132 猫にマタタビと言うけれど、鮭も危険だ……と知る

 長老達は鮭とばをしゃぶりながらも、俺が話し出すのを待っている。



「ここから話す事は、私の憶測です。証拠はありません」



 ひとりのケットシーが長に近寄り耳元で何かを喋っている。


 それを聞いた長は、この世の終わりとでも言うような表情に変わった。


 何か起きたのだろうか? 長は他の長老達に何か話すと長老達も同じ表情になり、中にはテーブルに突っ伏す者までいる。いったい、何が起きている?


 北の魔王が兵でも出したか?



「何か起きたのですか? 長殿」


「た、大変な事になってしまった……。さ、さけ……」


「お酒がどうかしましたか?」


「さ、鮭とばが、もうないのだよ! まだ一切れしか食べとらんのに……」


「……」



 こ、こいつら……。歳、格好が変わっても、やはりケットシー族だ。三獣士と本質は何も変わらん。よく今まで生き残ってこれたな、ほんと尊敬するよ。


 鮭とばはもうないので、お土産のひとつの新巻鮭を、また大量に出して渡した。


 にゃんこ共は大騒ぎだ、にゃんこ達にして見れば酒池肉林だ。俺はさして感動しないけどな。



「オッホン。お客人の前で大変失礼しました。それでどこまで話しましたでしょうか?」



 どこまで話しましたでしょうかじゃねぇよ。で、どこまででしたっけ?



「「……」」



 今話しをしても、鮭が焼ければまた忘れる気がする。トサカ頭ならぬ、シャケ頭ばかりだ。



「取り敢えず、食べてからにしませんか?」


「よ、よろしいですかな?」



 長殿、涎が出てるぞ。威厳もなにも全くない顔になっている。


 しばらくすると、荒巻鮭が焼けて来たようなので、長老達の席にお猪口をおいて純米酒を注いで回る。


 濃い味の荒巻鮭にはフルティーな吟醸酒より、多少パンチのある純米酒の方が合うと思うからだ。



「飲みやすいお酒ですが、酒精が強いので一気に飲まないでください」



 長老達は恐る恐る、チロチロとお猪口から飲んでいる。



!」



 美味い! って周りが騒いでいる。どっちだ? 酒の旨さなのか? それともダジャレか?


 ぐぬぬ、現役OYAJIGG使いの血が騒ぐがここは我慢だ。鮭の身好きな酒飲み猫さん。酒の銘柄注文し、ついでに鮭も注文するから、酒注いでってー!


 あぁー。スッキリした。



「では、そろそろ話を戻します」



 長老達は、恨めしそうにこちらを見ながら、お猪口ひっくり返して舐めている。


 無視だな。ここで飲ませたら、猫が大虎になりかねない。



「ここからの話は私の憶測になり確証はありませんが、かなり確実に近いと思われます」


「先程の公表しないのは……ですな?」


「ゾディアックは最初から12の魔王の存在を知っていた。何故ならその魔王と取引をしているから。北方が魔王の支配下なってるにもかかわらず、交易は続いている。交易が止まればどちらも困るからだ。おそらく、不可侵条約のようなものを結んでいると思われます。お互いに手を出さないとね」


「それと魔王討伐が関係あるのですかな?」


「国民の目をそらす為でしょう。交易は続いている為、少なからず噂などは入って来るはずです。ゾディアックが情報規制をしているとは言え、噂は漏れますから。そこで自称魔王討伐を掲げれば、北方の小さな噂を身近な大きな噂で上書きできる、と考えたと思われます」


「確かに筋は通りますな。しかし、それと我々になんの関係があるのでしょうかな? 確かに今回我々は猫姫様を頼りましたが、ゾディアックと敵対する気はありませんですな」


「先程も言いましたが、魔王討伐の檄が飛ぶでしょう。勿論、あなた達にもです。ゾディアックは利用する気満々ですよ。できるだけ自分達の手は汚さず、騙されやすい善良な種族を利用しようとね。多くの犠牲を払うのはそんな善良な種族ばかり。そして美味しい所はゾディアックが……」


「そ、そんな事がある訳なぃ……」



 悲しい事だろうが、ゾディアックから見れば色柄が豹柄……もとい、家柄より芋茎。如何に美味しい所を持っていくかだろう。自分達は戦わず、口八丁で善良な種族を戦わせておきながら、実利はゾディアックだけが得る。




「こんな話を知っていますか? 勇者が魔王と相打ちになったのはご存知ですよね?」


「当たり前です。勇者様の尊い犠牲があってこそ、魔王を倒せたのですから」


「心の清い方達はそう思う事でしょう。しかし、ゾディアックは違います。魔王を倒した後に勇者が生き残っていると不都合が生じる為、あの場で魔王と一緒に死んでもらう必要があったのです。なので、敢えて相打ちになるように仕向けたのですよ」


「……不都合とは何かね? それに何故その事を知っているのかね?」


「勇者はゾディアックの出だったようですが、魔王を倒した後も生き残った場合、勇者に求心力が集まることは目に見えていました。裏でこの国を支配しているゾディアック上層部にとっては、獅子身中の虫でしかない。手なずけられれば良いが、それができなかった場合、自分達の既得権益が覆される状況になりかねないと考えたのでしょうね。なら、殺しておいた方が安全だと。この情報元は勇者に力を貸した方、とだけ言っておきます」


「勇者様の時代に生きていた方など……」


「長寿の種族は少なからず居ます。王都にも勇者と共に戦った賢者殿もご存命。余談ですが、その賢者殿もゾディアック嫌いですけどね」


「賢者殿ですか……そのような方が王都に居たとは」


「使い魔が猫みたいですよ」


「なんと! 我々の眷属ではないですか。理由はわかりました。我々を思っての事だという事も。時間がないと言うのは何故でしょうか?」


「事はケットシー族だけの事だけではありません。他の善良な種族にもこの事を知らせなければ悲劇がおきます。新参者の私達が声を上げるより、ケットシー族に他の善良な種族に声を掛けて頂ければ信じて頂けると思います。そこに、猫姫の名も連なれば尚の事」


「声を掛けて如何するおつもりですかな?」


「個々の種族で対応すれば下手をすれば魔王に加担したとして、討伐されかねません。善良な種族同士で同盟関係を結ぶ事が最善かと。勿論、我々もご助力します」


「ゾディアックと戦えという事ですかな?」


「そこはみなさんにお任せします。まずは利用されない事が大切。我々は既にゾディアックと対立していますから戦いますがね。我々が戦っている間にゾディアックの事を調べれば良いでしょう。そして見極めてください。我々とゾディアック、どちらがこの世界にとって必要悪であるかを」



 決して自分達が正義だとは言わない。さくらが魔王なのは変えられないのだから。だけど、全ての敵ではない事は理解して欲しい。


 我々にだって愛する者達が居て、守りたい者達も居る事だけは知って欲しい。




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