる食事は格別」


「この街の自慢の料理は何かしら」


「……(ダラリ)……」



 誰もにゃんこ共には聞いてないぞ、ニーニャとお話してるんだよ。


 ニーニャは少し考えてから、屋台を指差して



「あい!」



 ま、まさかあれをやれと……。



「どこか良いお店に入って、美味しいものを食べようか?」


「にゃ!」



 ブンブン首を振って、イヤイヤ攻撃を開始してきた。これはヤバイ、回避できない。



 負けましたよ……。



 屋台が集まる広場でこじんまりとですが、猫姫集会を開きました。



 王都以外では初めての猫姫集会だったが、流石街道都市だけあって多くの屋台があった。


 街猫は毎度の事ながら多く集まったが、ケットシーは居なかったようだ。


 それでも、あみゅーさんとこの【ワイルドあにまるズ】のプレイヤーも何人か参加し、盛況のうちに幕を閉じた。


 ニーニャと喧嘩したら駄目だと心に刻んだ。


 全戦全敗が確実だ……。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る