140 オークション開始

 ううっ、支払った額が半端ない……。


 金がない訳ではないが、精神的にくるダメージだ。特にこいつら。



「いやぁ、おごってもらったうえ、腹一杯まで食わせてもらえるとはなぁ。満腹満腹」


「人のお金で食べるご飯は最高にゃ。一時的なステータスUPも付いてるにゃ! ラッキーにゃ!」


「ゲーム内とはいえ、ちょっと味が大味なのが残念だったな」



 ぐぬぬ。良い鯛は明日煮ろ……もとい、言いたい事は明日言え!


 本日主役のニーニャはお立ち台(トラの肩の上)から、集まったな方達に手と愛嬌を振りまいている。三獣士がトラの前で戦隊シリーズばりの決めポーズを取っているのは何故なんだ?


 三獣士は今日からオメガ検収のお揃いのサーコートを羽織っている。青地に銀で縁取りされ、前面は紋章を金色で刺繍されており、エスカッシャン(紋章に書かれている盾)の中央に猫がいてエスカッシャンの両脇を骸骨と獅子が支えている構図だ。裏面にはニーニャの笑顔を可愛くデフォルメした大きなワッペンが縫われている。


 うむ。良い出来だ。オメガやるじゃないか。



「ルークはいつもこんな事をやっているのですか?」



 レイアさんそのジト目やめてくれませんか。これには深い、そう母の愛より深~い理由があるんだよ。



「か、帰ったらご説明致します……」



 さ、さあ。気を取り直してオークション会場に向かおうじゃないか! みなさん時間だぞ。


 オークション会場は、王城の城壁前の広場だ。元々騎士団などが出撃前に整列して、威厳を誇示する場所なので広く作られている。門の前がステージなので、出品される品のセキリティーも高そうだ。


 オークションに参加するには事前に申請が必要でお金が掛かる。通常はステージ前に並んだ席に座るか、テーブル付きの金持ち用のブースも用意されている。勿論、俺達は手配している。このオークションに参加したのも、ゾディアックに対する嫌がらせの一環だからな。


 特別ブースに入りオークションが始まるのを待つ。


 バリバリ、ボリボリ、この場に似つかわしくない音と声がすぐ傍から聞こえてくるのは気のせいか?



「薄味だにゃ」


「このくらいがお茶には合う。ズズゥー」


「ちょっと硬すぎではなくて?」


「バリッバリッ……」



 にゃんこ共がくじ引きで当てた、王都お土産セットの王都せんべいを食べていた……。



「さっき飯食ったばかりだろ!」


「ご飯とお菓子は別腹でござるにゃ」


「ルーク殿も如何かな」


「名物に旨いもの無しですわ」


「バリッバリッ……ホイッ」



 トラが一枚せんべいを寄こしてきた。かっ、固ぁ! なんだこりゃ。小麦粉に塩を入れこれでもかという程、堅く焼いたものだ。不味い! まさにチロの言う名物に旨いもの無しだ。



「お前らこんなのよく食えるな……」


「そうかにゃ? これはこれで味があって良いと思うにゃけど」


「緑茶と共に頂くとこれがまた癖に……ズズゥー」


「味は二の次、王都の名物に意義がありますわ」


「バリッバリッ……」



 お土産セットの他の中身はペナントに提灯、王城の置物……。昭和の修学旅行のお土産か!


 こんな馬鹿なやり取りをにゃんこ共としていたせいで、開会の挨拶を見逃してしまった。どうやら国王が声だけだが開会の宣言をしたそうだ。ふ~ん。


 司会者がオークションの簡単な説明をおこない、オークションが始まった。




「エントリーナンバー1番。ドワーフの名工とうたわれた。ガングが鍛えし一振り。最初の品に相応しい名剣をとくとご覧あれ!」



 会場からどよめきが上がる。自分は剣を使わないからパ~ス。


 この後も剣や鎧、まだプレイヤーが作る事ができないレベルの品が出てくる。いまいちぱっとしない。



「エントリーナンバー25番。これは凄いぞ! 迷宮都市ツヴァイスの迷宮より持ち出された魔剣だ! 地下40階のボス討伐時のドロップ品。ハンターを引退する方が出品したようです。曲刀と言う事でいささか技術が必要ですが、付与されているのは炎属性! 間違えてはいけません、火属性ではありませんからね。炎属性です! それでは金貨200枚から開始です」



 やっとこそれらしい品が出てきた。プレイヤーがこぞって競売に参加している。魔剣はまだ珍しいからな。確かダイチが持っていなかったかな?


 最終的にプレイヤーが金貨1500枚で落札した。確かカイエンさんのパーティーの人だと思う。元々刀使いだから支障がないんだろうな。


 その後は、アンティークものやアクセサリーが登場したが、見た限りプレイヤーは誰も参加しなかった。クールだね……。


 次はテイムモンスターのようだ。ラヴィーンタイガー亜種、スカイバイパー亜種と言ったレアモンスターが出てきたが食指が動くモンスターがいない。


 俺以外のプレイヤーは完全にモフモフ派と実益派に二極化していた。その両方を兼ね備えるモンスターは人気だった。くまとかクマとかベアーと言った熊モンスターだ。


 そしてお待ちかね、レアモンスターの卵の出品が始まる。どうやら二つあるらしい。ひとつはドラゴン系の卵、もうひとつはランダムと言うか不明らしい。不明なのにレアなのはわかるのだな……。


 ドラゴンの卵の競売が始まると、一気に値段が吊り上がる。ドラゴンを従えるのはやはり浪漫だ。種類によってはドラゴンに乗って空を飛ぶ事も可能だからな。欲しいがうちにはデンちゃんが居る。あんなデカいのが二頭も居ると邪魔だよな。


 などと考えていたら落札されていた……。更紗さんの所の男性プレイヤーだ。何度か話をした事がある。卵から孵ったら見せてもらおう。


 次は謎の卵か……。そういえば、うちの謎の卵から生まれた奴はどこ行った? 最近見て無いな。余りにもフリーダム過ぎて把握できん。


 どうするあんなのが二匹になったら……ウザイな。ペン太は未だに幼生体なので、無駄飯食らいのマスコット的立ち位置。そこまでして欲しいか? しかし、まりゅりゅのカーちゃんは優秀だしなぁ。


 などと考えていたら落札終了の看板が……。競り勝ったのは更紗さんだ。


 何やってんだ俺……。


 結局、ここまで何も落札してない。


 これからの競売品に期待しよう。



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