135 本人知らぬ間にランツェ、漢になる

 ケットシー物産展は盛況を持って終了した。


 今は砦の大会議室に各クランの代表者が集まっている。


 それでは始めましょうかね。ここで説得に失敗すれば、プレイヤーはさくらの敵になってしまう。


 ひなさんの顔を見て頷く。



「それでは本日お集まり頂いた、謁見式についての会議をおこないます。進行は発起人であるルークに任せます」


「どうもルークです。少しだけ昔話をしましょうか」



 そう言って、神代と言う時代に神と神が戦い、敗れた神が邪神と呼ばれるようになった事。勝った方の神の代行者は天界に戻ったが、ゾディアックを含めた幾つかの神の代行者の眷属が地上に残り、その中でゾディアックが調停者と名乗った事。自由になる国が欲しくなり元からあった国々を滅ぼし、この国を創った事を話して聞かせた。


「ランツェと言う男が居ます。この国に滅ぼされた国の騎士団長だった男です。彼はゾディアックに嵌められ、妻や子供など家族全てを、剣を捧げた祖国により処刑されます。彼はその後友人の力によりアンデットとして蘇りますが、彼は友人と過ごしながらも世界の情勢やゾディアックについての情報集め、12の魔王へと至ります。彼はこのままだと善良な種族が、ゾディアックや魔王に利用され悲劇に合うと危惧し、ならば自分がそんな弱い立場の者達を助けようと立ちあがりました。魔王を名乗ってです……」


「良い話だった」


「ランツェは漢だな」


「なんで魔王を名乗ったんだ?」



 他にも色々話が上がっている。



「さてここで、私はある方から謁見式の日におこなわれる、ある事を聞きました」


「プレイヤーとの謁見だけじゃないのか?」


「謁見ってより単なる取り込みだろう」


「良いように利用するつもりだけだろ。王様や貴族なんて」



 その通り。ですが、相手も馬鹿じゃあない。二重、三重に手を打っているのだから。



「謁見式の日に魔王討伐を掲げるそうです」


「なんだよそれ」


「俺達を利用する気、ありありじゃねかよ」


「成程、我々を断る事ができない方に誘導する気か……」



 流石、セイさん。その通りです。



「でも魔王って、そのランツェって奴だろう」


「漢、ランツェに剣など向けられんだろう」



 そうでしょう。そうでしょう。もっと持ち上げてやってください。


 しばらくランツェの漢気談義に花が咲いた。



「実は、私、ランツェに会って来ました」


「「「な~に~!」」」



 会場が静まり返える。



「私はケットシーと故意にしてる経緯から、会う事ができたんです。マジで」


「成程、猫姫つながりか」


「そう言えばニーニャちゃんの傍に、いつもケットシーが居たにゃ」


「謎の男ルーク」


「ケットシー、うちにも来ねぇかなぁ」



 なんだ? 謎の男って、七不思議以外にもなんかあるのか。



「……で、何を話してきた?」



 セイさん。そんな怖い目で見ちゃ嫌だよ。



「北方の小国群が魔王の軍門に下っているそうです」


「魔王とは、12の魔王の事か?」


「隣国の話だぜ。あり得ないだろう」


「北方側ってどこの攻略組が行ってるんだ?」


「北はまだ攻略が進んでないからなぁ」


「竜人族の国があるとかで、イベント待ちって噂だ」



 やはり攻略は進んでないのか……。


 そこで、昨日ケットシーの長老達に聞かせた話にランツェを組み込んで話しをした。



「我々は嚙ませ犬か……」


「自分の手を汚す気がないな」


「利用するだけ利用して捨てる気だな」


「自称魔王討伐にも絡んでくるんじゃないのか? 12の魔王が……」


「南と北からの挟み撃ちか……」



 確かにそうなれば、紅イモ紫イモふかす……もとい、後へも先へも行かぬ状態になりかねない。そして魔王が討たれれば……。



「自称魔王を倒した後は俺達か……」


「汚いな……」



 ここがこの世界の人達との差だな、愚民政策がおこなわれているこの国の国民や、そう言う知識さえ持たない善良なだけの種族では、こうもあっさり理解できない。教育と言うものが如何に大事かと言う事がわかるな。


 民主主義やシビリアンコントロールと言った所で、教育を受けていない国民にはさっぱりだろう。言った所でこの国によるプロパガンダによって、無知な国民が押さえ付けられるだけだ。そう言う意味では日本が民主主義国家になったのは奇跡だな。


 話がそれた……。



「わかって頂けたと思います。このまま謁見式に望むとどうなるか」


「どうすれば良いと思う?」


「それはみなさんで考えてください。私は既にゾディアックの敵ですから、今回の魔王討伐戦は魔王側に加勢する予定です」


「本気か?」



 ニヤリとだけしといた。


 ひなさんに向かって頷いた。



「それでは一旦休憩にしますね。後ろにお菓子と飲み物を用意してますので、ご自由にしてください」



 セイさんたちに更紗さん、あみゅーさんが集まって来る。



「どうしてお前だけ、そう言う情報を得るんだよ!」


「簡単です。攻略関係全くしてないからです」


「「「……」」」


「確かにね。ルークはさくらちゃんとニーニャちゃん、レイアさんとイチャイチャしてるだけよね」



 ひなさん。なんですかその言い方。何か文句でもあるの? 攻略なんかより大事な事なんだぞ!



「なあ、今度一緒に行動させてくれないか」


「嫌ですよ。男と一緒なんて楽しくもなんとも無い」


「お、お前なぁー!」


「女性なら良いのか?」


「水着持参でお願いします。プライベートビーチ持ってるので、ニンエイさんなら喜んでお連れします。ちなみに弟子の特権でユウとリンネは連れて行ってます」


「あいつら運が良いな……」


「私達も行ったけど良い所だったわよ」


「ひなさん達も女性のうちなので」


「女性のうちてどう言う意味かしら?」


「ご想像にお任せします。そう言えばダイチも連れてったなバイトとして」


「ダイチの野郎……抜け駆けしたな」


「海、うみー! 行きたいにゃ!」


「しかし、プライベートビーチとは。そう言えばスキル屋で【釣り】を買ってたね……。他に買うものはなかったのかい?」



 一度ご招待した方が良いかな……恨まれそうだ。




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