137 ムウちゃん、うさ子の居ぬ間にアイドルの座を狙う

 降魔神殿に戻ると、オールが待っていた。



あるじ殿! 待ってましたのう。知らぬ間に居なくなって……ブツブツ」



 知るか! お前が勝手に脳内探検に出かけたからだろ!



「それで?」


「おぉー。そうでしたのう。あるじ殿の仰ったアドミン……なんとかで、制御するように構築式を変える事ができましたのう。これは、これまでにはない考え方で、いろいろ応用ができそうですのう」



 いや、アドミンで合ってるよ。オールさん。こうやって略語が生まれるんだな。目からビームが出た……もとい、目から鱗が落ちたよ。



「流石、オール。やれば出来る子だねぇ」


「いやいや、それ程でもないのう~」


「じゃあ、明日まで残りの修正、ヨロ~」


魔王おにじゃな……」



 頑張れオール、君には多くの貸しがある。そのひとつが消えると思えばなんの事もないだろう。寧ろ喜ぶべきだ。


 部屋に戻りメイド隊と明日の露店の打ち合わせをおこなっていたら、さくらとレイアが帰って来た。



「お帰り」


「只今、戻りました」


「ミャー」



 もうしばらくすると、ファル師匠も帰って来た。まさか今まで訓練していたんだろうか。死ぬなよ。弟子達……。


 さくら達に明日は王都でオークションだから、予定は入れないように言ってから夕食にする。ペン太、帰って来てねぇな。まあいっか。


 オークション用の資金の催促にオメガの所に行くと、オーブ系は是が非でも落札するように言われた。拡張オーブに属性オーブ、特に属性オーブは迷宮の特殊機能拡張に使えるらしく、オメガ自身が使ってみたいらしい。


 イノセントハーツの砦に闇オーブを組み込む事により日中でも、アンデットが活動出来るようになる効果が付いた。他の属性オーブでも何らかの効果が付くと思われる。


 確かに欲しいな。


 しかし、オメガはお金の入った袋をどんどん渡してくる。中を確認すると金貨ではなく、白金貨だった。うちの総資産ってどんだけあるのよ……。真実を聞くのが怖くて聞けない小心者で悪かったな。


 取り敢えず、落ち着く為にも一旦ログアウトする。


 再度、ログインしたが今日は朝練はお休みだ。やる事がある。


 みんなに挨拶して朝食を取り、メイド隊選抜部隊を連れて王都に向かった。


 俺達の露店の場所はポッカリ空いている。どうやら他の方達は夜のうちからセッティングしていたようだ。


 メイド隊と運動会などで使うテントを組み立て、棚を置きカウンターも用意する。商品も陳列し準備に掛かった時間は一時間弱。周りの店主達も集まりだしている。


 今日、この露店で売るのは、容量拡張バック、ケットシーぬいぐるみ、メイドさんLOVE入りクッキーだ。ぬいぐるみとクッキーは、各迷宮勤めのメイドドール作製の手作りだ。


 周りの店主に、メイドさんLOVE入りクッキーを持って挨拶周りをしてきた。挨拶は大事だからな。


 そろそろこの露店の用心棒を連れて来よう。午後からはオークションに行くのでメイド隊だけだと不安だからな。馬鹿はどこにでもいる。


 イノセントハーツの砦に行き、ダイチと弟子ふたりと一匹を連れてきた。


 ダイチはメイドと一緒に居られるぞって言ったら、即決でOKが出た。リンネとユウはバイト代を出す約束をしている。ムウちゃんは野菜おばさんの野菜で釣った。ムウちゃんにすれば、うさ子が居ないので供給源を断たれている状態だ。一も二もなく縋りついてきた。



「良いか、ムウちゃん。うさ子が居ない今こそがチャンスだ!」


「キュピ?」


「ラッシュラビット族人気度ランキング一位を目指すんだ!」


「キュピ~?」


「師匠。それを目指すと何か良い事でもあるんですか?」


「リンネ君、君はムウちゃんと一緒に居るようになって、他人から親切にされた回数が増えたり、食堂でおまけをしてもらったり、屋台のご主人からタダでご馳走になったりした経験はないかな?」


「……あります」


「まさかと思うが、自分が他の人より少しばかり可愛いからと言って、自分のお陰だなんてうぬぼれてはいないだろうね?」


「そんな事思ってません!」


「なら理由はなんだね? リンネ君」


「……ムウちゃんのお陰です」


「キュピッ!」



 そうなのだ、恩恵を受けているのだ。うさ子の場合でも多くの恩恵を受けさせてもらっていた。被害も同じくらい受けたが……。まあ、それは俺が男だから仕方のない事なのかも知れないが、リンネは女の子だから俺より更に恩恵を受ける事だろう。



「わかったかね。今現在確認できるラッシュラビットは、うさ子、ファル師匠とムウちゃんしか居ないのだよ。ファル師匠は論外として、うさ子が武者修行に出ている今、ムウちゃんしかいない。これを利用しない手はないだろう?」


「キュピ?」


「ムウちゃんは理解できてないようだな。良いか、ムウちゃんの人気が上がれば、リンネが恩恵を受ける。リンネが恩恵を受ければムウちゃんに感謝する。感謝するから美味しい野菜を買ってもらえる。ムウちゃんは美味しい野菜が食べ放題。ウハウハだな」


「キュピッピッ!」


「でもどうすれば……」


「不動の一位、うさ子の強みは神経の図太さだ。何があっても動じない、抱きつかれようが、耳を引っ張られようが、全く気にしない。そんな状況の中でさえ、我関せずとばかりに野菜を食べ続ける根性。それをムウちゃんに求めるのは酷だ、持って生まれた性格と言うものがあるしな」


「じゃあ、ムウちゃんはどうすれば良いのですか?」


「キュピ~?」


「ムウちゃんにあって、うさ子に無いもの、それは愛嬌だ! 愛嬌を振りまきながら踊ってでもみろ間違いなくアイドルの道を駆け上がる事、確実だ!」


「師匠の慧眼、恐れ入りました。ムウちゃん! ふたりで歌って踊れるアイドルの星を目指すのよ!」


「キュピッ!」


「お前ら、馬鹿だろ……」



 馬鹿弟子ユウのくせに馬鹿とはなんだ馬鹿とは、本人達がやる気になってるんだ、水を差すような事言うんじゃない。


 売り上げ向上の為の客引きパンダなんだからな、気持ち良くやって欲しいんだよ!




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