147 ルークの実力

 今朝はイノセントハーツの砦の練兵場で朝練をしている。


 何故か、セイさんとニンエイさんも居る。


 今日は組み合わせを変えての訓練だ。


 にゃんこ共とダイチvsセイ、ニンエイ、ユウ。


 リンネ、ムウちゃんvsトラである。俺は別メニューで自主練。


 自主練しながら向こうを観戦。どちらも、良い感じで渡り合っている。


 トッププレイヤーであるセイさんたち相手にしても、ダイチが加わった事により更に防御に厚みがでて善戦している。


 ミケとタマが攻撃に回りユウを集中して攻撃している為、ニンエイさんがユウの助勢に入っている。必然的に攻撃はセイさんだけとなり、腐ってもトッププレイヤーとして張ってきたダイチが意地を見せセイさんの攻撃を防いでいる。チロはその隙にセイさんに魔法攻撃をじわりじわり与えている。勝負がつくのも時間の問題だろう。


 リンネ組は微妙だ。ムウちゃんはトラの攻撃をヒラリ、ハラリと躱しているが、一度も攻撃していない。代わりにリンネが魔法を放ったリ、蹴りを加えている。そんな戦いを見てファル師匠は首を横に振っている……。


 その後、俺が自主練に集中している間に決着が着いたようだ。


 ユウがニンエイさんの前で正座して説教されている。方や、ムウちゃんはファル師匠からこめかみの辺りをグリグリされて悶絶していた。



「悔しいが、強いな」


「猫姫親衛隊ですから、弱かったら困りますよ」


「そうかもしれんが、ここまでとはな」


「えぇーい。我が弟ながら情けない!」


「姉ちゃんだって攻撃躱しきれてなかったろうが!」


「何故、お前は攻撃せぬのだ。ラッシュラビットとして恥ずかしいと思わんか!」


「キュピ~キュ~」


「相手が怖いじゃと……。なんという体たらく。守るべき者に攻撃させるなど、逆に同族として恥ずかしいわ!」


「キュピィ……」



 総評中のようだな。敢えて何も言うまい……。



「満足しましたか?」


「良い訓練だ。だが、まだデルタ殿と立ち合ってもらっていない」


「えっ! にゃんこ共にも勝てないのにデルタとやるんですか!」


「ぐぬおぉー! 貴様と言う奴は! まずはお前からだルーク!」


「な、なに言ってるんですか、無理に決まってるじゃないですか!」


「……やってみろ」


「そうじゃな、良い機会かもしれぬなあ」



 ちょ、ちょっとなに言ってるんだよ。デルタならいざ知らずファル師匠まで!



「ルークよ。立ち合うてみよ。今より一歩前に進むには、おぬしには切っ掛けが必要じゃ」


「フフフ……お許しが出たぞ。ルーク!」



 こ、怖い。セイさん、なんですかそのる気満々の表情は。いつも持ってる武器と違うじゃないですか! なにする気ですか、マジ嫌な予感がするんですけど……。



「言っとくが本気で行くからな、一瞬で終るなんて無しだぜ」


「ルークよ。装備は無しじゃぞ」


「マジっすか!? 掠っただけで終わりそうなんですけど……」



 セイさんが持つのは大小二振りの刀。セイさんは元々小剣の二刀流。こちらが本当の姿って事か。なんか、やばくねぇ?



「……始め」



 セイさんがダッシュ、いや、瞬動、縮地という奴だ。既に目の前、刀を構えている。躱すのは無理だ、なら突っ込む。


 昔、どこかで見た刀本体ではなく柄を狙って攻撃。セイさんは目を見開き拳が当たる前に後方に戻る。


 あそこから回避ってありえな~い。こうなりゃ、こちらも奥の手を出すよ。ストレージから護符を二枚出し脚に貼る。



「神行法!」



 一時的に瞬動術を使えるようになる護符術だ、これでスピードだけなら、セイさんと互角。


 セイさんはピクリとも動かない。待の先に切り替えたかな。ならば仕掛けるのみ!


 札を五枚だし、頭上に投げる。



「天地無窮、乾坤自在!」



 頭上の護符がセーマンを描く。目の前に五芒星が浮き上がり軽く手を添え、セイさんに狙いを定めて氣を放つ。野球ボール大の火の玉がセイさん目掛けて飛んで行く。連撃連打で撃ち込む。時間が経つ毎に護符が燃え尽きる。途中、火から水にしたり石に変えたりなど、五行の属する現象を放っていく。


 セイさんは瞬動で回避しているが、こちらも神行法で強化している。逃がしはしない。徐々にだがダーメジを与えているのがわかる。いまいましそうにたまにアーツを放ってくるが、手数の多い俺の攻撃にイライラしているようだ。


 護符もそろそろ、時間切れだ。切れた瞬間を狙ってくるのは明らか。ならば俺もそこを狙う。


 最後の護符が燃え尽きる……来たっ!。地形操作操作浅く広く!



「なに!?」



 セイさんは足を取られて、態勢を崩す。ちゃんすやぁ! 氣を練る時間はない。神行法で一気に間を詰め掌打!


 しょ、掌打……あれ? 右腕が無い……。セイさんがニヤリと笑っている。や、やられた……フェイクか!


 脇差の方で足を狙ってきた、躱せるか! 皮一枚で躱せたが護符が切られた。反対の足でセイさんを蹴り上げれば、カウンターで入ったのでまともに入りセイさんの体が宙に浮く。



「グハッ!」



 残った左腕で落ちてくるセイさんに合わせ、光属性付加の発頸を喰らわせる。完璧だった……俺は。しかし、セイさんはあの態勢の中でも刀を使い反撃してきた。


 左の拳がセイさんをとらえて吹っ飛ばすが、左腕はズタズタに引き裂かれ、使い物にならなくなった。ヒールを掛けたが無駄だった。



「……それまで」



 デルタから声が掛かる。


 模擬戦が終わり体が元に戻る。セイさんもこちらに歩いて来る。



「……姑息だな」


「姑息じゃろうて、ルークよ……」


「いえ、良い経験になりました。対人戦の怖さを、今一度実感できました。ルークに感謝です」



 ほら、セイさんもそう言ってますよ。そもそも、まともにやり合って勝てるわけないんですから。



「次からは、特殊なスキルは封印じゃな」


「……訓練の意味がわかっていない」



 うさ子じゃないが、納得がいかん。プッイ、フン。



「強いとは思っていたが、本当に強かったな。ルーク」


「お世辞は不要ですよ。何も出しませんよ」


「そういうつもりはない。基本能力も高いが、特殊な技が多彩だな」


「種族がヒューマンなものでね。いろいろやらないと相手にすらされないので、苦肉の策ですよ」


「前から思っていたが、縛りプレイなのか?」


「強制が付きますがね。アバター作成の時、案内人に騙されました」


「「「それはないだろ!」」」



 セイさん、ニンエイさん、ユウの声がハモった。



「実際にここに居ますが?」


「全てにおいて、規格外だな。君は」


「まあ、ルークらしいっちゃ、ルークらしいがな」


「単なる変人だろ」



 可愛い弟子には教育的指導が必要らしい。ユウの頭を氣を纏った拳でグリグリしてやった。


 昇天して倒れている。


 ケチはあざ笑いの的……もとい、口は禍の元と覚えとくがいい!




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