127 やきもち焼いても家焼くな。

 ランツェを追い出し、部屋でお茶を飲んでるとファル師匠がやって来た。



「どうであった」


「はい。上手く手打ちにする事ができたと思います」


「詳細は?」


「にゃんこ共が来ましたらご説明します。それから王都の魔法屋のばあさんが、ファル師匠に茶を飲みに来いと事付けを預かってます」


「なんだと! ルークよあの方がどのような御仁か知っておるのか?」


「はっきりとは教えてくれまでんでしたが、勇者と一緒に戦った賢者と推察しています」


「知って尚、ばあさんか……」



 そこですか、ファル師匠。もしかしてファル師匠もバーンってやられたのかな? あのばあさん、誰それ構わずやってんな。余程、年の事言われるのが嫌いとみえる。あれ? 背筋にゾクっと悪寒が……。ハハハ……まさかね。


 少しして、にゃんこ共も起きて来た。いつもなら修行の時間だが、状況を知りたいだろうから話をしよう。



「結果から言うと、ちょっとした食い違いが原因だった」


「どう言う事じゃな」



 自称魔王ランツェの生い立ち、魔王を名乗ってる経緯と目的、ケットシー族に対しては脳筋な部下が勘違いで起こした事を説明。



「良い奴にゃったのでござるにゃ」


「本来なら手を取り合っていたかもしれないな」


「悲しい出来事だったのね……」


「……脳筋馬鹿」



 おぉー。珍しくトラが主張したよ。余程腹立たしく思ったんだろう。しかし、ケットシー族って純粋な奴らだな。全て信じ込んだようだ。嘘は言ってない、まだね……。こんな種族だから悪い奴らから守ってやらないといけない。何と言ってもさくらの眷属だからな。



「それで、どう手打ちにしたのじゃな」



 そう、問題はこの方だ。この方を納得させないと敵に回ってしまう。



「ランツェは北の魔王の動向を探っていた様です」


「北の魔王じゃと!」


「幾つかの国が魔王の支配下にある事を掴んだと言ってました」


「馬鹿な! そんな話を信じろと!」


「蛇の道は蛇と言いますからね。それより、おかしいと思いませんか?」


「なにがじゃ!」



 ファル師匠はご機嫌斜めのようだ。どうも魔王絡みになると一直線になると言うか……。



「北方と言えどほぼ隣国ですよ。この国に噂すら流れていない。ゾディアックは何を考えているのでしょうか?」


「意図的に隠してると申すか?」


「それ以外考えられません」


「うむー」



 ファル師匠は考え込んで動こうとしない。


 しょうがない、ファル師匠抜きで修行を始めますか。


 小一時間、デルタに俺とにゃんこ共は絞られた。デルタ先生、鬼です。



「朝飯にするか」


「「「「めし~(ですわ)」」」」



 ダラダラ涎を流している。パブロン……もとい、パブロフの犬ですか? あなた達にゃんこでしょう。全く。


 部屋に戻るとファル師匠は居なかった。が、朝飯はしっかり五人前食べて行ったそうだ。ゼータ談。


 何故か、ひなさん達も朝食を取っている。まあ良いけどね……。


 しかし、毎度の事ながらにゃーにゃーと朝から騒がしい朝食タイムだ。


 ニーニャはニコニコ、さくらは我関せずって感じだから良いのか……良いのだろうか?


 朝食後にレイアとひなさん達に昨夜の事を説明した。にゃんこ共はさくらとニーニャと、いつの間に作ったのか秘密基地に行ったそうだ。ゼータ談。




「それでどうするの」


「何もしませんよ」


「北に魔王がいるんだろ。何とかしないと」



 これだから正義感の強い奴は……面倒臭せぇー。



「じゃあ。兄貴行って倒してくれば良いじゃん。あたしはパスね」


「私もー忙しいしぃー。パス」


「さくらちゃんはどこに行った?」


「よし! 盛大に送別会を開いてやるぞ。思う存分、ってこい!」


「何故! 送別会?」


「倒せると思わないし、戻って来ても余計な事をしたって、はつけに合うぞ」


「はつけ?」


「仲間はずれにされるって言う、仙台弁」



 つい、方言が出てしまった。なるべく標準語で喋ろうと心掛けているが、関東以南の人と話すと、なまってるねと言われる時がある。俺などより更に理解できない方言を使ってる奴ほど、言ってくるのは何故だろうな。関西人が特に。



「何で仲間はずれにされるんだよ!」


「兄貴……。頭悪過ぎ」



 イベントでもクエストでもない。そもそも北方ってマップ解放されてるの? 北方に攻略組って行ってるのかね。それも調べてみないといけないな。そんな場所でイベントでも起こされたら、たまったもんじゃない。イベント失敗確実だな。


 騒いでる奴らはほっといて。リンネとユウを迎えに行こう。ついでににゃんこ共のレベルUPもしようか。



「レイアは今日はノインスかな?」


「はい。孤児院を建てる場所を商業ギルドと話をしたいと思います」


「にゃんこ共は借りて良いかな。さくらはどこかな?」


「秘密基地だと思います」



 そう言ってレイアは部屋の角を見た。小さい扉がある。い、いつの間に……。


 扉を開けて四つん這いになって入って行く。芝生の絨毯だ。結構広い。



「良い場所だな。お昼寝には最高じゃないか」


「ミャッミャー!」



 珍しくさくらが怒っている。秘密基地に入って来たのが悪かったみたいだ。部屋に戻ってくるように言って退散した。しかし、トラの奴よく通れたな。



 しばし待ってると、みんな出てきた。トラは予想通り入り口でつっかえている。



「にゃんこ共を連れて迷宮に行こうと思ってる。レイアの事、さくらお願いできる?」


「ミャー」



 よし、じゃあ出掛けようか。と思ったらニーニャが難しい顔をしている。怒ってるのかな?



「ニーニャも行きたいんだと思います」


「ニーニャ。そうなの?」


「あーい!」


「うむー。自分もスキル上げしたいんだよな。デルタも連れて行くか。レイアはそれで良い?」


「デルタさんなら安心です」



 その心から信頼してますので、ってのにジェラシーを感じてしまう。


 意味もなくレイアを抱きよせ、しっかり抱きしめてしまったよ。


 俺って結構やきもち過ぎ?




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