128 弟子とにゃんこの力の差

 デルタに珊瑚に囲まれし島ににゃんこ共とレベル上げに行くから、ニーニャの護衛してくれと頼みに行った。


 最初は不審な顔をしていたが、ニーニャが抱きつくと相好を崩した。更にニーニャを抱っこしやすいように鎧まで脱ぎやがった。やはり子供好きだとみた。


 珊瑚に囲まれし島の宿にふたりを迎えに行くと、周りから注目された。ニーニャとにゃんこ共は目立つからな。



「「師匠、おはようございます」」



 リンネは俺に頭を下げたが、ユウはデルタに頭を下げた。勿論、こめかみをグリグリしてやった。乗った時は靴を脱げ……もとい、逢った時は笠をぬげと何度言わせる。馬鹿弟子が。


 その間、ニーニャはムウちゃんに抱きつき、リンネはにゃんこ共にハグしていた。ちなみにうさ子は修行の旅に出ていると言ってある。



「ドンドン、パフパフ! 今日は迷宮の攻略をする。リンネ、ユウ組と三獣士組に分かれ、モンスターは交互に戦いボスはレイド戦でいきたいと思う。質問は?」


「バナナはおやつに入りますか?」


「ユウちゃん。良い質問だね。もう一度小学校に入ってやり直してこい! 馬鹿者が! 次」


「カリカリはおやつに入る……にゃか?」


「デルタ。帰ったらミケに特別プログラムで、足腰が立たなくなるまで訓練を付けてやれ。カリカリの有難味を知るだろう」


「……承知した」


「にゃー! にゃんで自分だけでござるにゃー」



 特に質問はないようなので迷宮に入る。


 この迷宮に出てくるモンスターのレベルは二十台なのでリンネとユウには問題ないだろう。にゃんこ共はまだレベルが二十に達していないので丁度良い相手だ。


 最初はリンネ、ユウ、ムウちゃんに俺だ。



「おっしゃ! こんな奴ら瞬殺だぜ!」



 最初に遭遇したのは定番のゴブリン三匹。レベルが高いのでルグージュ周辺に居る個体より精悍な顔をしていて体もがっしりしている。でも、醜い。


 俺は光属性スキル上げの為に、攻撃に光属性を付加して木の棒で叩いている。ダメージはほとんど与えていない。ゴブリンにして見れば嫌がらせにしか思えないだろう。現にツバを吐きながらギャーギャー喚いている。


 他のメンバーはと言えば、駄目駄目だな……。レベルが相手より高いせいか、強引な力押しでセンスの欠片もない。ユウは剣で殴り合い。ムウちゃんはHit & Awayというより、相手を殴った後ユウかリンネの後ろに隠れている……。その為、リンネがゴブリンに蹴りを入れている。一応、魔法職だったよな?


 格下のゴブリン相手に結構な時間が掛かった。



「駄目だなこりゃ。何故こうなった?」


「「「……」」」


「連携の取り方、教えたよな……」


「「……はい」」


「ムウちゃんも酷いな、うさ子が泣くぞ」


「キュピィ……」


「予定変更。この後はにゃんこ共だけで進める。お前達は見学だ。言っとくがにゃんこ共は強いぞ。ちゃんと見ておけ」


「そんなに褒めても何も出にゃいでござるにゃ。カリカリ食うにゃか?」


「ルーク殿は良く見ておられるな」


「ご期待に添わねばなりませんわ」


「……イエス、ボス」



 カリカリいらねぇーよ。


 先頭をチェンジして先に進むとジャイアントラット五匹が出てきた。猫にネズミなんて……一瞬、ネズミにおちょくられているトムくんが脳裏に浮かんだ。にゃんこ共、俺の不安を払拭するんだ、油断するなよ。


 正直、戦いは見事と言う言葉しか出てこなかった。


 一緒に訓練はしていたが、四人一緒に戦う姿は初めて見た。


 ミケとタマが五匹をけん制している。格上相手に二人で五匹を手玉に取っているのは圧巻だ。チロは魔法を覚えたので後方で魔法を使って援護にまわる。猫魔法の幻術やアクアバレットを効果的に使用して相手の動きを阻害。止めはトラだ、ファル師匠に教え込まれたそのパワーを活かした剛拳。一撃でジャイアントラットが消えていく。


 リンネ達とどちらが格上ですかと聞かれたら、三獣士と答えてしまうだろう。それくらい良い動きだった。


 ニーニャはニコニコしながらパチパチ手を叩いて喜んでいる。リンネ達は愕然とした表情だ。良い見本となってくれたな、にゃんこ共は。


 その後も危なげなく順調に迷宮を進んでいく。驚いたのが宝箱の罠と鍵を猫魔法で解除できた事だ。猫魔法、万能過ぎるだろう。トラも覚えられたのだから、俺も何とか覚えられないかな? 将来、ニーニャが覚えそう……。


 ボスエリアの前まで来たが、時間的にお昼に丁度良いので昼食タイムにする事にする。


 ニーニャはさっそくアメ玉を、みんなのお口の中に入れて回っている。



「おいちーにゃ」


「猫姫自ら頂けるとは光栄です」


「私の回復魔法などより効果的ですわ」


「……(コクコク)……」



 みんなにお弁当を配る。から揚げ弁当にニーニャにはデミオムライスだ。ニーニャは何故かデルタの膝の上で食べるようだ。



「デルタ悪いな」


「……構わぬ」



 そう言いながら、ニーニャのお口に付いたデミグラスソースを拭いているデルタ。日曜に公園に居る親子のようだ。


 もしかしたら、生前に子供でもいたのかもしれないな。聞いてみたいが過去は捨てた、と言い切ったデルタが喋る訳ないよな……。


 にゃんこ共はから揚げ弁当に有頂天状態。トラ用に五つ持ってきている弁当のから揚げの取り合いが始まっている。


 それに比べてこいつらは……。


 リンネ、ユウ、ムウちゃんはお通夜状態。



「師匠。私達はどうすれば良いのでしょうか?」


「こんなハズじゃあなかったのに……」


「キュピ……」


「まず、飯を食え。お前達は明日からイノセントハーツの砦で訓練だ」


「訓練ですか?」


「いつもは朝食前に訓練してるが、当分は朝食後にイノセントハーツの練兵場でお前達を交えてやる。練兵場の予約はさっきしておいた」


「みんなと一緒ですか?」


「にゃんこ共はいつもやっている。ファル師匠にデルタとで、みっちりしごいてもらうから安心しろ」


「やった。デルタ師匠に稽古をつけてもらえる!」


「そう言っていられるのも今のうちでござるにゃ……」


「あれはきついからな……」


「レディーに対しても容赦ないですわ……」



 しみじみと、実感の沸いたお言葉でありますな。ニーニャの親衛隊なのだから弱くてどうするよ。強くなるのだ、にゃんこ共よ。


 食事が終わったのでボス戦を開始。ボス戦は予定通りレイド戦で挑戦することにした。ニーニャとデルタはここで待機だ。


 ボスエリアに入るとレベルが三十台のストーンゴーレム二体に、マッドプラント十体が出てきた。



「ボスは任せろ。草の方を頼む」


「任せるでござる」


「草には炎が良く似合う」


「タマ、やり過ぎ注意ですわ」


「……(コクコク)……」


「俺達も行くぞ!」


「はい」


「キュピッ!」



 マッドプラントはウネウネして、たまに触手のようなものを伸ばして攻撃してくる。


 面倒な雑魚は任せてストーンゴーレムで訓練の成果を試す時。


 健脚、回避スキル、相手の攻撃を躱しながら内功スキルで氣を練る。発頸には寸勁などと言う技法もあるが、俺にはそんな高等技術はまだ使えない。リアルで発頸について調べたがよく理解できなかった。


 力ではなく、頸(運動量)を発生させ、接触面まで導き、作用させる、とあった。頸と言う概念がわからないので氣に置き換え、全身の重心移動を一点に意識する事で発生させる。


 ストーンゴーレムの懐に入り込み、下半身の踏ん張り、上半身の回転、考えたらキリがないが、それらの動作で生まれる力を一点に集め作用させる。


 ゴガァーン! の音と共にストーンゴーレムの腹部に大きな穴が開き崩れていく。まさに一撃必殺。失敗すれば只では済まない。この動作を確実にできるようにするのが課題だ。



『【珊瑚に囲まれし島】のボスが討伐されました』



 結果的に圧勝だったが、一度失敗してストーンゴーレムの痛恨の一撃を喰らい瀕死になったのはお約束だ。


 これで迷宮三つクリアだ、それとも二つなのかな? 七つまでは長い道のりだな。




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