126 守る事と捨てる事

 オールの部下、シルト。何故、自分が呼ばれたかわからないと言った表情をしている。顔が腰の所にあって結構うざい。どうしても癖で普通、頭のあるある場所を見てしまうからだ。



「如何なされました。ランツェ様」


「貴公にケットシー族の事を任せたと思うが、どう対処をした?」


「ケットシー族は有用な種族、我らが軍勢の先兵には持ってこいの者達です。手っ取り早く軍門に下らせる為、兵糧攻めをおこないました。いま少し時間があれば軍門に下らせられた事でしょう」



 ランツェは天を仰いでいる。信頼していた仲間に裏切られるその気持ち、わかるぞ。何度も経験してるからな。



「これも全ては私の不徳の致すところ。私の身はどうなっても良い。部下達は助けて頂けないだろうか……」



 うむー。どうするべきか……。ここまで聞くと消滅させるには惜しい。


 ふむ。ひとつ面白い考えがある。あるのだがどうしようか。駄目元で言ってみようか。



「お前は今の魔王とゾディアックが嫌いだな?」


「憎いと言うべきだろう」


「ならば、一矢報いたいと思っているな?」


「当たり前だ」


「ならば我が軍門に下れ、望み通り戦わせてやる」


「どう言う意味だ?」



 おっ、少し興味を引けたようだ。ここは一気に畳みかけるべきだろう。



「お前を第十三魔王にしてやる」


あるじ殿、どう言う事ですかのう?」


「こいつをさくらの影武者にする。今日の事は遅かれ早かれ噂は流れる。なればその噂を利用する。さくらが第十三魔王と知るものは少ない。なのでこいつを第十三魔王に仕立て上げ、さくらを隠す」


「人身御供か……」


「人聞きの悪い事言うなよ。ちゃんと支援はする。するというより、こちらが仕切る。二百年もあって成果を上げられない奴に任せられんからな」


「傀儡の魔王ですかのう……」


「それが近いだろう。ある程度の裁量は認めてやるが、重要案件の決定権は持たせない。そこのデュラハンのような馬鹿者が出ないように規律も守らせる。代わりに魔王とゾディアックと死ぬ程戦わせてやる。まあ、お前達はもう死んでるがな」


「酷い言われようだ。だがそれで魔王やゾディアックに一矢報いれるなら、そなたの軍門に下ろう」


「ランツェ様! くっ……」


「勘違いするな。何度も言うが真の主は他に居る。明日会わせてやる」


「承知した」



 粉砕したランツェの軍勢は既に復活している。ここに居られても困るのでランツェの拠点に帰ってもらう。そしてケットシー族からは即刻手を引くように厳命した。ついでに、他にも同じ事がおこなわれていないか調べるようにも言っておいた。


 デュラハンのシルトはランツェと残ると言ったが、煩いので無理やり帰す。お前が残りの奴らをまとめろと言ったら、なんだわかってるじゃないかなみたいな顔をしやがって、ムッときたのでギリギリ当たらないようにレイバーストを撃ちこんでやった。


 首を忘れて逃げてった姿を見れて気が済んだので、勘弁してやろう。


 降魔神殿に戻り、取り敢えず朝までデルタにランツェを見張ってるように言い、クリスタルの部屋に向かった。



「圧勝だったようでございますね」


「呆気ない程にな」


「私の手の者が、幾人かの密偵を処分しました。全て排除はしきれておりません」


「だろうな。別に構わない。今回の事は元々、利用するつもりだった。少し修正が入ったがな」


「如何しますか?」


「噂はそのまま自称魔王が第十三魔王に敗れたで良いが、少し付け加える。第十三魔王の名前はランツェってな」


「お嬢様の隠れ蓑ですか……すぐに手の者を動かします」


「頼む。せっかく手に入れた駒だ、大いに役立ってもらおうじゃないか。お互い利がある話だしな」


「動きだしますでしょうか?」


「さあな。動くかまでは、わからないが、どちらも慌てるだろう。そうすれば、少しは見えてくるはずだ」


「この世界の本当の姿でございますね……」



 一旦、ログアウトし、翌朝は早めにログインした。


 部屋にはさくらは居ない。


 ゼータにさくらはどこにいるか聞くと、ニーニャと一緒らしい。ニーニャと一緒という事は、レイアの部屋だ。流石に自分が行くのは憚られるので、ゼータにさくらを連れてくるように頼んだ。


 しばらくして、ゼータがさくらを抱いて戻ってきた。



「さくら、ごめんな。朝早くから」


「ミャー」



 さくらに昨夜の結果と、ことの経緯を話す。ランツェには頑張って第十三魔王を演じてもらわなければならない。その為にもさくらの配下になってもらう必要がある。


 ランツェの居る大広間に向かう。デルタはいつも通り椅子に座っている。ランツェはその横に立っていた。



「そちらのお方が魔王様か?」


「ミャー」


「そうだ。第十三魔王さくらだ。お前はさくらに忠誠を誓い、さくらの影武者となる」


「何故、表舞台にお立ちにならない?」


「さくらは権力や支配と言ったものに興味がない。争い事や血生臭い事も好きじゃない。だが12の魔王やゾディアック相手となれば、そうも言っていられない。その為の影武者だ」


「私に代わりに血を流せと」


「そうだ。お前の役目はさくらの代わりに血や泥を被る事だ。代わりに戦いのお膳立てをしてやる。望み通りに好きなだけ殺し合え」


「……承知した」



 さくらをゼータから抱き受け



「ランツェ。魔王様の御前だ跪け。魔王様が新たなる力を授ける!」


「ハッ!」



 確信は無いが、おそらく進化するだろう。ワザと誇張してさくらを魔王として大きく見せる演技だ。ちょっと恥ずかしい……。デルタは理解してるようで、口元を吊り上げている。


 さくらを後ろから抱き上げ、ランツェに近づける。テッシっと肉球パンチをランツェの頭にお見舞する。



『条件をクリアしました。強制クラス進化します』



 予想通り、ダークデュークに進化した。



「これが……新しい力」



 ランツェは自分の手を見つめている。



「何か言う事忘れてないか?」


「ハッ!……我が剣を主に捧げん」


「当面は元の拠点で情勢を見ていろ。後はこちらから連絡する。他の魔王に関しての情報は持っていないか?」


「北の小国群が徐々に魔王の軍門に下っている模様です。全ての国が下るのも時間の問題かと」


「隣国が魔王に下っている? 情報が入って来ないのか? 隠蔽しているのか? 或いは……仮にも使徒の眷属。まさかな……」


「……どう動くつもりだ?」


「どうもこうも、今は動くつもりはない。北の国々が魔王に平定されるならそれで構わない。平定されまとまった所を掻っ攫うだけだ。なんて魔王か知らないが、頑張って国々を滅ぼして欲しいものだな」


「国を起こすのですかな?」


「他の魔王にくれてやるのは癪だからな、一旦、平定してもらい魔王の治世を敷いた後に、出向いて奪えば我々は英雄だろ? あなた達について行きますって事になりうる可能性大だな」


「き、貴殿はそれでも人間か! 多くの罪の無い命が犠牲になるのだぞ!」


「甘いな……だから二百年もあって何もできないんだよ」


「ぐっ……」


「戦争なんだ。犠牲が出るのは当たり前だ。ならば、少しでも効率の良い戦い方をする。そうすれば、結果的に犠牲は最小限になる。今、北方に行って戦争してみろ、三つ巴の泥沼化するぞ。それこそ多くの血が流れる。それなら魔王に頑張ってもらって、さっさと一つの国にまとめ上げてもらい、内紛が起きるように促して美味しい所を掻っ攫えば犠牲が少くなくてすむ。余計な者共も一緒に消せて、尚良しだ」



 今の我々は、後百より今五十状態だ。他に手を出す余裕などない。他の魔王が我々の為に下準備してくれると言うなら、ありがたくやって頂く方が懸命である。



「しかし、その間にも虐げられる者が多くいるのだぞ!」


「だから甘いと言っている。虐げられる者が多ければ多い程、こちらはやり易くなるんだよ」


「……」



 ランツェは納得がいかないと言った顔をしている。


 気持ちはわかる。わかるが、それを捨てでも守らなければならない者達が居る。過去のランツェはそれを捨てられなかったのだろう。


 そして、全てを失った……。


 用は済んだ。さっさと帰りやがれ。




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