133 ケットシーはやっぱり猫だった……
話す事は話した。後はケットシー族の中で話あってもらうしかない。
「こちらからも聞きたい事があるのですが、よろしいですか?」
「何でしょうかな?」
「ケットシー程の情報収集能力があって、何故北方の情報を持っていないのですか?」
「それはですね。北に行く者が居ないからです」
「ん? 仰る意味がよくわからないのですが」
「情報は旅に出た者が持ち帰ります。強制ではありません。北は寒いので行く者も少ないうえ、興味のある事しか調べません。ですので情報が無いのですよ」
ははは……やっぱり猫だ。なんて勿体無い。それだけの能力を持っているのに使わないなんて……やっぱり猫だからなんだな。我が道を征くってとこは。でも納得した。
次は損害賠償についてだな。
「今回、ケットシー族に我々の身内がご迷惑をお掛けした補填をしたいと思いますが、ご希望はありますか?」
「猫姫様が補填してくださると言うのですか?」
「ランツェは我々の部下の友人、今は我々に帰順しています。我々が補填すべきでしょう」
「ですが……」
「構いません。補填として受け取れないなら、猫姫との友好の品として受け取ってください」
「どうしてそこまでしてくれるのですかな?」
「猫姫とさくらがあなた達を助けたいと思ってるからです。私としてはゾディアックが嫌いなので、犠牲になる者を少なくしたいと思っています」
嘘は行ってない。でも本音はこんな愛くるしい者達と戦いたくない、と言う理由の方が大きい。彼等の前では言えないけどな。
「わかりました。猫姫様は我らの恩人。何があっても敵になる事はないでしょう。この事は子孫達にも代々伝えていくようにします」
この種族は義理堅そうだし、雨晴れて傘を忘る……もとい、雨晴れて笠を忘る。あれ? 合ってる? ……まあ、味方になるかは別として、敵に回らないと約束してくれただけでも良しとしよう。
「本当の所を言えば、猫姫様の恩にすがらして頂けなければ、この冬を越す食糧が足りません。もうすぐこの地に冬が来ます。狩場が使えなかった為にこの冬を越すだけの、食糧を確保できませんでした」
長のクロジさんと細かい打ち合わせをおこなった。食糧が多くを占め、後は布等を欲しがった。
そう言えば、イノセントハーツの事は伝わっているのだろうか?
「ここから南の元国境の砦だった場所の話は聞いていますか?」
「幾人の旅から帰ってきた者から聞いております。宿を提供してくださるとか」
「その砦の代表が友人でして、あなた方の話をしたところ協力したいと言ってます。他の街に居る友人達も協力を申し出ています。門などにトラに書いてもらった紙がある場所は、信用の出来る者が居る場所なので頼ってください」
「何から何まで痛み入ります。我々はどう報いればよろしいですかな?」
「仲良くしてくだい。まずはそれからです」
「ですがそれだけでは……」
「そうですねぇ。余ってる素材等を売ってくれるとか、狩りに一緒に行ってくれるとか、或いはできる依頼をこなしてくれるとかなど、如何ですか。勿論、報酬は出しますよ。欲しいものがあれば彼等に言えば調達もします」
「なんと、我々と取引して頂けるのですかな?」
「買い取り額は変動しますが、通常の取引でよければ問題なく」
「人族の品も買えるのでしょうかな?」
「取り寄せになると思いますが、問題ありません」
「それはありがたい。昔は人族の商人が来てくれたものですが、今は全く訪れませんので」
「こちらの街道より、より良い街道が西に整備されたせいかも知れませんね」
聞けば相当な量の素材が保管されているらしい。たいていはお土産として世話になった方達に持っていくそうだが、量が量だけに減らないどころか増える一方だそうだ。
なので、俺が一度預かり売ってくると言ったら喜んでくれた。
その後、重要な話も終わった事から、長や長老達と酒を飲み交わした。長老達が思った以上に酒に強く驚いた。飲み方はチロチロなんだけどな。
もうすぐ陽が暮れ始める時間。そろそろ降魔神殿に帰る事を伝えて、素材のある保管庫に案内してもらった。現物を見て余りの多さに売ってくると言った事を後悔した。さくらに収納をお願いする。俺のストレージには入り切らないのは明白だったからだ。
帰り際、ニーニャとケットシーの子供達が、ヒシッと抱き合う姿は微笑ましかった。明日も遊びに来たい? とニーニャに聞くとしっぽをブンブン振って頷いたので、長に来ても良いですかと尋ねれば。猫姫様なら大歓迎ですと言ってくれた。良かったねニーニャ。
降魔神殿にみんなを送った後、イノセントハーツの砦に向かう。
「あら、ルークどうしたの?」
「ひなさん、明日できるだけ他のクランの関係者を呼んで頂けませんか?」
「どうしたの急に」
「ダゴン様から面倒な情報を頂きました。みんなに知らせた方が良い情報です」
「どんな情報かしら?」
「魔王討伐の話です。謁見式の日に持ち出すつもりのようです」
「私達を利用する気なのかしら?」
「でしょうね。情報共有と口裏合わせをしといた方が良いでしょう。戦う相手は我々ですから。それからケットシー提供の素材の買い取りも伝えてください」
「珍しいものなの?」
「詳しくはないのでなんとも言えませんが、未見のものも幾つかありました」
「呼ぶのは良いけど、量は大丈夫?」
「預かったのを後悔してるくらいありますよ」
「そ、そう。なら安心ね。私達も買い取りして良いのよね?」
「周りから不満がでないようにお願いします。明日の朝一で持って来ますので」
「了解。こちらも準備しておくわ」
「よろしくお願いします」
挨拶も早々にルグージュに飛んだ。
まだ居るだろうか野菜おばさん。
丁度、店じまいに取り掛かった時のようだ。
「おや? あんたかいこんな時間にどうしたんだい?」
「野菜を売って欲しくて、残ってますか?」
「売れ残りでよければ持っていくかい?」
「ありがとうございます」
「こないだうさ子ちゃんがひとりで来てね。珍しくあたしらに甘えていったんだよ。何かあったのかい?」
「そうですか。うさ子が来たんですね……。うさ子は師匠の言いつけで武者修行に出ました。当分は帰って来れないでしょう」
「そうだったのかい……。寂しくなるねぇ」
「帰ってこない訳ではありませんので、無事に帰って来るように思っていてくれれば、うさ子も幸せだと思います」
「当たり前だよ。うさ子ちゃんは私らの娘同然、何事もなく帰ってくるのが一番だよ」
売れ残りという以上に大量の野菜を受け取った……。
お金を支払い帰ろうとした時、野菜おばさんが紙束を渡してきた。くじ引き券10枚だ。前回のうさ子の分も頂けるそうだ。ラッキー!
でも、俺ってリアルが皆無だからなぁ……。
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