131 ルーク様御一行、ケットシーの村に行く
みんなの準備が整ったのでケットシーの里に転移魔法で飛んだ。
里に着くとこちらに気付いたケットシーが里の中央に走って行くのが見え、しばらくすると数人のケットシーが歩いて来た。
「お待ちしておりました。猫姫様。私はこの里の
「私は猫姫ニーニャの代理人、ルークと申します。いきなりの訪問をお許しくださり、感謝しています」
「立ち話もなんですから、向こうに席をご用意しています。どうぞそちらへ」
流石に長だけあって、落ち着いたそれでいて威厳のある方だ。
長たちについて行くと里の中央に、酒宴の席が用意されていた。席は円卓に配置されており、北側が主賓席のようだ。三獣士は円卓に座ろうとしたが、大人のケットシーに首根っこを抑えられて外側の別の席に座らせられている。
座って少し待つと、ご年配と思われるケットシーが席に着いた。正直、顔では判断し難い確かにお年を召したとわかる方もいれば、見た目で判断できないが纏っている雰囲気が老成しているのがわかる方も居る。
「お待たせ致しました。皆、年を召した長老達ゆえお待たせしたこと、お許しください」
「我々の方こそ、このような席を用意して頂きまして恐縮です」
「たいしたもてなしはできませぬが、楽しんでくださいませ」
みんなの席に木製の杯が配られ、葡萄酒のようなものが注がれる。ニーニャとさくらのは違う飲み物のようだ。
長のクロジさんが杯を掲げ
「猫姫様のご健勝とケットシーの繁栄を願って。カンパーイ」
「「「カンパーイ!」」」
俺も杯を掲げてから、一気に煽る。
アルコール分は低いが葡萄酒だ。アルコールより甘さが強いので、女性には好まれる飲み物だな。レイアも珍しく美味しいと言っている。
「ルーク殿。失礼だが猫姫様の紹介をして頂けないだろうか?」
当然だな。長老達は皆、さくらを見ている。傍から見ればそうなるわな。
「これは失礼しました。遅ればせながら紹介致します。こちらが猫姫ニーニャです」
「あーい!」
「隣に居りますのが、ニーニャの母親のレイア。私の前に居ますのがニーニャの姉のさくらです」
「よろしくお願いします」
「ミャー」
酒宴の席の長老方、並びに多くの観衆の時が止まり静寂がよぎる。三獣士のにゃーにゃーが異様に響いている。
どの位時間が経っただろう。ニーニャの前にあった山盛りの木の実が半分以上なくなった頃。最初に立ち直ったのは長のクロジさんだった。
「な、なんとも愛らしい猫姫様ですな」
その一言がきっかけとなり、止まっていた時が動き出した。
その後は何気ない話が進んだが、そろそろ本題に入ろう。ケットシーの方々も聞きたいだろうしな。
「そろそろ、皆さんの聞きたい話をしたいと思うのですが、ニーニャの退席をお許し願えませんか? どうやらケットシーの子供達と遊びたがっているようでして」
「これは失礼した。確かに猫姫には退屈でしたでしょうな」
「ニーニャ。みんなと遊んできて良いよ」
「あい!」
レイアには一緒について行ってもらう事にした。アメ玉も一杯持たせておく、後で絶対に必要になるだろう。ニーニャのお仕事がね。
「さて、結論から言いますと、自称魔王とは話が着きました」
「どう言う事でしょうか?」
ここでもランツェが自称魔王名乗るいきさつにこれまでの経緯、部下の独断専行による不始末を語って聞かせる。
話終えると長老達は話し合いを始めた。
時間がかかりそうなので、三獣士を呼んでお土産に用意した大量の鮭とばを配るように指示する。
「こ、これはなんにゃー!」
「我々もまだ食べた事がないものだな」
「なんて高貴な香りですわ」
「……(ダラダラ)……」
「焙って食べるも良し。だが、一番のお勧めは、我慢して我慢して噛み続けると至福がやって来ると教えるんだ」
暇していたさくらにも少し切って、おすそ分けしたら涙を流して喜んでる。さくらもすぐ飲みこんだら駄目だぞ。噛めば噛む程、美味しくなるからな。そこを日本酒できゅーっといくのが最高なんだよなぁ。
鮭とばを焙る匂いもしてきた。話し合いをしていた長老達も、鮭とばの匂いにやられ話し合い所ではなくなっている。
長老達にも焙った鮭とばが配られている。皮の部分が多いな、なかなか通だ。焙ると皮もいけるんだよ。これが。
「ウォホン。少し質問しても良いかね?」
「どうぞ、好きなだけ聞いてください」
「ランツェ殿が魔王と戦うと言うのはわかるのだが、ゾディアックと戦うと言うのは私怨からかね?」
「それもひとつの理由ですが、本質は違います。ゾディアックはあなた達が思っているような、清廉潔白な者達ではありません。真逆のとても俗物的な、支配欲にまみれた者達です」
「しかし、彼らは使徒様の眷属ですぞ?」
「時が流れれば変わるものも多くあります。ですが、彼らについては神代の時代から余り変わってないと、別のエンジェール族から聞いています。使徒が天界に帰った後に、自らこの世界の調停者と名乗ったのが良い例です」
「だが、我々は先の魔王との戦いでも共に戦ったのだぞ」
「確かにケットシー族などはこの世界を憂いて、魔王と戦ったのでしょう。しかし、彼らは自分達の利益の為に戦い、その利益を守る為に他の善良な種族を利用しただけです。現に多くの種族は後にゾディアックに迫害を受けています。ケットシー族とてそうでしょう?」
「……しかし」
仮にも使徒の眷属、信じたくないと言う気持ちもあるのだろう。長も言われなくともわかっているのかもしれない。本来なら職場が良い……もとい、食馬解囲となるべきなのだ。しかし、全くの音沙汰なし。
「猫姫ニーニャの母親はゾディアック一族の出です。それも、ヴァルゴ オブ ゾディアックの娘です。しかし、彼女は一族のやり方に疑問を持ち、離縁どころか離反して行動しています」
「……考える時間が欲しい」
「余り時間はありませんよ」
「どう言う事かな?」
「近々、ゾディアックからランツェ討伐の檄が飛びます」
「魔王討伐なら当然ではないのかね?」
「それが単なる隠れ蓑だとしたらどうですか?」
長老達に今北方で起きてる事を聞かせた。そして疑問に思っていた事も聞いてみた。
何故、ケットシーは北方での出来事を知らないのかと言う事だ。好奇心旺盛で世界に散らばっているケットシーの情報収集力があれば、知っていてもおかしくないはずなのだ。
「そんな事が起きていたとは……」
「ゾディアックが元々狙っていたのは自称魔王の方です。それを、我々が第十三魔王に自称魔王が敗れたと仕立てあげた事により、標的が第十三魔王に変わったのです。ですが、北の魔王の話は全く出てこない。隣国の事ですよ。次に狙われるのはこの国と誰もが考えるはずです。その事を公表しないのは……」
「しないのは?」
言うべきか、言わないべきか、さて、どうしようか?
流石に証拠も無しに次の事を言ったら、穏やかなケットシーでも怒られそうだ……。
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