138 賢者とオールは知り合い?

 ドン、ドーンっと遠くでお祭り開始の花火が上がった。


 正式にはルグージュ攻防戦祝勝会と言うそうだ。隣の露店の店主にもらったビラに書いてあった。知らなかった……と言うより、お前らなにもしてないどころか、迷惑をかけて足を引っ張っただけだろうが……。


 露店オープン前に降魔神殿に戻り、さくらとニーニャを連れて来る。レイアはオークションまでは孤児院の方に居るそうなので、三獣士に護衛を頼んだ。孤児院の子供達もにゃんこ共に喜ぶだろう。


 露店があるのは通常の露店街ではなく、王都の中央に十字に走るメインストリートの西側が使われている。


 数多くの露店が並び他の国から来た行商人なども多くみられ、異国情緒があふれている。


 うちの店と言えば店の前でリンネとムウちゃん、何故かメイド隊が踊っている。ニーニャのしっぽがブンブンいってるので、間もなく参戦するだろう。


 客足はまだ始まったばかりなので幾人かの男性プレイヤーが、メイドさんLOVE入りクッキーを買っていってくれたくらいだ。


 お隣は雑貨屋とアクセサリー屋なので商品は被らないから問題はない。逆に謎のダンス集団のお陰で人が集まりだしているので、喜んでいるくらいだ。



「珍しいものを売ってるじゃないかい」


「お兄さん、お久しぶりです~」



 賢者殿と魔女っ娘だ。珍しい組み合わせだな。



「ふたりはどう言うご関係?」


「あたしのひ孫だよ」


「です~」



 ドルグさんが甥で魔女っ娘がひ孫って、年齢おかしいだろ!



「そ、そうなんだ。ばあさんに似なくてよか……」



 ヒューンっと頬を何かが横切る。ギリギリ躱せたぜ……。


 足元を見ると黒猫が爪を出した状態で毛を逆立たせている。こ、こいつか。



「ミャッ!」


「ニャ、ニャオ~ン」



 さくらが黒猫に怒ったようだ。黒猫は敵わないと見て賢者殿の元に逃げ帰った。



「飼い猫の躾くらいしとけよ。ばあさん」


「ふん。口の減らない小僧じゃ。今日の所はその子猫に免じて許してやるよ」



 何を許されると言うのだ。どう見てもおかしいだろうよ。そんな緊迫した場を打ち砕くが如く、魔女っ娘は目を輝かせて陳列棚を見つめている。



「このケットシーのぬいぐるみ、可愛いです~」


「大事にしてくれるなら、好きなのひとつあげるよ。お世話になってるからね」


「良いんですか!」



 魔女っ娘はいろいろあるぬいぐるみを物色し始めた。



「悪いね。売り上げは良いのかい」


「ここの利益は孤児院の運営費用に当てられる。手伝ってくれているのもほとんどボランティアだ」


「噂の冒険者ギルドだね」


「あぁ。多くの善意で成り立っている組織なんでな」


「そう言われると、何か買わないといけないね。その二番目のバックを見せておくれ」



 容量拡張バックを渡した。賢者殿はブツブツ言いながらバックを凝視している。



「これを作ったのは小僧かい」


「知人と共同で作った。俺が拡張を施して知人が固定するって感じでな」


「魔法(時空)か……こんな使い方があったとは、いや、凄いのは魔道具職人だね。これ程の腕前は見た事がないね。職人の名前は?」


「オール」


「オール……ね。まさかねぇ……ある訳ないじゃないか。あたしも歳だね。これをもらうよ」



 なんとなく、賢者のばあさんが考えたことがわかった。おそらく、あながち間違っていないと思われる。賢者のばあさんが勇者パーティーにいた時、オールは魔王陣営に居た。その当時の拳聖とも会ってるのだ、賢者のばあさんと面識があってもおかしくはない。会ったら会ったで血を血で洗う戦いになりそうで怖いな。知らぬ存ぜぬを通そう。そうしよう。



「毎度あり。金貨十枚だ。ここを握って魔力を流してくれ」


「こうかい?」


「それで十分。これでバックは、ばあさん専用になった。使う人を増やす時はさっきの場所を握って魔力を流した後、増やす人に魔力を流してもらってくれ。五人まで増やせる。逆に自分専用に戻すには十秒程魔力を流し続ければいい。詳しくは取扱説明書を読んでくれ。取説にも書いてあるが、アフターケアもおこなっているので、何かあれば孤児院併設の冒険者ギルドに持って来て欲しい」


「至れり尽くせりだね。これで元が取れるのかい?」


「何度も言うが、売り上げは全て孤児院の運営費になる。金儲けの為ではない」


「転売する者も出て来るんじゃないかい?」


「その為の認証だ。最初の認証は必ず係の者の前でおこなってもらう。嫌なら買うなだ」


「益々、恨まれるよ。奴らに」



 賢者のばあさんは目線を一瞬遠くに走らせた。ゾディアックの間者が居るようだ。



「何を今さら。元々、この認証も奴らへの嫌がらせだからな」


「あんた、悪魔かい……」


「これに決めたです~」



 魔女っ娘が選んだのはスコティッシュフォールドのケットシーぬいぐるみだった。耳がペタンとなって可愛い容姿だ。



「大事にしてね」


「はいです~」


「しかし、小僧の所はおかしな連中ばかりだねぇ」



 そいって賢者のばあさん達は帰って行った。


 何やら煩いなと思っていたら、いつの間にか流れの音楽隊が加わっている。


 ムウちゃんはその中心んで、土曜の夜は熱狂して、ジョントラぶったばりのソウルダンスを踊っている。どこで覚えた……。ラッシュラビット族はどこか不思議。うさ子のリアクションといい謎が多いな。


 ニーニャもお尻をフリフリさせながら、指を差しながら交互に手を上下させて踊っている。か、可愛いすぎる。ニーニャにこんな特技があったなんて驚きだ。


 しかし、何故、俺が売り子をしてるんだ。


 人は大いに集まっている。集まっているが、客になっていない。


 君達は単なるパフォーマンス集団に成り下がっている。おひねりまで飛んでいるじゃないか。本来の目的忘れてないか? 朝油断の夕ひがみ……もとい、朝油断の夕かがみになっちゃ駄目だぞ。


 メイド隊、仕事しようよ……。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る